ビニールハウス栽培における土壌水分センサーの利用について

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日本では、トマトやいちご、なす、きゅうり、メロンなどの果菜類を中心にビニールハウスを使用した農業生産が行われています。この記事では、ビニールハウス栽培における土壌水分センサーの利用について解説していきます。

目次

1.ビニールハウスとは

2.土壌水分センサーの利用について

3.SenSprout Proセンサーシステムと高機能ビニールハウス

4.まとめ

1.ビニールハウスとは

ビニールハウスとは、農業用に開発された専用のビニールやパイプを使用してつくる栽培施設のことを指します。

季節や天候、気温など外気の影響を受けないことが特徴で、日本では果菜類や葉物類を中心に多くの農作物がビニールハウスで栽培されています。

日本で使用されている規格の単位は「間(けん)」で「1間=約1.8m」をベースに、「間口×奥行」で設計されています。

(例:2間×3間=約3.6m×約5.4mなど)※別途特注品もあり。

ビニールハウス栽培のメリットは以下の通りです。

ビニールハウス栽培のメリット

・天候の影響を受けずに農作物を栽培できる。(収量・品質の安定化)

・季節の影響を受けずに農作物を栽培できる。(通年栽培による高付加価値化)

・病害虫の被害を最小限に抑えることができる。(農薬購入コストの削減)

・雑草の発生を最小限に抑えることができる。(除草作業の軽減)

2.土壌水分センサーの利用について

ビニールハウス栽培で最も重要な作業になってくるのが農作物の水管理です。

日本の生産者の中には、潅水制御装置を用いて農作物の水やり作業を計画的に行っている生産者がいますが、農作物の成長に必要な水分量を判断するためには、土壌に含まれる水分量を正確に知る必要があります。

1)土壌水分センサーの種類

土壌水分センサーには、大きく分けて2つのタイプの製品があります。

土壌の誘電特性を利用したタイプの土壌水分センサー

土壌の誘電特性を利用したタイプの土壌水分センサーは、「土壌を構成する水・空気・土粒子の3要素の中で比誘電率が最も大きい水が土壌全体の比誘電率を決める」という性質を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーで、TDR方式、TDT方式、WCR方式、ADR方式、キャパシタンス方式など様々な種類があります。

・TDR方式(Time Domain Reflectometry ※時間領域反射法)

TDR方式は、土壌に埋設した金属ロッドに流したマイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

1970年代にカナダで開発された測定方式で、誘電特性から土壌水分を測定する方法の元祖といわれています。

・TDT方式(Time Domain Transmission ※時間領域透過法)

TDT方式は、TDR方式と同様、マイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

違いは、U文型にループしたセンサー部で、片側から照射したマイクロ波が検出器に戻る時間を計測します。その形状から土壌に埋設して使用することは難しく、耕起直後の作土層や砂地でしか使用できない特徴があります。

・WCR方式(Water Content Reflectometer ※含水率反射率計)

WCR方式は、金属ロッドに流したマイクロ波が反射して戻る回数を基に土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

通常より太く設計されたセンサー部が特徴で、メーカーが作成した校正式を基に計算した値のみを出力します。

・ADR方式(Amplitude Domain Reflectometry ※振幅領域反射法)

ADR方式は、TDR方式・TDT方式・WCR方式と同様、土壌の誘電特性を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

他の方式と比較して「土壌の電気伝導度の影響が少なく、測定精度も高い」というメリットがありますが、高額な製品が多く、他の方式でも十分な精度で測定できるようになったため、国内での使用があまり報告されなくなりました。

・キャパシタンス方式(静電容量方式)

キャパシタンス方式は、電圧をかけたセンサー内のコンデンサーで計測した静電容量を基に土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

「静電容量は比誘電率の影響を受ける」という性質から、TDR方式等と同様、土壌の誘電特性を利用した土壌水分センサーとして知られています。

マトリックポテンシャルを利用したタイプ

マトリックポテンシャルを利用したタイプは、「土壌が水分を吸収する力(マトリックポテンシャル)」を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。テンシオメーター方式と呼ばれる製品を中心に様々な種類の製品が発売されています。

・テンシオメーター方式

テンシオメーター方式は、ポーラスカップと呼ばれる素焼きのカップを使用した土壌水分センサーです。

センサー周辺の土壌水分が、マトリックポテンシャルによって吸収されると、テンシオメーターに充填した水が外部に吸引される仕組みを利用して土壌水分量を測定します。

「水は通すが空気は通さない」という性質を持つ素焼きカップ内の水圧を測定すれば、その土壌のマトリックポテンシャルを知ることもできます。

・キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式

キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式は、キャパシタンス式土壌水分センサーのセンサー部に素焼きの板をサンドイッチした土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性をマトリックポテンシャルに換算してくれるのが特徴で、テンシオメーターが苦手な乾燥土壌の測定にも向いています。

2)ビニールハウス栽培における土壌水分の変化

ビニールハウス内の土壌水分量は、日射量や気温、湿度など外気の影響で大きく変化します。

東京農業大学大学院農学研究科と東京農業大学地域環境科学部が共同で行った研究では、露地栽培と比較して潅水作業が土壌の含水率に大きな影響を与えることを確認。深さ55cm程度の土壌であれば潅水作業をした翌日でも多くの水分が残されていることが判明したそうです。

参考文献

「ビニールハウスにおける土壌水分及び施設内気象の変化 」

http://soil.en.a.u-tokyo.ac.jp/jsidre/search/PDFs/05/05002-14.pdf

3.SenSprout Proセンサーシステムと高機能ビニールハウス

当社では、土壌水分センサーとビニールハウスに関連した2つのソリューションを展開しています。

1)SenSprout Proセンサーシステム

当社が開発したSenSprout Proセンサーシステムは、インターネットを利用して土壌水分を遠隔から測定するキャパシタンス方式(静電容量方式)の土壌水分センサーです。測定したデータをグラフ化して共有する機能や土壌水分の変化を通知する機能も備えています。

・SenSprout Proセンサーシステム

2)高機能ビニールハウス

高機能ビニールハウスは、耐候性(耐風・耐雪)に優れた高機能なビニールハウスです。通常のビニールハウスでは行わない構造計算を実施して設計するのが特徴で、一般社団法人日本施設園芸協会の「低コスト耐候性ハウス」の認証基準(耐風圧50m・耐雪圧50cm)もクリアしています。

当社が開発したSenSprout Pro 潅水制御システムを使用すれば、インターネットを利用して潅水作業を遠隔から制御することも可能です。

・高機能ビニールハウス

・SenSprout Pro 潅水制御システム

SenSprout Proセンサーシステムと高機能ビニールハウスの2つを使用して行った実証実験では、ベビーリーフの1種であるミズナを対象に、収量と生育日数の比較を検証。1か月当たり最大306%(7月)の収量アップを確認することができました。

4.まとめ

ビニールハウスは、高収益な農業生産を実現する重要なツールのひとつです。ビニールハウス栽培で土壌水分センサーを使用する際にはぜひこの記事を参考にしてみてください。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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