エイチアイ株式会社 代表取締役 稲吉 久徳様

エイチアイ株式会社について

大学時代から経営をしたいと考えていた稲吉社長は、若干30歳にて農業・飲食店を開業し、さらに美容業界への進出も検討されています。

なぜ美容?と不思議な印象も受けますが、その根底には農業を起点としたビジネス戦略が構築されています。

今回はエイチアイ株式会社の代表取締役である稲吉久徳様にお話を伺いました。

エイチアイ株式会社

代表取締役 稲吉 久徳様

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Q、エイチアイ株式会社の創立は何年ですか?

A、平成30年8月に創立しました。今年で3年目です。

Q、従業員数(社員とアルバイト数、研修生の数)を教えて下さい。

A、社員が4人、パートと事務が5人、ベトナムからの研修生が11人です。

Q、稲吉社長が農業を始められたきっかけを教えて下さい。

A、元々は自ら経営がしたくて、東京で飲食業をしようと思っていました。しかし父親が亡くなって、実家にビニールハウスと畑が残されました。そのときに「農業も経営だ」と思い、農家になるというより農業経営するために、東京から福岡に帰って就農しました。

Q、稲吉社長の経歴を教えて下さい。

A、大学を卒業したタイミングで父親が亡くなり、福岡に帰ってきました。そこから2年間、遠い親戚が経営している農業法人に勤め、経営などを勉強しました。そして2015年、24歳のときに独立しました。

Q、エイチアイ株式会社の栽培作物を教えて下さい。

A、年間通して小松菜と水菜を栽培しています。季節の野菜は、冬は露地栽培のほうれん草、夏は普通のなすと白なす、きゅうり、露地栽培のオクラとホワイトコーンです。

Q、エイチアイ株式会社の栽培面積を教えて下さい。

A、ビニールハウスが2.5haで、露地が5ha。ハウスは80棟くらいです。

Q、エイチアイ株式会社が農業生産以外で行っている他事業について教えて下さい。

A、レストランとバーをしています。また、子会社の有限会社で野菜の卸売りをしています。

Q稲吉社長が会社を経営する中で最も気になることは何ですか?

A、人材育成です。

エイチアイ株式会社の人材育成について

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Q、エイチアイ株式会社の平均勤続年数はどのくらいですか?

A、約3年です。

Q、エイチアイ株式会社の従業員の平均年齢はいくつくらいですか?

A、29歳くらいですね。

Q、人材育成は上手く行っていますか?

A、上手くいっていると思います。

Q、その理由をおしえてください。

A、うちは育成するというよりは責任感を与えるようにしています。社長に頼らず自分でやらないといけない状況なので、みんな自然と成長していきます。分からないことがあれば、できる人のところに聞きに行きます。僕はそのとき人の間に立つ程度です。

反対にうまくいっていない点は、僕が現場を見ていないので、社員とのコミュニケーションが不足していることですね。僕が見ていなくても、現場はしっかりと回っていますから。

Q、人材募集は行っていますか?

A、募集はしていませんが、働きたい人がいれば受け入れる体制はできています。今、新入社員で農業大学校卒業の女の子が来ています。彼女は求人を出していなかったのに「面接してください」と電話をかけてきました。とても意気込みが合って、実際に作業させても「ここで働きたい」と言ったので採用しました。

Q、人材募集はどのような方法で行っていますか?

A、過去の採用は、基本的に人からの紹介によるものでした。人に恵まれています。

Q、人材採用で苦労されている点について教えて下さい。

A、最初は課題だらけでした。中学校の同級生と3人で立ち上げましたが、コミュニケーション不足で1人辞め、それから今の農場長が入ってきて再び3人でやっていました。しかし、最初からいた同級生がまた1人辞めました。だから少しの間は、農場長と2人でした。そのときは人が足りなくて困りましたね。飲食店の店長も同じタイミングで辞めたので、本当にどん底でした。でも、知り合いを通して経験や知識のある人が集まってきました。農場長も、知識がある分しっかり作業できたので、そのときに「農場長」にポジションを上げました。

