AIが農作物を自動潅水で栽培した論文を紹介

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スマート農業の推進により、自動潅水システムを利用したビニールハウスでの野菜栽培が普及してきました。

自動潅水システムではビニールハウス内にチューブやホースを設置し、潅水装置を使って潅水量や液肥濃度を制御します。

人の手で潅水するのに比べて均一に散水でき、短時間で終わるなど、はるかに効率的です。

最近ではスマホやパソコンを使って、ビニールハウスから離れていても潅水を制御できるシステムも登場しています。

そして、この自動潅水に関する研究は、日夜進歩を遂げています。

今回は、自動潅水について述べた論文を紹介しながら、将来的なビニールハウス栽培の展望をご紹介します。

目次

1.AIについての前提知識

2.研究の概要と背景

3.研究方法

4.結果と将来的な展望

1.AIについての前提知識

今回ご紹介する論文は、神奈川大学の難波先生の論文です。

AI(人工知能)に農業をさせるための、システム開発に関する研究です。

自動潅水システム開発のための、基礎研究といったところでしょうか。

論文の中身を紹介する前に、前提となる知識が必要なので少しご紹介します。

2000年頃までは、AIは人が与えた知識を元に、判断・推論を行っていました。

その後新しい技術が登場し、ロボット自らが学習し、人からルールを与えられなくても自身の経験によって判断・推論することができるようになりました。

農業に例えると、先輩農家に教えられたようにしていた作業を、ある程度知識と経験が蓄積されたから自分の判断でやってみる、といった感じです。

そして、ロボット自らが学習するために必要なシステムが、論文のタイトルにもある「ニューラルネットワーク」と「Q学習」です。

「ニューラルネットワーク」とは、人の脳の神経回路のこと。

これをロボットに搭載することで、人が頭を使うように考えてもらうのです。

そして「Q学習」とは、価値を最大化する行動を学習させることです。

例えば、作物の生育状況を見て、最適な潅水量を判断して潅水を制御するといった具合です。

以上を踏まえたうえで、論文の中身を見ていきましょう。

2.研究の概要と背景

論文の概要を簡単にまとめると、「ロボットに潅水を制御させられるか」ということを検証しています。

そして、そのために「ニューラルネットワーク」と「Q学習」を用いた手法が有効なのか、実験によって明らかにしています。

研究の背景としては、主に2つのことを挙げています。

1つは農業の技術継承の問題。

現在の日本では、農業の高齢化に伴って離農率が上昇。

そして熟練農家の技術も受け継がれることなく、消えています。

2つ目は、農家とはいえど、その知見には個人差があることです。

同じ地域・同じ作物でも、やり方が違うといったことはよくありますよね。

そして、その栽培方法が作物にとって最適なものかは分かりません。

そこで、経験や勘に頼らない、作物にとって最適な栽培方法をロボット自らが学習する必要があるとしています。

気温や土壌水分量などの環境要因と作物の生育状態から、作物が最もよく育つ潅水量やビニールハウス内環境をロボット自らが導き出し、管理することを目指しているのでしょう。

夢のような話ですが、実際に研究が進んでいるのです。

今回の研究では、ロボットによる小松菜栽培の潅水制御を通して、必要なデータを収集しています。

3.研究方法

研究では、ロボットに2週間ビニールハウスにて小松菜を栽培させています。

ロボットは3台用意されており、小松菜の背丈から潅水量を判断して潅水しています。

潅水量は0ml、10ml、15ml、30mlの4つから選択できるように設定されています。

比較のために、人の手でも小松菜を栽培し、データを収集しています。

人による栽培を比較対象として挙げたのは、あまりにも人の手による栽培とかけ離れていると、研究結果に妥当性がなくなると考えたからです。

そして、潅水してから2日後にどれだけ小松菜が伸びているかということを、「最適な潅水量」の判断基準としています。

潅水して2日様子を見て、また潅水する。

このサイクルを7回繰り返して、ロボットが小松菜16株に対してどの潅水量を選択するかを見ます。

種を撒いてから30mlの潅水を行った4日後の状態、ちょうど発芽したあたりから研究をスタートさせました。

4.結果と将来的な展望

3台のロボットのうち1台が、人の栽培に近い潅水量を選択していました。

つまり、小松菜の生育状況から最適と思われる潅水量を判断していたのです。

しかし、まだ人の行動とは違いが見られました。

その原因は、人が小松菜の背丈以外にも、土壌の乾き具合なども判断材料に加えていたためです。

今回の研究では、ロボットは背丈のみを判断材料にしていたのでこのような結果がでるのは仕方ないと思われます。

しかし、土壌水分量や気温なども判断材料に加えると、より人の判断に近い行動をとれることを示唆しています。

さらに、ロボットなので寸分の狂いもなく、作物にとって最適な管理を実現できるでしょう。

そして何より、「ニューラルネットワーク」と「Q学習」を用いた手法が、作物栽培に有効であることが、この研究により示唆されました。

これは、ロボットが人間と同じように農業をできるかもしれないということを表しています。

ロボット自身が作物を栽培し、その中で学習し、最適な栽培方法を見つけ出す。

その可能性があることを示しています。

ただ、まだ課題はたくさんあるようです。

今回の研究で、ロボットに判断材料として与えたのは、小松菜の背丈と葉の広がり具合でした。

葉の広がり具合からは有効なデータが得られなかったので特に記載はしませんでしたが、作物を育てるうえで、潅水量を決める判断材料はほかにもたくさんあります。

その日の天気、土壌水分量、ビニールハウス内の気温・湿度、日射量など。

人は、これらの複雑な要因を元に、潅水量を決めてきました。

最近では、クラウドシステムを活用した潅水制御システムの登場により、これらを数値で把握できるようになりました。

それだけで、多くの人が経験や勘に頼らずに、高品質な作物を育てられるようになりました。

近年、高齢化に伴う離農率の上昇など、さまざまな要因で農業従事者は減少し、その結果耕作放棄地は増加し、食糧自給率は低下しています。

この流れを食い止めるためにも、ロボットに農業をさせるということは有効かもしれません。

今回ご紹介した研究では、まさにロボットに農業をさせるために実験が行われていました。

今後さらに研究が進んで実用化すれば、将来的には「ロボットが作った野菜」を口にする日が来るかもしれません。

なんだか夢のある話ですね。

【参考】農作物の自動潅水制御に向けたニューラルネットワークを用いたQ学習.神奈川大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻.難波脩人・辻順平・能登正人(2019年度人工知能学会全国大会)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2019/0/JSAI2019_1F3OS17a04/_article/-char/ja/

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