農林水産省は、農業者の高齢化や担い手不足等の人的課題を背景に、AI、ロボット、ICT等の先端技術を活用したスマート農業を推進しています。この記事では、土壌分析システムを搭載した農業トラクターについて解説していきます。
目次
1.日本農業の現状
2.土壌分析とは
3.スマート農業技術を活用した土壌分析
4.土壌分析システムを活用した実証実験
5.土壌分析システムを搭載した農業トラクター
6.まとめ
1.日本農業の現状
日本の農業は、農業人口の減少や農業者の高齢化など多くの課題を抱えています。
2010年に約268万人いたとされる農業従事者数は、約168万人まで減少し、また平均年齢も67歳まで上昇するなど、農業人口の減少と高齢化が同時進行している状況です。
国や農林水産省は、このような状況を背景に、ロボット技術やAI(人工知能)、ICT(情報通信技術)等の先端技術を活用したスマート農業を推進していますが、コスト面等の課題から広く一般に普及するまでには至っていないのが現状です。
2.土壌分析とは
土壌分析とは、農作物の成長に必要な土壌成分を分析する作業のことを指します。使用する主なデータは以下の4つです。
1)土壌水分量
通常、土壌に含まれる水分量は、土壌表面に現れる湿り気と乾き具合を目視や手の感触で確認して判断する方法が一般的とされています
しかし、土壌分析システムを使用すれば、農作物の生育に必要な土壌水分量をリアルタイムに確認できるようになります。
2)土壌温度
土壌温度は、土壌水分の蒸発量の計算に役立つ重要なデータです。
土壌水分の蒸発は、農作物の成長に必要な水分量を不足させてしまうことから、収量や品質にも大きな影響を及ぼすといわれています。
しかし、土壌分析システムを使用すれぱ、土壌水分の蒸発量の計算に必要な情報を得ることができます。
3)電気伝導度(EC値)
電気伝導度(EC値)は、土壌に含まれる肥料分や塩分濃度を示した数値です。
EC値が0.3㎳/㎝以下を示す場合は施肥量を増やし、1.0㎳/㎝以上を示す場合は施肥量を減らすのが良いとされています。
4)土壌pH
土壌pHは、土壌に含まれる酸性・アルカリ性の度合いを示した数値です。
農作物は、pH6.0~6.5の弱酸性の土壌でよく育つといわれています。
しかし、土壌pHが低い状態のまま、土壌全体が酸性に傾き過ぎると、石灰分や苦土分の欠乏、アルミニウムの溶け出しを招き、根の生育を妨げてしまうそうです。
3.スマート農業技術を活用した土壌分析システム
1)AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ
ゼロアグリ(ZeRo.agri)は、農作物に必要な水分量をAIが算出して潅水や施肥作業を自動で実行するAI搭載型の潅水施肥システムです。
このシステムは、「土壌の性質が粘土質か砂質によって保水力が異なる」という性質を元に、48時間の準備潅水を行ったあと、AIシステムが圃場の土壌条件を認識して土壌水分量を一定に保つように制御してくれるのが特徴です。
開発したのは、D2C事業等を展開する株式会社ルートレック・ネットワークスで、土壌水分や温度等の環境データや栽培データの見える化をサポートする機能も備えています。
AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ(ZeRo.agri)
2)SenSprout Proセンサーシステム
当社が開発した「SenSprout Proセンサーシステム」は、ICT技術を活用して土壌水分の測定を遠隔から実行するシステムです。
土壌水分の変化を通知するアラーム機能やデータをグラフ化したりCSVダウンロードする機能も備えており、ベビーリーフの1種であるミズナを対象に行った実証実験では、1か月当たり最大306%(7月)の収量アップに成功しました。
先進的な農業経営を目指す際には、ぜひ導入を検討してみてください。
SenSprout Proセンサーシステム
https://sensprout.com/ja/sensorsystem-2/
4.土壌分析システムを活用した実証実験
農林水産省は、スマート農業の普及を促進するための施策として、「スマート農業実証プロジェクト」を全国各地の生産地で実施しています。
プロジェクトでは、生産者や民間企業、研究機関らで構成された各コンソーシアムを実施者に、稲作や畑作、果樹、施設園芸など各地の栽培品目に合わせた実証実験(2年間)が行われています。
土壌分析システムに関連する実証実験の内容は以下の通りです。(※一部)
