土壌水分センサーの原理とメカニズム

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土壌水分センサーは、土壌に含まれる水分量を測定する装置です。

土壌水分センサーには、大きく分けて土壌の誘電特性を利用したタイプの製品と土壌水分の保持力を示すマトリックポテンシャルを利用したタイプの製品の2つがあります。

どちらのタイプもセンサー部を地中に埋没して使用するのは同じですが、原理やメカニズムに大きな違いがあります。

この記事では、農研機構の農村工学研究部門が2017年12月に発行したメールマガジンの内容を参考に、土壌水分センサーの原理とメカニズムを解説していきます。

目次

1.農研機構とは

2.土壌の誘電特性を利用した土壌水分センサー

3.土壌のマトリックポテンシャルを利用した土壌水分センサー

4.まとめ

1.農研機構とは

農研機構は、農業・食品分野の研究を専門に扱う国立の研究機関です。

研究する内容は、基礎技術から応用技術までと幅広く、近年は、「食料の自給力向上と安全保障」、「農業・食品産業の競争力強化と輸出の拡大」、「生産性の向上と環境保全の両立」の3つを目標に、農業・食品産業における「Society 5.0」の実現に向けた取り組みを推進しています。

土壌水分センサーを使用した研究も数多く行っており、柑橘類の栽培を対象に土壌水分センサーの利用方法を示した「カンキツ用簡易土壌水分計利用マニュアル」など、実際の利用に向けた研究成果の内容も公開しています。

農研機構「カンキツ用簡易土壌水分計利用マニュアル」

https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/059812.html

土壌に含まれる水分量は、土壌表面に現れる色や手の感触で判断することができますが、表面は乾いている様に見えても実際には多くの水分が残っているケースがあります。

農研機構の農村工学研究部門は、土壌水分量を測定する最も確実な方法として、「土の重さを測定し、105℃~110℃のオーブンで重さが変わらなくなるまで1~2日程度乾燥させた後、重さを測定する方法」を挙げている一方で、土壌を採取する際に農作物の根を傷つけてしまうリスクや測定に費やされる時間的負担の軽減から土壌水分センサーを使用した測定方法を推奨しています。

2.土壌の誘電特性を利用した土壌水分センサー

土壌の誘電特性を利用した土壌水分センサーは、「土壌を構成する水・空気・土粒子の3要素の中で比誘電率が最も大きい水が土壌全体の比誘電率を決める」という性質を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

(参考)

水・空気・土粒子の比誘電率の違い

・水:80程度

・空気:1

・土粒子:25程度

土壌の密度や鉱物組成に多少の変化がある場合でも正確な値を測定できるのが特徴で、TDR方式、TDT方式、WCR方式、ADR方式、キャパシタンス方式など「誘電特性をどのように測定するのか?」によって、いくつかのタイプに分けられています。

1)TDR方式(Time Domain Reflectometry ※時間領域反射法)

TDR方式は、土壌に埋設した金属ロッドに流したマイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

1970年代にカナダで開発された測定方式で、誘電特性から土壌水分を測定する方法の元祖といわれています。

2)TDT方式(Time Domain Transmission ※時間領域透過法)

TDT方式は、TDR方式と同様、マイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

違いは、U文型にループしたセンサー部で、片側から照射したマイクロ波が検出器に戻る時間を計測します。その形状から土壌に埋設して使用することは難しく、耕起直後の作土層や砂地でしか使用できない特徴があります。

3)WCR方式(Water Content Reflectometer ※含水率反射率計)

WCR方式は、金属ロッドに流したマイクロ波が反射して戻る回数を基に土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

通常より太く設計されたセンサー部が特徴で、メーカーが作成した校正式を基に計算した値のみを出力します。

4)ADR方式(Amplitude Domain Reflectometry ※振幅領域反射法)

ADR方式は、TDR方式・TDT方式・WCR方式と同様、土壌の誘電特性を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

他の方式と比較して「土壌の電気伝導度の影響が少なく、測定精度も高い」というメリットがありますが、高額な製品が多く、他の方式でも十分な精度で測定できるようになったため、国内での使用があまり報告されなくなりました。

5)キャパシタンス方式

キャパシタンス方式は、電圧をかけたセンサー内のコンデンサーで計測した静電容量を基に土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

「静電容量は比誘電率の影響を受ける」という性質から、TDR方式等と同様、土壌の誘電特性を利用した土壌水分センサーとして知られています。

3.マトリックポテンシャルを利用した土壌水分センサー

マトリックポテンシャルを利用した土壌水分センサーは、「土壌が水分を吸収する力(マトリックポテンシャル)」を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

「マトリックポテンシャルに負けない力で土壌から水を吸収する」という植物の特性を利用しているのが特徴で、テンシオメーター方式、キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式、電極式ポテンシャル方式など様々な種類があります。

1)テンシオメーター方式

テンシオメーター方式は、ポーラスカップと呼ばれる素焼きのカップを使用した土壌水分センサーです。

センサー周辺の土壌水分が、マトリックポテンシャルによって吸収されると、テンシオメーターに充填した水が外部に吸引される仕組みを利用して土壌水分量を測定します。

「水は通すが空気は通さない」という性質を持つ素焼きカップ内の水圧を測定すれば、その土壌のマトリックポテンシャルを知ることもできます。

2)キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式

この方式は、キャパシタンス式土壌水分センサーのセンサー部に素焼きの板をサンドイッチした土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性をマトリックポテンシャルに換算してくれるのが特徴で、テンシオメーターが苦手な乾燥土壌の測定にも向いています。

3)電極式ポテンシャル方式

電極式ポテンシャル方式は、ナイロン素材など繊維質で包んだ電極棒の中で発生する電気抵抗を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性を利用した方法の普及で一度は廃れましたが、マトリックポテンシャルを利用した方法への応用をきっかけに、その有効性が見直されました。

テンシオメーターと比較して測定の精度は落ちますが、安価な価格とメンテナンスの手軽さから農業現場での活用が進んでいます。

4.まとめ

土壌水分センサーを有効に活用していくためには、土壌水分を測定する基本的原理とメカニズムを知ることが重要になってきます。土壌水分センサーを導入する際には、ぜひこの記事を参考に検討を進めてみてください。最後まで読んでいただきありがとうございました。

※参考文献

農研機構「農村工学研究部門メールマガジン」第93号

http://www.naro.affrc.go.jp/org/nkk/m/93/06-01.pdf

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