株式会社愛菜華田中ファーム 田中 稔久様

株式会社愛菜華田中ファームについて

一般的に会社を大きくするために、右腕が必要と言われます。

しかし、「右腕は不要。誰でも活躍できる仕組みを作るのが大事。」とのこと。

今回は、株式会社愛菜華田中ファームの田中 稔久社長にお話をお伺いいたしました。

株式会社愛菜華田中ファーム

代表取締役社長 田中 稔久様

https://www.aisaika-tanaka.com/

Q、株式会社愛菜華田中ファームの創立は何年ですか?

A、2015年です。今年で6期目に入ります。

Q、従業員数(社員とアルバイト数、研修生の数)を教えて下さい。

A、アルバイトが14名で、そのうち6名が障害者手帳をお持ちです。

Q、田中社長が農業を始められたきっかけを教えて下さい。

A、東京から福岡に帰ってきたときに、祖父がアルツハイマー病になって、世話するのが大変な状況でした。元々「跡を継がないといけない」と思っていましたが、東京では目的もなく飲み歩く日々でした。だから祖父の状況を見て、いい加減真面目にやらないといけないと思い就農しました。私は家族の中でも祖父と一緒の時間が多かったので、最期くらいは安心させたいと思いましたね。

祖父には「跡継ぎ」と言われて育てられました。だから将来的に農業をするものだと思って、高校も農業高校に進学しようと思いました。でも、両親から普通科高校を進められ、地元の進学校に行きました。高校卒業したら農業してもいいんだという気持ちでした。だから三者面談で「卒業したら農業がしたい」と言うと、先生は開いた口が塞がらない様子でした。すごく落ち込みましたが、周りも進学のために勉強していたので、結局大学に行くことにしました。でも、どうせ大学に行くなら地元から通えるところはやめようと思いました。その結果、熊本県の大学に進学して農業を学びました。でも、本当に農業がやりたくて大学に来たのではなくて、漠然と跡を継がないといけない程度の意識での進学でした。祖父との思い出があるから農業という感じでしたが、今では、農業があって良かったと思いますね。

Q、田中社長の経歴を教えて下さい。

A、地元の普通科高校を卒業して、熊本県の大学に進学しました。大学では飲食のバイトに夢中で、アルバイトなのに責任者になりました。そこで驚いたのは、自分の頑張りが売り上げに反映することです。飲食業の楽しさと難しさを経験できました。その後、東京へ行きました。でも目標も信念もなかったので、飲み歩くばかりの日々でした。そして自分の限界を感じて、福岡に帰りました。その時に祖父のアルツハイマー病があって、就農することになりました。

Q、株式会社愛菜華田中ファームの栽培作物を教えて下さい。

A、メインはとうもろこしとダリアです。他にもブロッコリーときゅうりを栽培しています。

Q、株式会社愛菜華田中ファームの栽培面積を教えて下さい。

A、ビニールハウスが2,600坪で、露地栽培が3haです。露地ではとうもろこし、ブロッコリー、きゅうりを栽培しています。

Q、株式会社愛菜華田中ファームが農業生産以外で行っている他事業について教えて下さい。

A、特にありませんが、加工を始めようと動いているところです。

Q、田中社長が会社を経営する中で最も気になることは何ですか?

A、人材育成です。

Q、その理由をおしえてください。

A、自分にとって「永遠のテーマ」だからですね。

株式会社愛菜華田中ファームの人材育成について

Q、株式会社愛菜華田中ファームの平均勤続年数はどのくらいですか?

A、1番長い人で7年勤めていますが、その人以外は1年未満の人がほとんどです。コロナ禍になってから採用を始めて、離職率も低いです。今年も夏前に4、5人入りましたが、1人も辞めていません。勤務体系をフレックス制にしていて、自分の体力と相談しながら働けることが大きな理由だと思います。決められた時間働いていると、特に夏場は体力を消耗して調子を崩しますからね。

Q、株式会社愛菜華田中ファームの従業員の平均年齢はいくつくらいですか?

