日本でもスマート農業が浸透しつつありますが、世界でいち早くスマート農業を取り入れ、驚きの高収量を実現している国があるのをご存じでしょうか?
それは、風車やチューリップ畑の風景が美しいヨーロッパの国、オランダです。
オランダでは1980年代より農業にコンピューターを導入し、大規模集約化による生産性の向上を進めてきました。
今回は、そんなオランダのビニールハウス栽培の特徴を紹介したいと思います。
そして、実際にオランダの企業が開発した環境制御装置も1つ紹介します。
世界最先端の技術に触れてみましょう。
目次
1.農産物輸出額は世界第2位!オランダ農業の概要
2.高収量を誇るトマト栽培
3.Priva社の開発した統合環境制御装置「マキシマイザー」
4.まとめ
1.農産物輸出額は世界第2位!オランダ農業の概要
オランダは、ドイツとベルギーと国境を接するヨーロッパ北西部の国です。
国土は九州と同じくらいで、そこに九州より少し多い1700万人の人々が暮らしています。
これだけ聞くと「小さい国」という印象を持ちそうですが、農産物輸出額はアメリカに次ぐ世界第2位という農業大国。
技術的な進歩も著しく進んでいます。
少しだけ、オランダの農業の歴史に触れておきましょう。
オランダでは1990年頃から、政府が主導となって農地集約化と主要作物の選定を行ってきました。
その中で、農業の生産性を上げて強い経営体を育てるために、以下のようなさまざまな取り組みを行いました。
・生産者や研究者など、農業に関わる人材の育成
・教育・研究機関・政府・生産者での連携強化
・研究開発に対する国の支援
結果として、1995年から2008年の間で総農家数が35%減少したのに対し、総農地面積の減少はわずか2%。
農地の集約化が進み、生産性が著しく向上しました。
さらに、作物ごとの産地形成にも成功。
効率の良い輸送システムも構築されました。
また、ビニールハウス栽培においては省エネ技術も進歩しました。
オランダのヴァーヘニンゲン大学によると、1990年のエネルギー消費量を100%とすると、2009年には47%まで減少。
エネルギー消費量は、約20年で半分以下に抑えられました。
そして現在では、ヨーロッパ最大の農産物輸出国となったのです。
主要作物は花き類、トマト、玉ねぎ、キュウリなどの青果にとどまらず、生乳(チーズ)、豚肉など畜産まで多岐にわたります。
中でも、トマトのビニールハウス栽培は世界最先端の技術と言われています。
2.高収量を誇るトマト栽培
トマトはオランダのビニールハウス栽培を代表する作物です。
その作付面積はビニールハウス栽培の野菜全体の3割強を占めています。
そして、驚くべきはその収量です。
少し古い2011年のデータではありますが、日本の収量が15t/10aであるのに対し、オランダはなんと70t/10a。
5倍近く差をつけられているのです。
10aの労働時間も日本が1897時間であるのに対し、オランダは半分の990時間。
オランダの方が集約的で、効率の良い農業であるといえます。
では、そんなオランダのトマト栽培の特徴を紹介したいと思います。
大規模ビニールハウスが半数以上
オランダのビニールハウスは非常に広いのが特徴です。
トマトを栽培しているビニールハウスに限れば、半数以上が6ha以上(2009年)と広大な広さを誇っています。
日本の経営耕地面積の平均が3.08ha(2020年)ですから、日本の平均的な農家の2倍の面積を誇っています。
規模感が違いすぎて、開いた口が塞がらないですね。
そんな大きなビニールハウスに、最先端の潅水制御機器や栽培技術を導入して栽培しているのです。
高軒高(のきだか)ビニールハウスで栽培
オランダでトマト栽培に使われているビニールハウスは、5m以上の高さを誇ります。
換気効率が良く、室温が変化しにくいことが特徴です。
ハウスの中ではトマトを垂直方向に誘引して生長させています。
垂直方向の空間を有効活用することで、反あたりの収量を増やしているのです。
統合環境制御装置で多角的に管理
そして、巨大なビニールハウス内の環境は、統合環境制御装置によって管理されています。
この装置は、室温や湿度、CO2などの複合的な要因から光合成が最も進む環境条件を導き出し、トマトにとって理想的な環境を自動で作り出します。
もちろん、潅水量や施肥量の調整も行います。
「複合環境制御」という言葉を聞いたことがある方もいるかと思います。
文字通り、複合的な要素を制御して、作物にとって育ちやすい環境を作り出す装置です。
一方で、統合環境制御装置とは、複合環境制御装置よりも大きな面積に対応し、より高度な演算や判断を行える装置です。
最適な潅水量を判断する際も、さまざまなデータを用いて判断します。
さらには潅水後、どのような環境が適切かということも考えて制御を行います。
オランダではこの装置を用いて、巨大なビニールハウスの中をトマトにとって理想的な環境に整えているのです。
培養土にロックウールを使用
トマト栽培に使われるのは土ではなく、ロックウールです。
ロックウールとは、天然鉱物を原料として作られた人造鉱物繊維。
このロックウールは、土に比べて統合環境制御装置による管理がしやすいのがポイント。
潅水や肥料の量をコントロールしやすく、土壌由来の病虫害のリスクも減るのだとか。
栽培をよりデータ化して、きめ細かい管理を実現しているのです。
水を循環させる
オランダは国土の1/4が干拓地であり、地下水が塩分を含んでいて使えない地域も多くあります。
これでは潅水に困ってしまいますよね。
そのため、オランダのビニールハウス栽培では、水の循環利用をしています。
トマトの培養土の下には、ロックウールから染み出してくる養液を集める管があります。
そうやって集められた養液は浄化・殺菌処理されて、再び養液として使われます。
水が貴重な土地だから生まれた技術ですね。
収量の増加には直接関係はないかもしれませんが、このような技術も注目すべきものですね。
3.Priva社の開発した統合環境制御装置「マキシマイザー」
さて、最後に実際にオランダで使われている統合環境制御装置を紹介します。
Priva(プリバ)社の開発した「マキシマイザー」という製品です。
http://www.netafim.co.jp/Catalogs/Priva/Maximizer.pdf
上述したように、「マキシマイザー」は複数の環境要因から、ハウス内を作物にとって理想的な環境に整える統合環境制御装置です。
ビニールハウスの内外に設置されたセンサーからデータを収集し、環境を制御します。
例えば、潅水という動作1つをとっても、室温・湿度・培地温・日射量・CO2濃度などのさまざまな要因から最適な潅水量を判断します。
また、複数の機器を同時に動かして室温や湿度、CO2濃度を調節することもできます。
さらに、効率的にエネルギーを使う設定も持ち合わせています。
例えば、一定期間の積算日射量から最適なビニールハウス内の温度管理を判断し、暖房費の節減につなげるといったことが可能です。
このように、「マキシマイザー」は複数の要因から作物にとって最適な環境を判断し、各装置を自動的に制御します。
ちなみにこの「マキシマイザー」ですが、日本では株式会社誠和が取り扱っています。
誠和のWebサイトで紹介されているので、気になる方はチェックしてみましょう。
4.まとめ
今回は、世界最先端といわれているオランダのビニールハウス栽培について紹介しました。
オランダでは、ビニールハウス内外のさまざまな環境から、作物に最適な環境をデータとして導き出していました。
生産効率にこだわり、徹底的にデータ化し、人の労力を減らすという、長年の取り組みが成果を上げた国。世界の農業のトップを走っている国。オランダを紹介しました。