1)実証課題「ICTに基づく養液栽培から販売による施設キュウリのデータ駆動経営一貫体系の実証」(愛知県西尾市)令和元年度
・対象作物:きゅうり
・実証コンソーシアム
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構、国立大学法人 豊橋技術科学大学、愛知県農業総合試験場、愛知県経済農業協同組合連合会、西三河農業協同組合、トヨタネ(株)、(株)PLANT DATA、(株)IT工房Z、PwCあらた有限責任監査法人、下村堅二氏、愛知県
この実証実験は、冬期の中でも比較的温暖な気候を利用して、長期一作型の促成きゅうりの栽培、根域の肥培、給液管理技術の見える化による飛躍的生産性の向上を目指したものでした。
実験では、養液栽培の導入・データ駆動による収量の向上と労働生産性の向上を目標に、ICT技術を活用した養液栽培やデータ活用、生育・収量予測および生育診断等の技術を使用した農業経営の効率化の実証が行われました。
2)実証課題「レモンにおけるスマート農業機械等の一貫作業体系の実証」(広島県大崎上島町)令和元年度
・対象作物:レモン
・実証コンソーシアム
広島県西部農林水産事務所東広島農林事業所、広島県西部農業技術指導所、広島県立総合技術研究所農業技術センター、広島大学、東広島市産業部東広島市園芸センター、大崎上島町、広島県果実農業協同組合連合会、広島ゆたか農業協同組合、芸南農業協同組合、農研機構西日本農業研究センター、(株)ビジョンテック、ウォーターセル(株)、(株)ルートレック・ネットワークス、サッポロホールディングス(株)、大信産業(株)、テクノス三原(株)、(株)石禮工業、長浜産業(株)、(株)加地、松岡農園、(株)ルーチャード、山彦農園
この実証実験は、高齢化の進行と耕作放棄地が増加する広島県沿岸部のレモン栽培の課題解決を目指したものでした。
実験では、作業時間の30%削減・販売量の20%増加を目標に、AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ(ZeRo.agri)等を使用した効果の検証が行われました。
3)実証課題「センシング技術に基づく統合環境制御の高度化によるピーマン栽培体系の実証」(鹿児島県志布志市)令和元年度
・対象作物:ピーマン
・実証コンソーシアム
鹿児島大学農学部、鹿児島大学工学部、鹿児島県農業開発総合センター、JAそお鹿児島、鹿児島県曽於畑地かんがい農業推進センター、鹿児島県経済連、(株)ニッポー、(株)エス・テー・ラボ、農業者6名
この実証実験は、台風常襲地域である鹿児島県大隅半島の若手農業者が強化型ビニールハウスを用いて栽培するピーマンの出荷予測の精度向上を目指したものでした。
実験では、出荷予測の精度向上、5~20%の収量アップ、高単価時期の出荷量増等を目標に、光合成の最大化と転流を促進する各種センサー用いた実証実験が行われました。
5.土壌分析システムを搭載した農業トラクター
現在日本では、土壌に含まれる成分をリアルタイムに分析する農業用トラクター搭載型の土壌分析システムの開発が進められています。
トヨタ自動車株式会社と東海物産株式会社が共同で実施した実証実験では、農業用トラクターに搭載した光センサーを利用して、土壌成分の偏りを把握する「リアルタイム土壌センシング技術」を検証。その結果、土壌データを活用した新たな土壌診断サービスの開発に成功したそうです。
出典|https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/27316103.html
また、福岡県、茨城県、農研機構らがつくる「農匠(のうしょう)ナビ1000(次世代大規模稲作経営革新研究会)」が行った実証実験では、東京農工大学が開発した「自走型軽量土壌分析システム」を用いて低収量に悩む水田の土壌分析を実施。
分析で得たデータを参考に、資材投入や飽水管理等の対策を講じてみたところ、3~14%の増収効果が確認できたそうです。
出典|http://itoshima-np.co.jp/%e4%b9%9d%e5%a4%a7/2615/
6.まとめ
農業用トラクターは、日本の農業生産を支える重要なツールのひとつです。
土壌分析システムを搭載した農業トラクターは、スマート農業の普及は元より、農業人口の減少や高齢化など、日本農業が抱える様々な課題を解決してくれることでしょう。興味のある方はぜひ導入を検討してみてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。