潅水制御装置に使用する潅水チューブ・電磁弁を解説

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潅水制御装置は、水源の水を汲み上げる農業用ポンプ、水の流れを制御する電磁弁、水やり作業を実行する潅水チューブなど様々な設備で構成されています。その中でも、潅水チューブと電磁弁は、潅水の実行とタイミングを制御する役割から、特に重要な役割を果たすとされています。この記事では、潅水チューブと電磁弁の役割、種類、選び方について解説します。

目次

1.潅水チューブと電磁弁の役割

2、潅水チューブと電磁弁の種類

3.潅水チューブと電磁弁の選び方

4. 潅水チューブと電磁弁の選び方

4.まとめ

1.潅水チューブと電磁弁の役割

1)潅水チューブの役割「水やり」

潅水チューブとは、等間隔に配列された数ミリ単位の小さい孔から潅水作業を行う農業用のホースのことを指します。

農作物の畝間に設置して株元に潅水するタイプの製品や土中に埋没して根の部分を潅水するタイプの製品などがあります。

潅水制御装置では、農作物への水やり作業を実行する役割を担います。

この、「水やり」という作業は農業において最も重要な作業の一つです。

根から吸収された水は、養分と混ざり、植物の体内を巡ります。葉の裏に多く分布している「気孔」と呼ばれる穴から、水蒸気となった水は放出されます。この水蒸気となって水を放出する作用を「蒸散」と言い、植物はこの作用によって栄養を体内に巡らせることで成長します。

また、農作物の水やり作業は、農作物の栽培管理の中でも特に多くの時間が費やされる重要な仕事です。潅水チューブには、農作物の水やり作業に係る時間を大幅に短縮できるという側面もあります。例えば、これまで手潅水で4時間かかっていた潅水にチューブを使用することで、1時間以内に収める事も可能です。

つまり、この「水やり」を効率化させられる潅水チューブは今や欠かせない農業資材です。

2)潅水チューブの役割「病虫害対策」

農作物の中には、品種によって葉に水がかかると病気になりやすいものもあります。

潅水チューブを使用すれば栽培する作物に適した水量のみを葉にかけることなく与えることができます。また、農作物の株元に直接水を与えることができる点滴潅水は、特に病虫害対策に適している潅水方法です。さらに点滴潅水は使用する水を最小限に抑えることができるので、コスト削減にも繋がり、一石二鳥です。

3)潅水チューブの役割「農作物の品質向上」

農作物に与える水量は、品質や収量にも大きく影響を及ぼします。

土中の水分量は農作物の生育に係る重要な部分であり、例えばトマトなどは糖度を高くする為にあえて潅水量を抑制する栽培管理法がとられているようです。

潅水チューブを使用すれば、農作物それぞれに合った水量のコントロールが可能になります。

4)潅水チューブの役割「圃場の乾燥対策」

潅水チューブは、夏場の暑さや雨不足など圃場の乾燥対策にも有効です。

農作物は土壌が乾燥すると土の中の栄養分や塩分濃度が高くなり、十分な水分を吸収できなくなるという特性があります。また、ビニールハウスの栽培では、ハウス内の乾燥予防のためにミスト状の潅水を行う場合もあります。ビニールハウスの頭上に、ミストタイプの潅水チューブを設置し、適宜潅水装置を作動させることで乾燥予防ができます。 潅水チューブを使用すれば、様々な気象条件や圃場環境に応じた潅水作業が可能になるだけでなく、ハウス内の湿度を保つこともできるようになります

5)電磁弁の役割

電磁弁とは、電気の流れを利用して空気や水などの流体を制御する機器のことを指します。

電気エネルギーを機械運動に変換するソレノイド部と呼ばれる部分と流路の開閉を実行するバルブ部の2つで構成されています。

潅水制御装置では、潅水のタイミングを制御する役割を担います。

2.潅水チューブと電磁弁の種類

1)灌水チューブの種類

灌水チューブの種類は、孔のサイズや形状、配列、間隔、厚さなどで分けられます。

・孔のサイズ

孔のサイズは、0.1ミリ~0.8ミリ程度が一般的とされています。

水稲の育苗やホウレンソウ、シュウギクなどの軟弱野菜では0.2~0.3ミリ前後を、イチゴやメロン、スイカなどの果菜類では0.2~0.6ミリ前後を使用するのが適正だそうです。

・片面孔/両面孔

潅水チューブには、片面のみに孔が開いている製品と両面に孔が開いた製品の2種類があります。畝間の中心に設置して、片側のみ潅水したい場合は片面タイプを、両側に潅水したい場合は両面タイプを使用します。

・孔の形状

孔の形状は、〇孔タイプと✕孔タイプの2種類があります。✕孔タイプは、水が霧状に拡散しやすい特徴に加え、目詰まりが起こりにくいというメリットがあるようです。

・孔の配列/孔の間隔

孔の配列は、2つの孔が互い違いに配列された千鳥型を一般的としています。間隔については、水稲の育苗や野菜の栽培を例に、7.5~30センチ前後を適正としています。

・チューブの厚さ

チューブの厚さは、0.12~0.4ミリ前後を上限に、潅水方法や強度面を考慮した使い分けがされています。一般的には0.2ミリ前後の厚さを用いるケースが多いようです。

