ビニールハウスに潅水制御機器を導入する際の費用

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自動潅水制御機器の登場により、ビニールハウス栽培における潅水作業は効率化が大きく進んでいます。設定しておくだけで自動的に潅水してくれるため、作業の手間が大幅に省けるからです。上手く使うことで、規模拡大や収益アップにもつながりますね。

しかし、実際に潅水設備を導入するとしたら、どれくらいの費用が必要なのでしょうか。

今回は、ビニールハウス1棟に潅水設備を導入する際に必要な費用の目安について紹介します。また「低コスト技術」として、農林水産省にも取り上げられている潅水設備についても紹介します。

また、設備費用についても潅水ホースや潅水ポンプなどの他に、代表的な自動潅水装置をご紹介します。自動潅水装置は料金体系がいくつかあり、比較的、新規就農者でも購入しめやすい価格となっています。

潅水設備に興味があって、新しく導入したいという方に最適です。

目次

1.ビニールハウス栽培で必要な潅水設備

2.潅水設備の導入に必要な費用の目安

3.製品の紹介

4.自動潅水制御システム

5. 潅水装置を導入するメリット

6.まとめ

1. ビニールハウス栽培で必要な潅水設備

潅水設備を導入する費用を紹介する前に、まずは潅水設備にはどのような資材があるのか、整理していきましょう。一般的にビニールハウス栽培には、養液土耕栽培と養液栽培の2種類があります。養液土耕栽培とは潅水と施肥を同時に行う栽培方法で、土に植えた作物に的確なタイミングと量による施肥潅水を行います。

一方で養液栽培は、土の代わりにロックウールやココピートといった培地を用います。水耕栽培も養液栽培の1つの方法です。土壌病害などを防ぎ、効率化を高めるメリットがありますが、人工培地などが必要な分、設備投資が大きいというデメリットもあります。

※ロックウール:天然鉱物由来の繊維。鉱物(無機物)由来の素材のため、燃えにくく湿気に強い。また繊維の間に空気がたくさん含まれているので、優れた断熱効果を発揮する。 ・ココピート:cococaRa(ココカラ)が販売する、インド、スリランカで栽培されているココナッツの殻の内皮にある繊維や粒を原料とした、天然有機質100%の土壌改良材

養液栽培は必要な資材が多く費用がかさむため、今回はよりシンプルな養液土耕栽培を導入する際の費用について整理したいと思います。

養液土耕栽培に必要な潅水設備を挙げると、以下のようになります。

・原水装置(井戸水ポンプ、原水タンク、濾過装置、フィルター)

・潅水ポンプ

・潅水チューブ

・液肥混入器

・制御装置(センサー、電磁弁、コントローラー)

・その他(バルブ、塩ビパイプなど)

それぞれの潅水設備について説明していきます。

まずは水源から取水する必要があります。取水に必要なのは井戸水ポンプです。水道水を使う場合は必要ありませんが、ビニールハウス栽培では井戸や農業用水を水源として用いることが多いため、井戸水ポンプとしました。農業用水を水源として使う場合は、農業用水用のポンプを使います。

取水された水は一旦原水タンクに貯水されます。小さなものは100L、大きなものだと5,000L以上のものがありますが、ハウス1棟を管理する場合は1,000L以上のものを選びましょう。

原水タンクに貯水された水は、灌水ポンプを通して液肥混入器に送られます。灌水ポンプは栽培面積に応じた流量を目安に選びましょう。

液肥混入器に送水する際には、目詰まり防止のための潅水設備も必要です。一度目詰まりを起こしてしまうと、解消には手間と費用がかかるだけでなく、作物の生育に大きな影響が出てしまいますからね。フィルターや濾過装置を設置して、定期的にメンテナンスしましょう。また、原水に鉄やマンガンなどの詰まりの原因となる物質が多く含まれている場合は、水質改善機器が必要になる場合もあります。原水については、潅水設備を導入する前に水質調査をしておくことをおすすめします。

さて、原水装置を通過した水は液肥混入器で液肥と混ざります。そして、潅水チューブを通って作物に与えられます。このとき、潅水のオンオフや系統の変更のためにバルブや電磁弁、流量計が必要となってきます。さらに、それらの動作を制御するコントローラーを取り付けます。

コントローラーにはいくつかの種類があります。

・タイマー制御式:タイマーで潅水開始時刻と潅水時間を設定する

・日射比例制御式:積算日射量を目安に潅水を制御する

・多系統制御式:1台の潅水装置で2つ以上の多系統を順番に制御する

・AI制御式:土壌水分やハウス内の気温、湿度などのデータを基に潅水を制御する

これらの他に、各機器を接続する部品が必要です。

以上が、養液土耕栽培に必要な潅水設備です。

2. 潅水設備の導入に必要な費用の目安

養液土耕栽培に必要な潅水設備を踏まえたうえで、導入する際の費用について紹介します。

基本的に、ハウス1棟に潅水設備を導入する場合は、30万~100万円の費用が必要です。費用の幅が大きいのは、メーカーや製品ごとに価格が異なるためです。一般的な目安としては、50万円前後と認識しておけばよいでしょう。