A、30代後半くらいです。1番上が66歳で、1番若い人が19歳です。

Q、人材育成は上手く行っていますか?

A、わかりません。確実に上手くいくような仕組みを作ってるつもりで、周りからも「成長したね」と言われるので、上手くいっているのだと思います。

Q、その理由をおしえてください。

A、私がすべて教えず、ズレを修正するように立ちまわっているからだと思います。例えば、Aさんに作業を教えたら、次はAさんがBさんに教えるようにしています。

「教える立場で話を聞く」ことを意識させると、私が教えているときに真剣にメモをとります。責任感が芽生えて、しっかり覚えようという気になってくれますね。教えたことのない人にとって他人に教えることは、理解しているかどうかが試される、とても怖いことです。でも繰り返し教えていくことで、その人自身が成長していきます。でも、次に次に教えていくと、次第に方針ややり方にズレが生じてきます。私はそのズレを定期的に修正するようにしています。以前は私が全部教えないといけないと思っていましたが、今のやり方に変えてから、私の仕事が減りました。また、育成スピードも上がって、会社の中に良いサイクルが生まれましたね。

ただ、うちはコミュニケーションが苦手だったり、あまり器用でなかったりする人もいます。でも、うまくいかないことを前提に採用しているので、そこは気にしていません。それよりも、真面目でコツコツ、自分のペースで成長してくれることを重視しています。以前能力の高い人を雇いましたが、中途半端に社員として雇ったところさぼり始めました。管理が出来ず、ごまかしたり、人の責任にしたりしていました。だから能力よりも、一生懸命やって成長してくれる人を採用しています。私も経営者としてすぐにスキルアップできるかというと、そんなことありませんからね。自分のペースでしか成長できないから、自分なりに一生懸命やっています。

Q、人材募集は行っていますか?

A、ハローワークには出していませんが、障害者の施設外就労や直接雇用は常に受け入れられる体制を取っています。だから事業所からの連絡待ちの状態です。ギリギリの人数で回すのではなく、1人2人来ても受け入れられるくらい、余裕を持って経営していますから。

Q、採用活動で気を付けていることはありますか?

A、会社の方針と採用のための最低限のルールを、各事業所の担当者に伝えています。例えば、攻撃性があってトラブルを起こしそうな人はどんなに優秀でも採用しません。躁鬱があっても、落ち込むのが激しいのは構いませんが、気分が上がりすぎるのはあまり好ましくありません。このような基準を伝えることで、電話が鳴り止まないことはなくなりました。

Q、人材採用で苦労されている点について教えて下さい。

A、過去に苦労はありましたが、勉強して克服しました。

その苦労は、ハローワークでの募集の書き方ですね。例えば「地域で1番時給が高い」と書くと、お金目当ての人しか来ません。すると「ほかの業界より体力的にキツイのに、時給は変わらない」「思ったより稼げない」と、お金を理由に辞めていきます。中には、自分から条件を提示してきた人もいました。それよりも、理念や方針、ビジョンに共感できる人が来てくれた方がありがたいし、こちらも積極的に採用したいと思えます。だからホームページも作って、会社が大切にしている理念やビジョンをしっかりと書いています。ホームページを見る人はうちの会社がどんな会社が知らないので、しっかりと会社を分かってもらうえるようにしています。給与のことは微妙な表現をしていますが、それでも働きたい人は来てくれます。また、私もFacebookなどで顔を出すようにしています。このようにしてハローワークでの募集方法を勉強した結果、ミスマッチが減って離職率の低下につながりました。もしお金目当てできた人がいても、「他に行ってください」と伝えています。もっと稼げる仕事は世の中にたくさんありますから。

株式会社愛菜華田中ファームの生産管理について

Q、農業生産している中で、一番苦労した点は何ですか?

A、生産管理をアナログで伝えていたことです。

Q、それはどのように解決されましたか?

