「苗半作」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
稲作においてよく聞かれる言葉で、「苗を育てるまでで、その作物を半分作り終わったようなものだ」という苗作りの大切さを表した言葉です。
実際、苗作りに失敗すると思うように生育せず、収量の低下や病害虫被害に結びつきます。
丈夫で元気な苗を育てるためにも、ポイントを抑えた丁寧な管理が必要ですし、水稲の育苗において、中でも特に重要なのが水管理です。
それは、水をあげるタイミングや量は、生育ステージに応じて調節していく必要があります。
今回は、水稲の育苗において、最適な水管理の方法を生育ステージ毎に紹介します。 元気な苗を作って、豊かな実りにつなげましょう。
目次
1. 播種から発芽までの水管理
2.緑化期間の水管理
3.硬化期間の水管理
4.水稲育苗でのおすすめの潅水チューブ
5.まとめ
1. 播種から発芽までの水管理
水稲育苗の水管理で最も大切なことは、水をあげすぎないようにすることです。
水が多すぎると根が伸びず苗が徒長してしまい、移植後に活着しにくくなってしまいます。
そのため、どの生育ステージにおいても、水のあげすぎには注意しましょう。
さて、水稲育苗の生育ステージは、大きく3つに分けられます。
まずは播種してから発芽までの水管理についてみていきましょう。
播種してから発芽するまで、苗は保温・遮光シートで覆われ、30℃の温度を保つように管理されます。育苗器があると発芽が一定に揃いやすいので、管理が楽ですね。
この期間の水管理は、播種の前に床土を湿らせておくだけで十分です。
播種して覆土した後は、基本的に潅水の必要はありません。
ただし、土が乾きすぎた場合は潅水をしましょう。
この時の潅水の目安は、育苗箱の底が濡れる程度が良いでしょう。
育苗箱が浸ってしまうと覆土の表面に膜を作ってしまい、発芽の妨げになります。
そのため、育苗箱の底が濡れて、床土に十分水が行きわたる程度にしておきましょう。
潅水のタイミングは、午前中が適切です。
夕方に潅水をすると育苗箱の中の温度を下げてしまい、発芽に影響が出てしまいます。
発芽では温度管理が非常に重要なので、潅水のタイミングを間違えて温度を下げないように注意しましょう。
2.緑化期間の水管理
播種から2、3日経つと発芽し、今度は緑化という期間に入ります。
緑化とは、発芽したての白い苗に弱い光を当てて緑色にしていくことです。
緑化の期間中は温度を20~25℃に保ち、夜間は15℃以下にならないように管理します。
寒暖差の大きい時期にあたるので、夜間はビニールハウスを閉じるなどして対策しましょう。
また、まだ発芽して間もない苗に直射日光を当てると、障害により緑化しなくなります。
急な温度変化にも弱いため、ビニールハウスやトンネル内での丁寧な管理が求められます。
緑化期間の水管理では、水のあげすぎに加えて乾燥にも注意しましょう。
水をあげすぎて過湿になると、初期段階での徒長が発生してしまいます。
また根が張らず、生育不足や移植時の活着不良につながります。
反対に乾燥に晒されると、過湿のときと同様に根が張りません。
この期間の水管理は毎日水をあげるのではなく、土の状態を見て乾燥していたら水をあげるようにしましょう。
水深の目安は覆土の持ち上がりを落とす程度で、水やりの時間は午前中が適切です。
夕方に潅水してしまうと温度を下げるだけでなく、夜間の蒸散量の低下によって床土が過湿になり、根が酸素不足の状態となってしまいます。
そのため、必ず毎朝土の状態を確認して、乾燥していたら潅水するようにしましょう。
プール育苗をしている方は、午前中に潅水したら、午後には水を抜いておきましょう。
また、天気予報もしっかりチェックしておきましょう。
午後から雨が降るのに水をあげすぎてしまうと、過湿で苗を弱らせてしまいますからね。
緑化期間中に苗の生育や土の状態を見て節水管理をすることで苗が水を求めて根を伸ばし、丈夫な苗に成長していきます。
3.硬化期間の水管理
緑色の苗が伸びて3~4cm程度になったら、覆っていたシートを取って「硬化」に入ります。
硬化とは、苗を外の環境に慣れさせていくことです。
この期間で、苗を田んぼに移植できるくらいまでに育てます。
硬化期間の水管理も、緑化のときと注意することはあまり変わりません。
過湿と乾燥に注意して、午前中に育苗箱の1/2~育苗箱全体が浸る程度に潅水しておけば十分です。
ただし、基本的に毎日潅水するようにしましょう。
苗が育ってくると、その分多くの水が必要となるためです。
朝に潅水し、天気が良く土が乾燥するようであれば、日中にも追加で潅水するようにします。
夕方、苗に露が残る程度の土壌水分が理想なので、緑化期間よりも土が湿って状態を保つようにしましょう。
硬化に入ると苗も少し強くなっているので、夜間の温度は10℃以下にならなければ大丈夫です。 そのため、少し土が湿っているくらいの状態を保つようにしましょう。
4.水稲育苗でのおすすめの潅水チューブ
最後に、水稲育苗で使えるおすすめの潅水チューブを紹介したいと思います。
今回ご紹介するのは、住化農業株式会社より販売されている潅水チューブ3種類です。
水稲育苗で用いられる潅水方法は、地表潅水か頭上潅水です。
ポイントは、霧のような散水で土の跳ね返りを少なくすることです。
水滴が大きいと土が跳ね返って苗に付着してしまい、それが原因で生育不良や病気になってしまいます。
まだか弱い苗がすくすく育つためにも、やさしく潅水できるチューブを選びましょう。
スミサンスイR育苗
https://www.sumika-agrotech.com/irrigation/products/spray/sumi_sansui_r_ikubyou/
育苗や葉物野菜の潅水向けの潅水チューブで、地表潅水用のチューブです。
霧のような細かい散水で土の跳ね返りを抑え、苗全体をやさしくムラなく潅水します。
長さが80mもあるため、長いハウスでも安心。
専用の巻取機で敷設・収納・移動も簡単です。
ミストエースS54/S72
https://www.sumika-agrotech.com/irrigation/products/side_overhead/mist_ace_s54_s72/
こちらはハウスの横に取り付けて使うタイプの潅水チューブです。
スミサンスイR育苗と同様に、霧のようなやさしい散水で苗全体を潅水します。
地表潅水用のチューブと違って吊り下げて使うため、育苗前後の設置・片づけをしなくてもよいところがポイント。
水稲の育苗が終わったら、そのままの状態で別の作物を育てるということも可能です。
ミストエースナイアガラ54/63/72
https://www.sumika-agrotech.com/irrigation/products/side_overhead/mist_ace_s_naiagara/
頭上潅水用のチューブで、連棟のハウスにも対応しているのが特徴。
大規模水稲農家さんで、育苗ハウスが連棟になっている方に特におすすめです。
独自の穿孔という技術で、頭上という高い位置からでも、土の跳ね返りのないやさしい散水を可能にしました。
頭上に設置しているため、作業の邪魔になることもありません。
まとめ
米作りにおいて、育苗はとても重要な作業です。
繊細な温度管理と水管理が必要ですが、適切な管理ができれば、丈夫で元気な稲が育ち、秋の実りにつながります。
水をあげすぎないことを念頭に置きながら、丁寧に管理しましょう。