農作物の栽培は、地域や環境、条件、栽培する作物ごとに様々な方法がとられています。
その中でも、水やり作業を中心とする農作物への潅水において、農場の規模や栽培品目、ビニールハウス等の利用の有無などを条件に、様々な方法や方式が採用されています。
この記事では、農作物の水管理で使用される潅水装置の概要と、農作物への影響や効果、作物別に分類した潅水の方法を解説していきます。
目次
1.潅水装置の概要
2.農作物への影響と効果
3.潅水装置を使った農作業の省力化
4.少量多潅水での栽培に向けて
5.作物に適した潅水方法について
6.作物や栽培法に合わせた潅水装置を
1.潅水装置の概要
1)潅水装置とは?
潅水装置とは、井戸水や地下水などの水源から水を運ぶポンプ、水をろ過するフィルター、液体肥料を混入する機械、作物に水を与えるチューブ、ホース、スプリンクラー等の機器で構成される設備のことを指します。
潅水をスムーズに行うためにはこれらの機器を体系的かつ効果的に作動させる必要があります。
2)潅水の役割
業における潅水装置の役割は、農作物の生育に欠かせない「水」を与えることにあります。
農作物の水やり作業は多大な労力と時間を要しますが、潅水装置を設置すれば水やり作業に係る一切の作業を自動的に、または遠隔で行うことができます。
3)潅水の種類
・地表潅水
地表潅水は、作物が植えられた畝間の表面に潅水用のチューブやパイプを設置して潅水する方法です。
ビニールハウス等の施設園芸や野菜の露地栽培等で行われる方法です。
・点滴潅水
点滴潅水は、点滴のようにゆっくりと水やりを行う潅水方法です。
潅水に使用するチューブやパイプには、地表に設置して使用するタイプと地中に埋没して使用するタイプの2種類があります。ムダの無い効率的な潅水が特徴です。
・頭上潅水
頭上潅水は、ビニールハウスなどの施設園芸で用いられる潅水方法です。
ハウスの天井部にノズル付きのパイプを設置して施設全体を潅水します。最近では細かい霧状の水を散水するタイプの製品も発売されています。
2.農作物への影響と効果
1)病害虫の予防に効果
農作物の中には、品種によって葉に水がかかると病気になりやすいものがあります。
潅水装置に使用されるチューブやホースには孔径や孔の配列形、ピッチ数など様々な種類があるため、その作物に適した水量を葉にかからないように施すことができます。
2)品質や収量に影響
農作物に与える水量は、品質や収量にも大きく影響を及ぼします。
土中の水分量は農作物の生育に係る重要な部分と言われていますが、トマトなどの作物においては糖度を高くする為にあえて潅水量を抑制するそうです。
潅水装置を使用すれば農作物それぞれに合った水量がコントロールできるようになります。
3)圃場の乾燥対策にも
潅水装置は、夏場の暑さや雨不足などの圃場の乾燥対策にも有効です。
農作物は土壌が乾燥すると土の中の栄養分や塩分濃度が高くなり、十分な水分を吸収できなくなるという特性があります。
3.潅水装置を使った農作業の省力化
自動潅水でも遠隔潅水でも機器を使用した潅水作業は、労働時間の短縮や農業全体の省力化にもつながります。
日本の農業人口は、高齢化や担い手不足などを要因に年々減少の一途を辿っていると言われています。
潅水装置による農業の省力化は、農業生産に関わる人材不足を解消する為の重要な手段のひとつと言えます。
4.少量多潅水での栽培に向けて
1)「少量多潅水」とは?