A、スマホ対応の環境制御装置を導入して、ハウス内の環境を見える化することで解決しました。それまではビニールハウスの中にパソコンを持ち込まないとハウス内の環境がわかりませんでした。でもハウス内の環境はパソコンにとって良くないので、その数値が本当かどうか疑っていました。でも、新しい装置を入れることで、生産管理がスムーズになりました。特に他の人に伝えやすくなりました。この「数値で伝える」ことは、親子の技術継承には必須だと思います。従業員は話を聞いてくれますが、家族だと思うようにいかないこともあります。だから見える化をすることで全然変わってくると思いますね。

Q、農業生産において独自で工夫されているところはどのような点ですか?

A、減農薬栽培と、無駄を省いた肥料設計を心がけています。

Q、現在、農業生産において困っていることはありますか?

A、今はありませんが、過去に「言った」「言ってない」で非常に困ったことがありました。

Q、解決に向けて取り組んでいることを教えて下さい。

A、ホワイトボードに引き継ぎ事項を書くようにしました。LINEだと流れてしまうので、これはアナログの方がいいですね。メモを取るのでも、メモを取った人のインプットにしかなりません。だからアウトプットする場所として、帰る前に書く。そして朝来たらまずホワイトボードを見て、その日の仕事を把握するようにしました。するとホワイトボードを見る時間が必要なので、みんな5分前には出社するようになって遅刻が減りました。遅刻が減ると家を慌てて出てこなくなったので、事故の確率も減りました。ミスがあっても原因が分かるので、自然とミスも減っていきました。引継ぎは大切と言いますが、その分時間もかかります。でもホワイトボードを使えばその時間を他の仕事に回せます。もちろん導入する中で、使いにくいという意見もありました。でも、すぐに改善しました。

このシステムを導入したのは、最年長のスタッフの提案です。生産管理に関する本が好きで「社長、これ知ってますか」と提案してくれました。私も経営について勉強していましたが、なかなかスタッフに落とし込めず、苦労していたので助かりました。高齢者雇用は、農業の現場では必要ないとよく言われます。でも、体力はなくても、そういったノウハウを活かして会社に貢献できます。実際、自分の提案が採用されて嬉しかったのだと思います。以前働いていた会社では、そんなの必要ないと言われていたようですから。

田中代表取締役が目指す農業の未来

Q、今後の展開について考えていることを教えて下さい。

A、障害者雇用という言葉がなくなるようにしたいです。私は障害者を差別してはいけないと思いますが、区別するべきだとは思っていました。同友会に入るまで、障害者雇用は農業界では画期的なことだと思っていました。でも、同友会の中では普通のことでした。中には警備会社で障害者雇用率が50%で補助金も一切もらっていないような会社もありました。障害のある人が新人に教えたり、現場でサインをもらったりしていました。「使える補助金があるなら申請したらどうですか?」と聞くと、「補助金がなくても利益が出ているから必要ないかな。」と言われていました。自分は甘かったと、その時に感じました。だから障害者という言葉のない、偏見のない未来を目指したいと考えています。

Q、田中社長から若手農家へひとことお願いします。

A、お金だけが目的なら農業をするな。お金が稼ぎたいなら他の他産業にいきなさい。農業に儲かる、楽しくて稼げる、やりがいがあると思っているなら、農業しない方がいいです。テレビを見て突然農業がしたくなったら、それは20年前の何も考えていなかった私と同じです。理念やビジョンを持って、人が好きで、農業が好きで、儲からないことを覚悟の上、農業に取り組んでください。

インタビューを終えて

障害者でも働ける職場環境の整備、最終目標は障害者雇用という言葉をなくしたい。

今では農福連携という言葉がありますが、昔そんな言葉があったよねと言える日が来るのではないでしょうか。

何も考えていなかった10代、東京で飲み歩いた20代、全てダリアに捧げた30代、そして経営を勉強し、過去の自分とこれからの自分を見つけた40代、これからの田中社長の50代が楽しみでなりません。

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