また、ビニールハウスの規模によっても多少変わってきます。例えば、奥行が50mのビニールハウスと100mのビニールハウスでは、潅水チューブの長さや原水タンクの容量、潅水ポンプの水圧などが違います。

ただし、今回紹介した50万円前後という費用は、水源がすでに確保されている場合の費用です。新しく井戸を掘る場合は別途費用がかかってきますので、そこは注意しておきましょう。浅井戸と深井戸によって工事費・設備費等異なりますが、潅水設備を合わせて100万円程度が必要となるでしょう。

3. 製品の紹介

ビニールハウス1棟に潅水設備を導入する際の費用が分かったところで、具体的な製品を紹介したいと思います。今回紹介するのは農林水産省のホームページに「農業用温室の設置コスト低減に向けた取組」として紹介されているものです。取り上げられている十数個の中から、3つピックアップして紹介します。潅水設備一式ではなく潅水制御装置がメインですが、あくまで参考になればと思います。

・株式会社ソフトウェア研究所「自動潅水装置「EBスプリンクラー」」

https://www.swl.co.jp/product/

電源がない場所でも利用できる潅水制御装置です。日射量や土壌水分量に応じて自動で潅水してくれる点が魅力で、少量多潅水による管理を可能にします。他にもタイマーや手動による潅水も可能で、原水と2つの養液を混ぜた養液土耕栽培にも対応しています。ソーラーパネルからの給電も可能で、電源のない場所でも使用することができます。価格は、圃場に電源がある場合は60万円~、ソーラーパネルを使用する場合は85万円~となっています。

・渡辺パイプ株式会社グリーン事業部「ウルトラエースK」

https://www.sedia-green.co.jp/product/facility/utak.html

日射比例制御ができる潅水制御機器です。クラウドシステムに潅水データの蓄積ができたり、PC・スマホからの遠隔操作ができたりすることもポイント。ビニールハウスに行く回数が減るため、省力化につながる製品です。価格は制御する系統の数によって異なり、4系統だと22万円、8系統だと40万円となっています。どちらの系統数でも、一般的な製品に比べると20%ほど価格が抑えられています。

・JAいわてグループ「うぃずOne」

https://www.jaiwate.or.jp/shin-iwate/wp-content/uploads/2020/06/jiko-kaikaku1810.pdf

こちらは養液栽培向けに開発された製品で、液肥混入器・コントローラー・潅水資材・肥料・栽培槽・培土がセットになっています。電気工事不要、自主施工可能などによって施工費・ランニングコストの低減を実現しています。価格は10aあたり150万円程度ですが、初期投資の必要な養液栽培としてはお得な価格です。

4. 自動潅水制御システム

ここでは自動潅水制御システムの特徴や性能、税抜価格を説明します(2021年6月現在)。

  • センスプラウト

始めにご紹介するのはセンスプラウトの潅水装置の導入総額です。センスプラウトの製品は、インターネットを利用して遠隔で簡単操作できる潅水制御システムです。いつでもどこでも遠隔で、スマートフォンやパソコンから潅水作業の予約・管理ができ、圃場に行くまでの時間も削減することができます。また、複数人で管理できるため、いつ・どこ(の圃場)に・どれくらい(の時間)潅水されたかの履歴も取得することができます。1台の潅水制御装置は最大4台の電気弁とつながっており、個別に4棟のハウスを管理することも可能です。既存のビニールハウスに設置できるため、特別な付帯工事は必要ありません。

さらに、センサーシステムと連携することで、土壌水分の状態も把握することができ、適切なタイミングで適量潅水することが可能です。

センスプラウトの潅水制御装置はクラウドサービスを利用するため、機能が継続的にアップデートされていきます。

潅水制御装置の導入総額

  買取モデル サブスクリプションモデル
販売価格 348,000円 5,000円〜/月
オプション ・専用電気弁4台の場合:一式448,000円 ・専用電磁弁4台の場合 一式 20,000円/月 ・専用電磁弁8台の場合40,000円/月
設定代行 ・関東圏・九州エリア訪問:30,000円 ・の他エリア訪問:50,000円 ・関東圏・九州エリア訪問:30,000円 ・の他エリア訪問:50,000円
クラウドサービス利用料 現在無料サービス中 現在無料サービス中
インターネット通信費 費用込み 費用込み
  • ゼロアグリ

https://www.zero-agri.jp/

次に、ゼロアグリの潅水制御システムの導入総額をご紹介します。ゼロアグリとはAI潅水施肥ロボットであり、1日の蒸散量から潅水量を計算し、人の手では難しい精密な少量多潅水を実現できます。10分ごとに圃場の状態をデータとしてクラウドに送信し、AIが計算処理する仕組みです。また、土壌水分だけでなく日射量も感知して、できる限り植物にとって水分ストレスの無い状態を保ちます。また、1台の装置で最大6系統までを個別に管理することができます。管理項目には、水分以外にEC値、日射量、地温があります。さらに、作物の生育ステージに合わせて液肥潅水の濃度調整も自動で行われるので、作業の効率化にはかなり有効です。

