「潅水設備」と聞くと、ビニールハウス栽培をイメージされる方が多いかと思います。
天候の影響を受けにくいビニールハウスであれば、潅水設備によって労力を削減することで、効率的に品質の高い作物を生産することができます。
一方で、ビニールハウスの建設には数百万円以上かかることが多いため、規模拡大しにくいというデメリットがあります。
では、露地栽培はどうでしょうか?
露地栽培は天候の影響を受けますが、ビニールハウス栽培に比べて規模拡大がしやすいというメリットがあります。
もちろん、露地栽培でも潅水設備を導入することで天候の影響を減らし、作業効率を上げることができます。
今回は、露地栽培に潅水設備を導入することで、作業時間や作物の生育にどのような効果があるのか、自治体や研究機関の実験を基に紹介します。
目次
1.自治体による実験結果
2.学術的な知見
3.露地栽培向きの潅水チューブ
4.まとめ
1.自治体による実験結果
はじめに、自治体が行った実験について紹介します。
自治体の実験では「日射制御型拍動自動潅水装置」という潅水装置を使った実験が多く見られました。
日射制御型拍動自動潅水装置とは?
日射制御型拍動自動潅水装置とは、太陽光を利用した自動潅水装置です。
装置にはソーラーパネルが付いており、太陽光によって小型の水中ポンプを動かし、1.5mほどの高さにあるタンクに水をくみ上げます。
このタンクに一定量の水が貯まると、弁が開いて水が潅水チューブを通って畑に撒かれるという仕組みです。
ここでポイントなのが、「くみ上げる水の量は太陽光に依存する」ということ。
つまり、晴れて日射量が多い日はたくさんの水をくみ上げて、何回も潅水します。
反対に曇りや雨の日はくみ上げる水の量が少なくなるため、潅水はゼロ、または少ない回数しか行われません。所謂、積算日射量に比例して潅水を調整する日射比例潅水です。
さらに、導入コストが低いのもポイントです。10aあたり約20万円で導入できるので、ビニールハウスでの潅水制御装置が1棟につき数十万円と考えると大幅に安いのです。
もちろんタンクに肥料を入れておくことで、水と肥料を一緒に供給することができます。
ただし、ビニールハウス栽培で使われているような潅水制御装置のような精度はありません。細かい潅水量を設定したり、気温や湿度に応じて潅水量を調節したりといったことはできません。
それでも、露地栽培における低コスト化、省力化には十分な効果を発揮します。本当に効果があるのか、いくつかの実証実験を見てみましょう。
福島県の露地栽培きゅうりにおける実験
福島県の安達地域はきゅうり栽培が盛んですが、栽培面積の約8割が露地栽培となっています。
ここでの課題は省力化と長期安定生産。作業に労力を要する代わりに、収穫期後半(9月、10月)になるにつれて、収量に安定感がなくなることが課題でした。
そこで、日射制御型拍動自動潅水装置による実証実験を行いました。
すると、収穫期後半でも安定した収量を得られ、潅水作業の省力化につながるという結果が得られました。さらに、高温や乾燥といった気象の影響による反収の落ち込みも減少。露地栽培にとって良い結果が出た実験でした。
要因は、日射制御型拍動自動潅水装置を使うことで少量多潅水となったことと、初期生育が安定したことが挙げられています。
日射量に応じて水をくみ上げるので、日射量が強い時期だと小まめに水をくみ上げてくれるため、少量多潅水につながるのですね。その結果土壌水分量が安定し、初期生育が安定して収量の安定化につながったのでしょう。
山形県の露地栽培アスパラガスにおける実験
山形県では、露地栽培のアスパラガスにおいて、福島県と同様の実証実験が行われています。
結果は、実証区が対照区に比べ、反収が50kg多いという結果になりました。
乾燥の続いた8月は、その差が特に大きかったようです。
作業に関しても、対照区の畝間潅水に比べて、実証区は省力化が実現され、この結果も福島県の実験と同様です。
ほかにも、なすやきゅうりでも収量・品質の向上、省力化の効果があったようです。
鳥取県の施設栽培トマトにおける実験
日射制御型拍動自動潅水装置を用いた実験は露地栽培だけでなく、ビニールハウス栽培でも行われています。
鳥取県では、この日射比例潅水の導入コストの低さから、中小規模のビニールハウス栽培に導入できないかという実証実験が行われました。