2)電磁弁の種類

電磁弁には、2方向電磁弁、3方向電磁弁、4方向電磁弁の3つの種類があります。

・2方向電磁弁

2方向電磁弁とは、入口と出口の2つの配管接続口を持った電磁弁のことで、水流の流止を制御する機能のみを備えています。

・3方向電磁弁

3方向電磁弁とは、供給ポート、シリンダポート、排気ポートの3つの配管接続口を持つ電磁弁ことで、水流の流止を制御する機能に加え、流路の方向を変換する機能を備えています。

・4方向電磁弁

4方向電磁弁とは、供給ポート、2つのシリンダポート、1~2つの排気ポートで構成された電磁弁のことで、水流の流止を制御する機能、流路の方向を変換する機能、圧力の供給を制御する機能の3つを備えています。

3.灌水チューブと電磁弁の選び方

1)灌水チューブの選び方

潅水チューブの選び方を考える上で、重要になってくるのが潅水方法の種類です。

潅水方法には、地表・点滴・頭上の3つの種類があります。

・地表潅水

地表潅水とは、農作物の畝間に潅水チューブを設置して潅水する方法です。ビニールハウスを使用した施設園芸や野菜の露地栽培など、多くの農業現場で用いられています。また、マルチの下に通して潅水できる、マルチ栽培用のチューブもあります。

・点滴潅水

点滴潅水とは、点滴のようなゆっくりとしたスピードで潅水する方法です。潅水チューブを地表に設置する方法と地中に埋没する方法の2つがあります。灌漑農業が盛んなイスラエルなどの中東の国では、点滴潅水の技術が発達しています。ムダの無い効率的な潅水が特徴です。

・頭上潅水

頭上潅水とは、ビニールハウスの天井部にノズル付きの潅水チューブを設置して潅水する方法です。専用のスプリンクラーを用いれば細かい霧状の水を放出することも可能です。最近では細かい霧状の水を散水するタイプも発売されています。霧状の散水の役割は、農作物への水やりだけでなく、ビニールハウス内の湿度調整にも役立ちます。

2)栽培方法によって異なる潅水チューブ

施設園芸や大規模な露地栽培など栽培方法によっても用いられる潅水チューブは異なります。主に、施設園芸(ビニールハウス栽培)と露地栽培で異なりますのでそれぞれご紹介します。

・施設園芸(ビニールハウス栽培)

ビニールハウス等の施設園芸は、季節や天候を問わない栽培法であることや設置箇所の多様性から、潅水チューブが最も多く使用されるシーンとして知られています。施設園芸で使用される潅水チューブは、主に3タイプあります。

1つ目は、スミサンスイRハウスワイドのような畝間や株間、ビニールハウスのサイドに設置して潅水できるチューブです。潅水幅を調整し、ムラなく潅水できるようになりました。

2つ目は、ストリームライン60のような点滴潅水ができる潅水チューブです。株元に直接水を与えられるので、節水できるだけでなく、病虫害の発生予防にも繋がります。 3つ目は、ミストエース20ポット育苗と呼ばれる、霧状に潅水ができるチューブで、育苗や軟弱野菜の栽培、ビニールハウス内の湿度維持を目的に使用されます。野菜だけでなく、イチゴ栽培や花き栽培にも用いられています。

・露地栽培

露地栽培では、先述した病害虫の予防や乾燥対策に加え、大規模化による労力の軽減や作業時間の短縮などを目的に導入している生産者も多いようです。露地栽培で用いられる潅水チューブには、主に2タイプあります。

1つ目は、スミサンスイR露地ワイドのような畝間に設置し、散水幅が広いタイプのチューブです。露地栽培専用のチューブなので、劣化を防止するような素材が用いられています。柔らかい雨のような散水で、土の跳ね返りを最小限に抑えることができます。

2つ目は、マルチの下に設置できるスミサンスイNEWマルチ60のような潅水チューブです。株間にチューブを通し、上からマルチをかけた状態でも潅水できます。野菜栽培や花き栽培にも適しており、もちろんマルチなしの栽培でも使用できます。

3)電磁弁の選び方

電磁弁の選び方を考える上で、重要になってくるのが灌水制御装置の選択です。

灌水制御装置には手動・遠隔・自動の3つの種類があります。

・手動灌水制御

手動潅水制御とは、潅水作業に関するすべての操作を手動で制御する装置のことを指します。潅水制御装置の中では、最もポピュラーな方法として知られています。

手動灌水制御を対象にした電磁弁には、水道用の部品である青銅製のバルブコックが付いた製品や、Bluetooth機能を搭載したタイマー式の製品などがあります。

どのタイプの電磁弁を使用するか?は、予算の都合や人員の数など農業経営の規模によって変わりますので、それぞれの状況に応じた製品を選択してみてください。

青銅製バルブコック付き電磁弁 マサル工業(株)「電磁弁RSV型」

http://www.masarukk.co.jp/agroforestry/electromagnetic-valve-rsv.html

Bluetooth機能付き電磁弁 (株)イーエス・ウォーターネット「自動散水タイマー」

https://www.es-waternet.co.jp/product/detail?id=694&SESSIDFRONT=0bf26a77cdd91ca5252677f254f9d471

