現在日本では、農業生産を効率化するための方法として、ICT(情報通信技術)を活用した農業ツールの普及が進められています。この記事では、スマートフォンを利用した土壌分析ツールについて紹介していきます。
目次
1.日本農業の課題
2.ICT(情報通信技術)とは
3.土壌分析とは
4.スマートフォンを利用した土壌分析ツール
5.まとめ
1.日本農業の課題
日本の農業は、農業人口の減少や高齢化、後継者不足など様々な課題を抱えています。
農林水産省が公表した「2020年農林業センサス(確定値)」によると、2015年時点で約176万人いたとされる基幹的農業従事者がこの5年間で約136万まで減少し、平均年齢も67.8歳まで上昇するなど、農業人口の減少と高齢化が同時進行しています。
このような課題を背景に、国や農林水産省は、ロボット技術やAI、ICT(情報通信技術)等の先端技術を活用したスマート農業を推進してきましたが、広く一般に普及するまでには至っていませんでした。
しかし、近年はスマートフォン等のモバイル端末の普及から、ICT(情報通信技術)を活用した農業ツールを利用する人が増えてきています。
2.ICT(情報通信技術)とは
ICTとは、「Information and Communication Technology」の略で、パソコンやタブレット、スマートフォン等のデバイスを活用した情報伝達ツールのことを指します。
ITとの違いは、ネットワーク通信を利用した情報や知識の共有を重要視している点で、身近な例では、SNS上でのやり取りやメールでのコミュニケーションなどが該当します。
特徴は、各種データ分析に必要な情報を遠隔から収集・蓄積できることで、農業分野では土壌分析に必要なデータを収集する機器や農作物の生育状況を記録するアプリなど、数多くの製品やサービスが販売されています。
3.土壌分析とは
土壌分析とは、農作物の成長に必要な土壌水分量や土中成分を分析する作業のことを指します。土壌分析に使用するデータは主に以下の6つです。
1)土壌水分量
土壌水分量は、土壌に含まれる水分量を示すデータです。
通常、土壌に含まれる水分量は、土壌表面に現れる湿り気や乾き具合を確認して判断する方法が一般的とされています。
しかし、ICTを活用した土壌分析ツールを使用すれば、土壌に含まれる水分量を遠隔から確認できるようになるため、農作物の成長に必要な潅水作業を効率的に行うことができるようになります。
2)土壌温度
土壌温度は、土壌水分の蒸発量の計算に使用するデータです。
土壌水分の蒸発は、農作物の健全な生育に必要な水分量を不足させてしまうことから、収量や品質にも大きな影響を及ぼすといわれています。
土壌温度の測定については、以下の記事で詳しく解説していますので、こちらを参考にしてみてください。
「土壌水分センサーを使用した土壌温度の測定について」
3)電気伝導度(EC値)
電気伝導度(EC値)は、塩分濃度を示すデータです。EC値が0.3㎳/㎝以下を示す場合は施肥量を増やし、1.0㎳/㎝以上を示す場合は施肥量を減らすのが良いといわれています。
電気伝導度(EC値)の測定については、以下の記事で詳しく解説していますので、こちらを参考にしてみてください。
「水分センサーを使用したEC値の計測と土壌づくりの基準値」
4)土壌pH
土壌pHは、土壌に含まれる酸性・アルカリ性の度合いを示すデータです。
農作物は、pH6.0~6.5の弱酸性の土壌でよく育つといわれています。しかし、土壌pHが低い状態のまま、土壌全体が酸性に傾き過ぎると、石灰分や苦土分の欠乏、アルミニウムの溶け出しを招き、根の生育を妨げてしまうそうです。
5)土壌pF(土壌の保水性)
土壌pFは、土壌の保水性や湿り気具合を示すデータです。十分に水分を含んでいる状態の土壌では低い数値を示し、乾燥している状態の土壌では高い数値を示します。
6)肥料成分の含有量
肥料成分の含有量は、土壌に残存する肥料成分の量を示すデータです。
農作物の成長には、水素、炭素、酸素、窒素、りん酸、加里(カリウム)、カルシウム、マグネシウム、硫黄など多くの栄養分が必要です。
その中でも、窒素、りん酸、加里は、市販されている多くの複合肥料に含まれる成分で、土壌づくりの3大要素としても知られていますが、同じ場所で同じ農作物を連続して栽培していると、これらの成分が土壌に残存してしまい、連作障害と呼ばれる事象が起きてしまう場合があります。
連作障害とは、土壌の成分バランスの崩壊や病害虫の発生を主な要因に発生する事象で、農作物の成長を阻害してしまう恐れや収量を低下させてしまう恐れがあるといわれています。
4.スマートフォンを利用した土壌分析ツール
1)簡易土壌分析ツール
JA全農が提供する簡易土壌分析ツールは、「土壌分析試験紙 スマートみどりくん」「簡易測色ツール Pico」「Pico専用スマートフォンアプリ」の3つを組み合わせて使用する土壌分析ツールです。
測定項目は、土壌pH、窒素、りん酸、加里の4つで、分析したい土壌試料に市販の精製水を加え、1分間激しく振とうした後、試験紙チップを3秒間(りん酸と加里は10秒間)浸してアプリで読み取れば、結果が表示される仕組みです。
今後は、圃場の所有者や栽培作物、作業記録等のデータをインターネットの地図上に表示できる営農管理システム「Z-GIS」との連携も検討しています。
・簡易土壌分析ツール
https://www.zennoh.or.jp/press/release/2020/77724.html
2)土壌分析器セット「つち博士M3」
合同会社 日本ボーデン研究所が提供する土壌分析器セット「つち博士M3」は、スマートフォンを利用して土壌に含まれる肥料成分を測定する土壌分析ツールです。
測定項目は、窒素、りん酸、加里、カルシウム、マグネシウム、マンガンなどで、土壌の抽出液を専用試薬で発色させたものを専用アプリで撮影するだけで養分濃度が測定できます。
また、パソコンへの転送後、付属の施肥管理システムを用いて各種データベースを作成すれば、自分だけの施肥設計をシミュレーションすることも可能です。
・土壌分析器セット「つち博士M3」
3)SenSprout Proセンサーシステム
当社が開発したSenSprout Proセンサーシステムは、PCやスマートフォン等のインターネットに接続するデバイスを使用して、土壌に含まれる水分量や地表面の温度を遠隔から測定・記録する土壌分析ツールです。
測定項目は、土壌水分量と土壌温度の2つで、土壌水分の変化を通知するアラーム機能や記録したデータをグラフ化して地域で共有する機能も備えています。
ベビーリーフの1種であるミズナを対象に、潅水作業の効率化を検証した実証実験では、1か月当たり最大306%の収量アップに成功しました。
・SenSprout Proセンサーシステム
5.まとめ
農業人口の減少や高齢化、担い手不足など多くの人的課題を抱える日本農業が発展していくためには、農業生産を効率化するツールの活用が重要になってきます。ICT(情報通信技術)を活用した農業ツールは、今回紹介した3つの製品以外にも数多く販売されていますので、興味のある方はぜひリサーチしてみてください。最後まで読んでいただきありがとうございました。