日本では高収益な農業生産を実現するための手段として、ビニールハウスを使用した農業が行われています。この記事では、ビニールハウス栽培における潅水作業の注意点について解説していきます。
目次
1.ビニールハウス栽培の概要とメリット・デメリット
2.ビニールハウス栽培に適した農作物の種類
3.ビニールハウス栽培における潅水作業の注意点
4.まとめ
1.ビニールハウス栽培の概要とメリット・デメリット
1)ビニールハウス栽培の概要
ビニールハウス栽培とは、農業用ポリ塩化ビニルフィルム(農ビ)と呼ばれるビニールを使用して組み立てた農業用のハウスを利用して農作物を栽培する方法のことを指します。
日本のビニールハウス栽培の歴史は古く、江戸時代前期(約400年前)頃には、周辺を油紙で囲った気密性の高い小屋の中で炭火を焚き、農作物を通年で栽培する農家がいたと伝えられています。
日本でビニールハウス栽培が本格化したのは、塩化ビニールの開発が進んだ1950年代以降で、農作物の安定生産と食料自給率向上を目的に、普及・拡大が進められてきました。
現在のビニールハウス栽培における主な栽培品目は、トマト、ほうれん草、きゅうり、いちごなどで、農林水産省が平成28年6月に公表した「施設園芸をめぐる情勢」によれば、日本の耕地面積の内、約4万6500ヘクタール(ガラス温室含む)の農地がビニールハウス栽培に利用されている状況だそうです。
※参考資料
農林水産省「施設園芸をめぐる情勢」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/sisetsu/pdf/jyousei_1.pdf
2)ビニールハウス栽培のメリットとデメリット
ビニールハウス栽培には以下のメリット・デメリットがあります。
ビニールハウス栽培のメリット
・天候の影響を受けずに農作物を栽培できる。
・通年栽培による農作物の高付加価値化が図れる。
・減農薬栽培によるコスト削減とブランド化が実現できる。
・草刈り作業を大幅に軽減できる。
・天候に左右されない栽培計画を立案し実行できる。
・環境制御システム等を利用して栽培を自動化できる。
ビニールハウス栽培のデメリット
・露地栽培よりも栽培管理が難しい。
・設備への初期投資やその回収に向けた農業経営が求められる。
・台風や豪雨など自然災害が発生した際の被害額が大きい。
・設備の維持・管理に必要なメンテナンス費用が発生する。
・栽培作物の変更が難しいため連作障害が起こりやすい。
・トラクターなど大型機械の使用に制限がある。
2.ビニールハウス栽培に適した農作物の種類
農業用のビニールや専用のパイプ・部材、各種装置など多くの初期費用を必要とするビニールハウス栽培で高収益な農業生産を実現するためには、一般消費者からの人気が高い収益性に優れた農作物を栽培していく必要があります。
以下はその一部となります。
ビニールハウス栽培に適した収益性の高い農作物(一部)
果菜類
・トマト
・なす
・ししとう
・きゅうり
・ピーマン
果実野菜
・いちご
・メロン
・すいか
茎菜類
・青ネギ
葉菜類
・リーフレタス
花き類
・ばら
・カーネーション
・シクラメン
・きく
・ゆり
3.ビニールハウス栽培における潅水作業の注意点
ビニールハウス栽培は、自然の雨を利用して農作物の成長に必要な水分を補給する露地栽培とは違い、農作物の成長に必要な水分を自らの手で補給していく必要があります。
そのため、ビニールハウス栽培を実施する農家の中には、農作物への潅水作業を制御する潅水制御装置という設備を利用している農家がいますが、小・中規模農家が多い日本のビニールハウス栽培では、農業用に開発された移動式の貯水タンクや動力噴霧機、専用のスプレーヘッド等を使用した人の手による潅水作業が一般的とされています。
ビニールハウス栽培における潅水作業の注意点は主に以下の5つです。
1)長時間の作業による身体的負担に注意する
ビニールハウスは、太陽から放出される日射熱を利用してハウス内を暖めます。そのため、特に日差しが強くなる夏場の作業では、熱中症など長時間の作業による身体的負担に注意してください。
ビニールハウス栽培における熱中症対策の一例
・換気窓等を設置してハウス内の風通しを良くする。
・日中の気温の高い時間帯を避けて作業する。
・休憩を挟みながら水分をこまめに補給する。
・異常があった時に互いに確認しあえるよう必ず2人以上で作業する。
・環境省が提供する「環境省熱中症予防サイト」を活用する。
環境省熱中症予防サイト
2)潅水のタイミングに注意する
潅水のタイミングは、栽培する農作物の種類や季節によって大きく異なります。詳しくは以下の記事で解説していますので、こちらを参考にしてください。
※参考記事
「ビニールハウス栽培での最適な潅水タイミング」
3)土壌に含まれる水分量の変化に注意する
農作物の成長に必要な水分を補給するためには、土壌に含まれる水分量を正確に把握していく必要があります。
ビニールハウス栽培を実施する農家の中には、土壌水分センサーという機器を使用して土壌に含まれる水分量を測定している農家がいます。
土壌水分センサーの中には、当社が開発した「SenSprout Proセンサーシステム」のように、インターネットを利用して土壌水分を遠隔から測定する機器もありますので、情報通信技術(ICT)を活用したビニールハウス栽培に興味のある方は、ぜひ導入を検討してみてください。
「SenSprout Proセンサーシステム」
4)土壌水分の蒸発量に注意する
ビニールハウスは、太陽から放出される日射熱を利用してハウス内を暖める構造から、露地と比較して土壌温度が上がりやすい傾向にあります。
土壌温度の上昇は、土壌水分の蒸発を招く重要な要素の一つで、農作物の収量や品質にも大きな影響を及ぼすといわれています。
先述した土壌水分センサーの中には、土壌水分量に加え土壌温度を測定できる機器もありますので、ぜひ活用を検討してみてください。
なお、当社が開発した「SenSprout Proセンサーシステム」は、土壌水分量に加え土壌温度も遠隔から測定できる機器になっています。
5)潅水制御装置を使用した作業の省力化を検討する
先述しましたが、ビニールハウス栽培を実施する農家の中には、農作物への潅水作業を制御する潅水制御装置という設備を利用している農家がいます。
潅水制御装置には、手動・遠隔・自動の3つの種類がありますので、生産規模や予算に合った種類を選択すれば良いでしょう。
※参考記事
「手動・遠隔・自動における潅水制御方法の違い」
なお、当社が開発した「SenSprout Pro潅水制御システム」のように、インターネットを利用して農作物の水やり作業を遠隔から実行するシステムもありますので、スマート農業技術を活用したビニールハウス栽培に興味のある方は、ぜひ導入を検討してみてください。
「SenSprout Pro潅水制御システム」
https://sensprout.com/ja/irrigationcontrolsystem-2/
4.まとめ
日本では、気候変動による栽培適地の変化など地球規模で起きている環境を背景に、農作物を通年で栽培できるビニールハウス栽培への注目が高まっています。ビニールハウス栽培を実施する際には、この記事を参考に潅水作業を行ってみてください。最後まで読んでいだたきありがとうございました。