また、センスプラウトと同様にスマートフォンやパソコンで遠隔操作できるため、いつでもどこでも潅水の管理・調整することが可能です。

潅水制御装置の導入総額

  買取モデル サブスクリプションモデル リースモデル
制御盤・センサー 販売店より見積もり。 例:20a相当の圃場で125万円 ミニマムプランで 月額35,000円〜   販売店より見積もり。 例:7年払い148万円の場合、月額2.2万円
クラウド構築・初期設定費用 初回購入時のみ 250,000円 サブスク料金を含む リース料金を含む
クラウド利用料 年間120,000円 ※季節や導入台数により割引あり サブスク料金を含む 年間120,000円 ※季節や導入台数により割引あり
  • サンホープ

https://www.sunhope.com/products/kansui_timer.html

最後にご紹介するのは、サンホープの電池式潅水タイマーの導入総額です。サンホープは、ビニールハウスの上部に潅水パイプを設置できない、通路に潅水パイプを設置できない、そんなビニールハウスでの潅水に便利な潅水ホースやスプリンクラーを販売しています。ホースやスプリンクラーと同様に長年、中小規模の農家に愛用されているのが、サンホープの「電池式潅水タイマー」です。1台につき、1個の電池でタイマー設定できるので、電源設備のない圃場でも簡易に潅水タイマーを設置することができます。センスプラウトやゼロアグリのようなクラウドでプログラム制御する潅水装置も登場していますが、低コストで手軽に始めたい人にはサンホープがおすすめです。

その電池式潅水タイマーが、近年リニューアルされ、Bluetoothが搭載されました。Bluetoothの無線を通じて、スマートフォンにインストールした専用アプリで潅水を管理することができるようになりました。

電源設備やWi-Fiのない圃場でも遠隔で潅水を管理したい方にはおすすめです。

潅水制御装置の導入総額

・電池式潅水タイマー/DC7E-BT25:1台29,370円〜

・電池式潅水タイマー/DC7E-BT50:1台56,900円〜

・電池式潅水タイマー/DC11E-BT:1台13,800円〜

5. 潅水装置を導入するメリット

これまでご紹介してきたように、潅水制御機器を導入するにはまとまった費用が必要です。最後に、費用をかけてでも潅水制御機器を導入するメリットについて、解説していきたいと思います。

農業において、大切な作業の一つが水やりです。水やりを怠ると、枯れたり病気になったりして作物は成長できなくなります。そんな重要な水やりを全て手作業で行うと、1日に何時間もかかってしまいます。これでは他の作業や経営について考えること等、必要な作業や考え事に使える時間が減ってしまいます。潅水装置を導入することで、水やりに関わる時間を1日あたり数分から数十分程度に短縮し、作業の効率化ができるメリットがあります。

また、日本の農業は、農業人口の減少や高齢化、後継者不足など深刻な人的課題を抱えています。農林水産省では、これらの課題を解決するための施策としてスマート技術を活用した農業の普及を推進しています。

同省が2019年に開始したスマート農業実証プロジェクトでは、生産者や民間企業、大学、研究機関らで構成された各コンソーシアムを実施者に、稲作や畑作、果樹、花き類など各地の栽培品目に合わせた様々な実証実験が行われているようです。

現代農業は、収益性等の課題から継承や参入を敬遠する若者が多いといわれています。

しかし、自動潅水を使用した農業経営を実現すれば、これまでのイメージを大きく変える新しい農業のカタチが見えてくるはずです。

農業経営の効率化を実施する際には、自動潅水制御装置の導入を視野に検討を進めてみてください。

6. まとめ

ビニールハウス1棟に潅水設備を導入する際の目安となる費用を紹介しました。ビニールハウスの大きさや栽培する作物・方法によって幅はありますが、50万円という金額が1つの目安と考えておくとよいでしょう。

最先端の機器を導入する場合はもっと多くの費用が必要ですが、自分のやりたい規模やワークライフバランスを考えて、自分に合ったものを選びましょう。 潅水設備を導入する際は、必ずメーカーや先輩農家さんに相談してみましょうね。

また、潅水設備導入の際に、活用できる国の補助金・助成金や地方自治体の補助金・助成金もあります。自動潅水に関しては、「ITの導入」「経営の安定」「環境にやさしい農業」などの切り口から補助事業の申請ができると考えられます。例えば、IT導入補助金は、補助率が1/2のため、150万円の装置を導入する場合、75万円が補助されます。

補助金は申請期間がありますので、定期的に調査することをお勧めします。農林水産省が提供する逆引き事典は補助金や助成金の検索ができますので、ぜひ使ってみてください。

逆引き事典:https://www.gyakubiki.maff.go.jp/appmaff/input

日本の農業は、農業人口の減少や高齢化、後継者不足など深刻な人的課題を抱えています。農林水産省では、これらの課題を解決するための施策としてスマート技術を活用した農業の普及を推進しています。スマート農業化という意味合いでも、潅水制御機器の導入を検討されてみてはいかがでしょうか。

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