また、飲食店には20年間和食を作っていた職人さんが入ってきました。最初は経歴を知らなかったので、僕たちが作る野菜の大変さや思いを伝えるために、2週間現場に入れて、農業の大変さを味わってもいました。そこから店舗に入れると、相当な腕前だったので驚きました。もちろん、野菜の価値もしっかりと分かっています。

僕はあまり現場に入らないようにしていたら、気づいたら農業と飲食業がお互い上手く回っていました。今では僕は現場を離れていて、農場長に一任しています。採用面で苦労がないわけではありませんが、たまたまですが人に恵まれていると思います。

エイチアイ株式会社の販売戦略について

Q、エイチアイ株式会社の農作物の販売先はどちらですか?

A、福岡や久留米の仲卸さんに販売しています。複数の販売先をもっていますが、メインの販売先を作らずに、1社で1/3を超えないようにしています。これは、自分の野菜の価値を知りたいからです。元々1社だけに頼っていましたが、価格が安いと、市場が安いのか僕たちの野菜が評価されていないのかわかりませんでした。価格も販売先に決められていました。「安いからもう少し高く売ってくれ」とも言えませんでした。でも、新しく見つけた販売先は高く売ってくれたので、それ以降は安く販売するところに「このくらいの価格で売ってもらわないと困る」と言えるようになりました。それで売ってもらえないなら、他の販売先を探すだけです。そして、今まさに販売先を増やしているところです。そのときの交渉が僕の仕事ですね。

また、ブランディングにも力を入れています。ただ小松菜や水菜を販売するのではなく、おしゃれに包装して、一目見たら「エイチアイ株式会社の野菜」とわかるようにしています。でも、小松菜と水菜では話題性に乏しいので、「宝石野菜」として販売している白なすで注目を集めるようにしています。白なすは見たことある人が少ないので、人の目を惹き付けます。おかげでテレビ取材に来てもらって、野菜を販売してもらっているスーパーを撮影することになりました。今度、福岡県の経営者の特集番組で取り上げられます。撮影のときにはしっかりと販売促進して、スーパーさんにもメリットが出るようにしたいです。スーパーにお客さんが来れば、僕たちの野菜以外の、他の商材も売れますよね。来店客数を増やして、双方にメリットが出るようにしたいです。

多くの農家さんは安かったらスーパーさん側に『高く売ってくれ』と言いますが、高く売る工夫は農家がしていかないといけません。販売先にどう言ってもらうか、いかにしてお客さんに選んでいただくか、農家側が努力しないといけません。

Q、エイチアイ株式会社は直販されていますか?

A、スーパーで直接取引しているところがあります。紹介をいただいて、販売することになりました。ブランディングを続けた結果だと思います。白なすで興味を持ってもらって、水菜と小松菜も一緒に販売してもらいます。

Q、販売戦略において工夫されていることはありますか?

A、白なすは「宝石野菜」として販売しています。傷モノがたくさん出ますが、価値を出すために絶対に売りません。そして、1個300円以上の価格を付けます。2個入りの箱を5,400円で販売することもあります。そこまでの値段が付くと目立ちますよね。どんな目立ち方をしてもいいと思いますし、目立つことが1番のブランディングです。驚きますよね。エンターテイメント性があります。もちろん食べて微妙だといけませんが、とてもおいしいのです。珍しくて美しい、そして最後に美味しいがくるから、必ずハマってもらえます。白なすは普通のなすに比べて、とろみがすごいのです。現在うちが高値で販売しているので、生産者も増えています。作ってもらえば認知度が上がるので、どんどん生産者が増えればいいと思います。生産者が増えることで、消費者としては本物を探したくなりますよね。僕たちは高い品質のものを、僕たちの希望する価格で販売してくれるところにしか出荷していないので、いずれうちにたどり着いてもらいたいと思っています。

