土壌水分センサーを使用した土壌環境の分析

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高収量・高収益な農業生産を実現していくためには、農作物の成長に必要な土壌環境を整備していくことが重要です。この記事では、土壌水分センサーを使用した土壌環境の分析について解説していきます。

目次

1.土壌水分センサーとは

2.土壌水分センサーが検知する情報

3.土壌環境を正確に分析する方法

4.土壌水分センサーを使用した土壌分析

5.まとめ

1.土壌水分センサーとは

土壌水分センサーは、土壌に含まれる水分量を測定する装置です。土壌水分センサーには、大きく分けて2つのタイプの製品があります。

1)土壌の誘電特性を利用したタイプ

土壌の誘電特性を利用したタイプは、「土壌を構成する水・空気・土粒子の3要素の中で比誘電率が最も大きい水が土壌全体の比誘電率を決める」という性質を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。TDR方式、TDT方式、WCR方式、ADR方式、キャパシタンス方式など様々な種類があります。

・TDR方式(Time Domain Reflectometry ※時間領域反射法)

TDR方式は、土壌に埋設した金属ロッドに流したマイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

1970年代にカナダで開発された測定方式で、誘電特性から土壌水分を測定する方法の元祖といわれています。

・TDT方式(Time Domain Transmission ※時間領域透過法)

TDT方式は、TDR方式と同様、マイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

違いは、U文型にループしたセンサー部で、片側から照射したマイクロ波が検出器に戻る時間を計測します。その形状から土壌に埋設して使用することは難しく、耕起直後の作土層や砂地でしか使用できない特徴があります。

・WCR方式(Water Content Reflectometer ※含水率反射率計)

WCR方式は、金属ロッドに流したマイクロ波が反射して戻る回数を基に土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

通常より太く設計されたセンサー部が特徴で、メーカーが作成した校正式を基に計算した値のみを出力します。

・ADR方式(Amplitude Domain Reflectometry ※振幅領域反射法)

ADR方式は、TDR方式・TDT方式・WCR方式と同様、土壌の誘電特性を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

他の方式と比較して「土壌の電気伝導度の影響が少なく、測定精度も高い」というメリットがありますが、高額な製品が多く、他の方式でも十分な精度で測定できるようになったため、国内での使用があまり報告されなくなりました。

・キャパシタンス方式(静電容量方式)

キャパシタンス方式は、電圧をかけたセンサー内のコンデンサーで計測した静電容量を基に土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

「静電容量は比誘電率の影響を受ける」という性質から、TDR方式等と同様、土壌の誘電特性を利用した土壌水分センサーとして知られています。

2)マトリックポテンシャルを利用したタイプ

マトリックポテンシャルとは「土壌が水分を吸収する力」のことで、テンシオメーター方式と呼ばれる製品を中心に様々な種類の製品が発売されています。

・テンシオメーター方式

テンシオメーター方式は、ポーラスカップと呼ばれる素焼きのカップを使用した土壌水分センサーです。

センサー周辺の土壌水分が、マトリックポテンシャルによって吸収されると、テンシオメーターに充填した水が外部に吸引される仕組みを利用して土壌水分量を測定します。

「水は通すが空気は通さない」という性質を持つ素焼きカップ内の水圧を測定すれば、その土壌のマトリックポテンシャルを知ることもできます。

・キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式

キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式は、キャパシタンス式土壌水分センサーのセンサー部に素焼きの板をサンドイッチした土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性をマトリックポテンシャルに換算してくれるのが特徴で、テンシオメーターが苦手な乾燥土壌の測定にも向いています。

・電極式ポテンシャル方式

電極式ポテンシャル方式は、ナイロン素材など繊維質で包んだ電極棒の中で発生する電気抵抗を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性を利用した方法の普及で一度は廃れましたが、マトリックポテンシャルを利用した方法への応用をきっかけに、その有効性が見直されました。

テンシオメーターと比較して測定の精度は落ちますが、安価な価格とメンテナンスの手軽さから農業現場での活用が進んでいます。

2.土壌水分センサーが検知する情報

土壌水分センサーの中には、土壌に含まれる水分量に加え、土壌温度や電気伝導度(EC値)、土壌pH等を測定する製品も発売されています。

土壌水分センサーが検知する情報の詳細は以下の通りです。

1)土壌水分量

通常、土壌に含まれる水分量は、土壌表面に現れる湿り気と乾き具合を目視や手の感触で確認して判断する方法が一般的とされています

しかし、土壌水分センサーを使用すれば、農作物の生育に必要な水分量を数値で確認できるようになるため、適切なタイミングで潅水が実行できるようになります。

2)土壌温度

土壌温度の計測は、土壌に含まれる水分の蒸発量の計算に使用することができます。

土壌水分の蒸発は、農作物の健全な生育に必要な水分量を不足させてしまうことから、収量や品質にも大きな影響を及ぼすといわれています。

3)電気伝導度(EC値)