・遠隔灌水制御

遠隔潅水制御とは、インターネットを利用して潅水を遠隔から制御する装置のことを指します。当社の遠隔潅水制御システム「SenSprout Pro 潅水制御システム」がこれに該当します。

「SenSprout Pro 潅水制御システム」は、灌水ゲートウェイ、潅水制御盤の2つで構成された潅水システムです。スマートフォン等のデバイスを使用して、電磁弁を含むすべての操作を遠隔から制御することが可能になります。

潅水制御システム SenSprout Pro 潅水制御システム

なお、SenSprout Pro 潅水制御システムではCKD(シーケーディ)株式会社のGSVという電磁弁を推奨しており、25mm口径と50mm口径に対応しております。

・自動灌水制御

自動潅水制御とは、IoT(Internet of Things)とAI(人工知能)を組み合わせた完全自動型の潅水システムです。株式会社ルートレック・ネットワークスが開発・提供するAI潅水施肥ロボット「ゼロアグリ(ZeRo.agri)」がこれに該当します。

セロアグリは、「土壌の保水力は粘土質か砂質かによって異なる」という性質を元に、48時間の準備潅水を行ったあと、AIシステムが圃場の土壌条件を認識して土壌水分量を一定に保つように潅水を制御します。

電磁弁を含むすべての操作をAIが判断・制御してくれるため、潅水作業に費やす時間を大幅に削減できるほか、品質と収量の安定化を図ることができます。

AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ

https://www.zero-agri.jp/

4. 潅水チューブの使い方と注意点

1)潅水チューブの使い方

次に潅水チューブの使い方についてご紹介します。潅水チューブを動力ポンプに接続する場合は問題ありませんが、水道の蛇口から直接水を引く場合は注意が必要です。水圧が弱いと潅水チューブの先まで水が行き渡らず、散水幅にもムラができてしまいます。散水幅にムラができると、当然ながら農作物の成長にもムラができます。動力ポンプや前述したような潅水システムの場合は、水圧を一定に保つことができますので、散水ムラは最小限にすることができます。

また、露地栽培の場合は、風に煽られて潅水チューブがずれてしまう可能性があります。そうならないためにも数カ所ピンで止めることをお勧めします。

2)潅水チューブを使用する時の注意点

潅水チューブは水圧がかかりすぎると破裂する危険があります。使用する潅水チューブが耐えられる水圧について十分注意しましょう。また、土耕栽培の場合は、潅水チューブに空いた水が出る孔に土が詰まる目詰まりする危険もあります。散水すると土跳ねしてチューブに土がつき、孔に土が詰まってしまうからです。そうならないためにも、定期的に手入れをするようにしましょう。目詰まりしたまま散水を続けると、潅水ムラができ、生育に悪影響を与えます。

3)潅水チューブの手入れ方法

前項で、潅水チューブが目詰まりするのは土跳ねが原因であることは述べました。実は他にも目詰まりの原因はあります。土壌のpHや栄養成分、土壌粒子などさまざまです。pHが高いとミネラル成分沈澱しやすく、目詰まりのリスクが高まります。また、液肥潅水する際に濃度を濃くしすぎると栄養成分が沈澱し、同様に目詰まりのリスクが高まります。さらに、富栄養の状態では、藻が発生し、目詰まりしてしまいます。

詳しくはこちらの記事を参考にしてみてください。

潅水チューブの目詰まりを防ぐ一番の対策にもなる手入れは定期的に行うことが重要です。

どれだけ液肥を上手く使っても、どれだけ目詰まりのしにくい製品を使っても、一番大切になってきます。潅水は作物を作るうえで非常に大切な作業ですので、それを支える潅水設備は定期的に点検しましょう。

例えば、フィルターがあれば、水に付着している土やゴミをフィルターで留めることができますし、潅水ポンプを高水圧で通水することで、潅水チューブ内に溜まったゴミを洗い流すことも可能です。

また、潅水チューブ内を掃除する専用のブラシがあります。たわしやスポンジのメーカーであるアイセン工業の製品です。

中心から360°にブラシが広がっており、潅水チューブの中を通すだけで、汚れが落ちる仕組みになっています。使い方は簡単で、潅水チューブの中にブラシを押し込んで水を流すだけ。あとは水圧でブラシが潅水チューブの中を移動し、汚れを落としてくれます。

1回だけでなく、2回3回と繰り返し通すことで、より効果を得られるでしょう。 潅水チューブのメンテナンスにおすすめのアイテムです。

5.まとめ

潅水チューブと電磁弁は、潅水制御装置の中でも特に重要な設備です。

潅水制御装置を使用した農作物の水やり作業を成功させるためには、適切な製品と規格を選択することが重要になります。潅水制御装置を導入する際には、ぜひこの記事を参考に検討を進めてみてください。最後まで読んで下さりありがとうございました。

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