「少量多潅水」とは、少量の水を時間をかけながら回数を重ねて与える潅水方法を指します。
農作物の潅水作業は、一度に多くの水を与えた後、時間を空けて次の潅水を行う方法を主流としてきました。
しかし、この方法は農地の環境を急激に変化させてしまう恐れから、以前から環境の変化を緩やかにする新しい方法の開発が望まれていたようです。
「少量多潅水」を採用した潅水方式は、農作物へのストレスを最小限に抑えることから「作物を健全に生育させる」と言われています。
5.作物に適した潅水方法について
1)水稲
・苗の育苗
水稲の育苗に使用される潅水の方法には、小面積ごとに散水する方法やハウス内に1本のチューブを布設して行う方法、ハウス内の両サイドから潅水を行う方法などがあります。
生産者によっては、霧状にした水を地面から噴霧して潅水を行う方法や頭上からハウス内全体に向けて散水する方法をとるケースもあるようです。
2)軟弱野菜
・ほうれん草・春菊・葉ネギ・小松菜・ちんげんさいなど
ほうれん草や春菊、葉ネギ、小松菜、ちんげんさいなどの軟弱野菜には、頭上潅水等を用いたゆっくりとした雨のような潅水方法を使用するケースが多いです。
露地栽培など頭上からの潅水が難しい場合には、作物の畝1本ごとで散水を行う方法や霧状にした水を地面から噴霧して潅水を行う方法がとられます。
3)葉菜類
・キャベツ・ほうれん草・レタス・セロリなど
キャベツやほうれん草、レタス、セロリなどの葉菜類も軟弱野菜と同様で、頭上潅水等を用いたゆっくりとした潅水方法を使用するケースが多いです。
しかし、株本やマルチ下に潅水を施したい場合には、作物の畝1本ごとに散水を行う方法やマルチ下で水平に散水を行う方法、畝の片側から散水を行う方法、点滴にようにゆっくりとした潅水を行う方法等がとられるようです。
4)果菜類
・きゅうり・かぼちゃ・トマト・なす・いちごなど
きゅうりやかぼちゃ、トマト、なす、いちごなどの果菜類では、株本やマルチ下に潅水を行うケースが多い為、作物の畝1本ごとに散水を行う方法やマルチ下で水平に散水を行う方法をとることが多いです。
しかし、マルチ無しで栽培する場合やイチゴの高設栽培等では、点滴潅水や飛び幅を抑制した散水等が行われます。定植後の活着促進や日焼け防止、冷却等にも使用されます。
5)根菜類
・大根・にんじん・じゃがいも・かぶ・ごぼうなど
大根やにんじん、じゃがいも、かぶ、ごぼうなど露地栽培を中心とする根菜類では、栽培方法の特性上、圃場全体に潅水する方法が広くとられています。
マルチを使用した栽培では、マルチ下で水平に散水を行う方法ほか畝の片側から散水を行う方法等がとられています。
6)果樹類
・リンゴ・ブドウ・ナシ・モモ・ミカンなど
リンゴやブドウ、ナシ、モモ、ミカンなどの果樹類では、樹木の株本やマルチ下への潅水ほか果樹棚に設置して使用するタイプの装置を用いた潅水が行われています。
設備には、果樹棚に設置する頭上潅水タイプの潅水装置ほか、飛び幅を抑制した二重管構造のチューブやパイプが使用されています。
7)花き類
・花木・球根類・切り花・鉢物・花壇用など
花木や球根類、切り花、鉢物、花壇用などの花き類では、観賞用という特性から美観を損なわないように雨のようなゆっくりとした潅水が行われるケースが多いです。
マルチを使用した栽培ではマルチ下への潅水を行う装置を使用する場合もあり、定植後の活着促進、日焼け防止や冷却等の目的にも使用されます。
6.作物や栽培法に合わせた潅水装置を
様々な農作物への潅水は、栽培作物や環境、条件、生育の段階によって様々な方法や方式がとられています。
例えば、同じ作物を栽培していても露地栽培とハウス栽培ではまったく異なる潅水方法が採用されているケースもあります。
水やりや施肥は、農作物の生育に欠かせない重要な作業です。潅水装置を導入する際には、ぜひこの記事を参考に検討を進めていただければと思います。