実験の結果、総潅水量とトマトの生育は、慣行潅水と同等でした。
そして、省力化や収量・品質の安定という結果が得られました。こちらも日射量に依存した潅水が結果として少量多潅水となり、土壌水分量が安定したためと考察されています。
よって、日射制御型拍動自動潅水装置は中小規模のビニールハウス栽培が多い中山間地域にも有効であることが示唆されました。
このように日射制御型拍動自動潅水装置は、少量多潅水を実現して収量・品質を安定させるとともに、潅水労力の省力化に効果があります。
導入コストも低いので、規模拡大などを考える際は検討してみてはいかがでしょうか。
2.学術的な知見
学術的な知見としては、茨城県農業総合センターの実験を紹介します。
茨城県では、霞ケ浦の豊かな水資源を活かした畑地潅漑(はたちかんがい)が整備されています。
この潅漑設備を活かし、霞ケ浦周辺ではさまざまな野菜が生産されています。
実験は、露地栽培の白菜とレタスを対象に行われました。
潅水方法は点滴潅水で、土壌水分不足による生育不良や生理障害の改善、施肥効率の向上を課題として挙げています。
点滴潅水では、肥料成分を混ぜた養液が使われています。
比較したのは点滴潅水を用いた養液土耕栽培と慣行栽培です。
実験の結果、養液土耕栽培の白菜は25%減肥しても、慣行栽培より収量が多くなりました。さらに、窒素利用率も30%向上しました。
レタスも同様に、養液土耕栽培では47%の減肥が可能という結果となりました。
また、土壌水分量はどちらも安定していました。
つまり、露地栽培に点滴潅水を導入することで、安定した収量・品質を確保できるといえます。また、減肥しても収量を確保できる、窒素利用率が向上するといった点から、環境への負荷を軽減させられるということも考察されました。
このように、学術的な観点から見ても、露地栽培への潅水設備の導入は有効であるといえます。
葉物類の露地栽培における点滴潅水施肥(養液土耕)栽培が収量・品質と施肥効率に及ぼす影響
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dojo/80/5/80_KJ00005929094/_pdf/-char/ja
3.露地栽培向きの潅水チューブ
最後に、露地栽培向きの潅水チューブを3つ紹介します。
スミサンスイR露地ワイド
10mの散水幅でムラなく潅水するチューブです。
特徴は、霧のように細かい水滴でやさしく潅水すること。
水滴が大きいと土を叩いて固めてしまうことがありますが、こちらの商品は細かい水滴で土にしっかりと浸透していきます。
土の跳ね返りも少ないので、発芽や生育が安定するという声もあります。
https://www.sumika-agrotech.com/irrigation/products/spray/sumi_sansui_r_roji_wide/
スミレイン50
スミサンスイR露地ワイドに比べて、大規模な面積を作付けする場合におすすめ。
1巻(100m)で約20aを潅水できるのがポイントです。
こちらも細かい水滴でやさしく潅水します。
畑が広い方はぜひ試してみましょう。
専用の巻取機もあるので、敷設・収納・移動も簡単です。
https://www.sumika-agrotech.com/irrigation/products/spray/sumi_rain_50/
スミチューブ
マルチの下に敷いて使う潅水チューブです。
ハウスでも露地でも使える商品ですが、紫外線劣化に強いという特徴があります。
実際に、露地栽培で5年も使い続けているという声もあります。
また、チューブの穴は真円に近い形なので、目詰まりしにくいこともポイントです。
https://www.sumika-agrotech.com/irrigation/products/horizontal/sumi_tube_kasai/
4.まとめ
今回は露地栽培に潅水設備を導入することの効果について紹介しました。
露地栽培でもビニールハウス栽培同様、潅水設備を導入することで収量や品質の安定、省力化につながるようです。
露地栽培は大規模作付けが可能というメリットがありますが、潅水設備を導入することで、さらに広い面積での栽培が可能になりそうですね。