稲吉社長が目指す農業の未来

Q、今後の展開について考えていることを教えて下さい。

A、美容サロンを出します。農業は1次産業だからスタートです。農業発でいろんなことができると見せていきたいですね。飲食業は、安心安全な野菜を届けてお客さんの反応を見ることで、生産現場での品質管理の徹底につながります。レストランのお客さんのうち、女性が7~8割です。野菜を中心とした食事をとることで、体の内面から美しさや健康を意識されている方が多い印象です。だから今度は、お肌などの外見をサポートできたらいいと思います。飲食業と美容サロンは一見関係ないように見えますが、健康や美容に興味がある女性をターゲットにしているので客層が一緒です。美容サロンで「同じ会社がレストランも経営しています」と宣伝すれば、効果もあるのではないかと思っています。ただし、経営形態は分けます。生産はエイチアイ株式会社、飲食業は個人事業、美容サロンは新しく会社を設立します。

大学が東京だったので、コロナがなかったら関東でも農業をしたかったですね。貸農園を作って、消費者と一緒に土に触れる環境を作りたかったです。毎日朝採れ野菜を提供するお店も出したかったですが、コロナで首都圏は厳しくなりました。元々関東に行ってから海外に行きたいと思っていたのですが、今は直接海外で野菜の生産をしていきたいと思っています。うちにはベトナム人で3年の研修が終わって帰国して、また来日してくれた人がいます。もう一度帰国するのですが、それでもまたうちに来たいと言ってくれています。そういった経緯もあり、僕がベトナムで飲食のお店をしたいと言うと、一緒にやると言ってくれました。海外で農業生産を始めようと思ったら、資本金がかかるので、小規模から始めることになります。その点、飲食業は始めやすいのです。僕は、外国人研修生はビジネスパートナーと思って話をしています。研修生は経営が、僕はベトナムの情勢がわかりません。でも5年間も一緒にいると、お互いに信頼関係があります。だから最初は一緒にベトナムで飲食をやりながら、ベトナムの情勢やニーズのある野菜を調べます。そして社会的なことがわかったら、農業生産を始めるつもりです。日本では農業から飲食業に発展していったので、ベトナムでのやり方は日本と逆ですね。ベトナムでは流通管理体制が整っていません。だからいい品質の野菜を作っても、流通の段階で品質が低下します。直接買ってくれる人とのつながりを作ってから、小さく農業生産を始めたいと思っています。

今後の展開はすべてつながっていますが、原点は農業生産です。実は、農業は守られています。事業再構築補助金がありますよね。僕は美容サロンの開業に使おうと思っています。でも、逆は使えないのです。飲食業や美容サロンをしている人が農業に参入する場合は使えないのです。今まで農業は下に見られていましたが、実は守られています。だから攻め放題です。そんな業界だから、夢と可能性があります。いろんな業種がありますが、若手なら別業界から農業に入るのではなくて、農業スタートでいろいろ展開する方がおもしろいと思います。

Q、稲吉社長が考える今後の農業のあるべき姿について教えて下さい。

A、子供のなりたい職業に選ばれるような、かっこいい職業であるべきだと思います。そのためには、農業で経営を成り立たせることが前提です。

Q、稲吉社長から若手農家へひとことお願いします。

A、農業は可能性しかありません。大変ですけど、継続していくことで得られるものがたくさんあります。一山超えると見える景色が変わります。僕もまだ成功したとは言えませんが、会社が成長しているから、成功体験を聞かれます。でも、これまでにたくさん失敗しているから今があるし、どん底も経験しています。チャレンジした数が多かったから、その中にたまたま成功もあるだけで、人より失敗の数は多いと思います。これから農業をする方は、たくさんチャレンジして、その中から成功をつかんでほしいと思います。

インタビューを終えて

人が集まる不思議な力をお持ちの稲吉社長。ですが、その裏側ではたくさんのチャレンジと失敗を繰り返した結果、今があり、今だからできること、今しかできないことを楽しみながら実行する姿は新進気鋭そのものでした。

インタビュー後、稲吉社長が経営されるレストランへランチを頂きに伺いました。皆様もお近くに寄る機会があれば是非一度ご賞味ください。

農家が営む体に優しいレストラン「クロス〜農家の食卓〜」

https://www.cross86.com/

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