電気伝導度(EC値)は、土壌に含まれる肥料分や塩分濃度を示した数値です。EC値が0.3㎳/㎝以下を示す場合は施肥量を増やし、1.0㎳/㎝以上を示す場合は施肥量を減らすのが良いそうです。

4)土壌pH

土壌pHは、土壌に含まれる酸性・アルカリ性の度合いを示した数値です。

農作物は、pH6.0~6.5の弱酸性の土壌でよく育つといわれています。しかし、土壌pHが低い状態のまま、土壌全体が酸性に傾き過ぎると、石灰分や苦土分の欠乏、アルミニウムの溶け出しを招き、根の生育を妨げるといわれています。

3.土壌環境を正確に分析する方法

農林水産省は、土壌に含まれる水分量や電気伝導度(EC値)、土壌pHを正確に分析する方法をまとめた資料を公開しています。以下はその内容の一部となります。

1)土壌の採取方法

土壌の採取時期

・原則として作物収穫後、後作の耕起前に採土する。果樹園では、断根の影響が現れやすい春先や干ばつの時期を避ける。

土壌の採取地点

・圃場の対角線上の交点と線上の5地点から採取する。水田では、一方の対角線上の3地点からで良い。

土壌の採取

・移植ゴテや細エンピで、一定の深さの土壌を均一に採取する。

物理性測定の場合

・採土管(100ml)を用いて、代表の1地点を選び、作土層、心土層を各3個ずつ採土する。

化学性測定の場合

・1点200g程度採土し混合して、500g~1kg程度を採取する。

水田

・湛水時の生土 表面の酸化層を1~2cmを取り除き、株間の作土を採取する。

普通畑野菜畑

・施設内土壌 畝間の中央から中央までの作土を一定の幅で均一に採取し、混合した後、採土する。

果樹園

・樹列間の樹冠先端から30cm内側の地点を上部0~20cmと下部の20~40cmに分けて採土する。新植など根圏の土層を調査するときは0~60cm位までを層位別に採土する。

牧草地

・草地の維持管理では0~5cm部分を、更新の事前調査では耕起層から採土する。

参考文献

農林水産省「土壌・作物診断マニュアル 土壌分析法」

https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/attach/pdf/ibaraki01-4.pdf

2)土壌水分量の測定

・通常の土壌水分の測定では、風乾土の試料を用いて分析する。

・表示は、乾燥土(乾土)100g当たりの含有量で表す。

・風乾土10g程度をアルミやガラス製の容器にに移し、105℃の乾燥機で半日から1日間乾燥させた後に水分係数(乾土係数)を測定する。

・土壌化学分析の分野では含水率を、土壌物理性の分野では含水比を用いる。

土壌水分の表示法

容器重(A)

容器重+乾燥前の試料重(B)

容器重+乾燥後の試料重(C)

・含水率=生土重-乾土重/ 生土重×100=(B-C )/(B-A)=100(%)

・含水比= 生土重-乾土重/乾土重×100=(B-C )/(C-A)=100(%)

・水分係数=100/100-含水率(%)×100

3)電気伝導度(EC値)の測定

・風乾土10gを100mlの振とうビンに入れた後、蒸留水50mlを加える。

(土:蒸留水=1:5)

 ・振とう60分後、ECメーターで懸濁液を測定する。

4)土壌pHの測定

・風乾土20gを100mlの振とうビンに入れた後、蒸留水50ml又は1級塩化カリウム50mlを加える。

・振とう30分後、pHメーターで測定する。

4.土壌水分センサーを使用した土壌分析

土壌水分センサーを使用した土壌分析の方法は以下の通りです。

・センサー部を傷つけないよう、10cm~20cm程度の深さを目安にセンサー部と土壌の間に隙間をつくらず埋没する。

・埋没後は、表面を強い力で押し付けたり、固めたりしないようにする。

5.まとめ

土壌水分センサーは、農業生産の高効率化にも役立つ重要なツールです。当社が開発した当社が開発した「SenSprout Proセンサーシステム」を使用すれば、インターネットを利用して、遠隔から土壌水分率や地表面温度の状況を確認できます。

SenSprout Proセンサーシステム

https://sensprout.com/ja/sensorsystem-2/

土壌水分センサーを使用した土壌環境の分析を検討する際には、ぜひこの記事を参考にしてみてください。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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