
潅水ポンプを使った潅水システムは、広範囲への潅水を可能にするため、農業の効率化に非常に便利な設備です。
特に、水管理が重要なハウス栽培では、インターネットを利用した遠隔操作で潅水時間を制御できる「遠隔潅水システム」の導入がおすすめです。
しかし、潅水システムの導入に必要な物や設置方法が分からないために、二の足を踏んでいる方もいると思います。
そこでこの記事では、潅水ポンプを使った潅水システムの導入方法について解説します。
遠隔潅水システムに加え、導入が容易な手動での潅水システムも解説します。
潅水システムとは、広範囲に潅水可能な給水設備

潅水システムとは、潅水ポンプに潅水チューブまたは潅水ホースを組み合わせて、広範囲に潅水ができる給水設備です。
人力での潅水作業は、水を汲んだり運んだり、ホース等を使って潅水するため大変ですが、潅水システムを使えば、予め潅水時間を予約しておくことで広範囲に潅水することができます。
その仕組みは意外と単純で、まず設備の起点に設置した潅水ポンプで地下水や井戸水の水を汲み上げ、その水に圧をかけて潅水チューブや潅水ホースへ送るというもの。送られた水は、潅水チューブまたは潅水ホースに開けられた細かい孔(あな)から吐き出され、土壌(作物)へ供給されます。
導入にはある程度の費用がかかりますが、一度潅水システムを導入すると潅水作業は一気に楽になります。
水管理が重要なハウス栽培や、地形的に潅水が難しい段差のある農地などで特に有効です。
水を汲み上げるには潅水ポンプが必要
潅水システムの導入に必要不可欠なのが、潅水ポンプ(農業用ポンプ)です。
潅水ポンプの役割は、潅水に必要な水を井戸や地下から汲み上げることと、圧をかけて水を送ること。
潅水システムに流れるすべての水は、この潅水ポンプから送り出されます。
潅水ポンプには電気で動く「電動ポンプ」と、燃料で動く「エンジンポンプ」がありますが、継続的な動作が必要な潅水システムにおいては、燃料補給の必要ない、電動ポンプが使われることがほとんどです。
また、潅水ポンプには、使用用途ごとに数多くの種類があるため、潅水システムの規模や構造に合ったものを選ぶことが大切です。
潅水ポンプを使った潅水の導入方法

潅水ポンプを使った潅水システムの導入方法を、遠隔からインターネットを使って制御を行う「遠隔潅水システム」と直接圃場にて手動で制御を行う「手動潅水システム」に分けて説明します。
「用意する物」、「施設構成」、「設置費用の項目と目安」について説明しますので、システム導入の参考にしてください。
遠隔潅水システムを導入する場合
インターネットを利用し、どこからでもパソコンやスマートホンで潅水システムを遠隔操作するためのゲートウェイと制御盤と電磁弁が必要になる分、手動潅水システムよりも導入のコストや難易度が高めです。
しかし、圃場へ行かなくても潅水を行うことができるため、利便性はかなり高くなります。
・用意する物
- ゲートウェイ(インターネットへ接続するための機器)
- 制御盤(制御用ソフトウェア)
- 潅水ポンプ
- 潅水チューブまたは潅水ホース
- 電磁弁
遠隔潅水システムの基本を構成するのは上記5種類です。タイマー動作させるだけであれば、ゲートウェイを使わなくても構築可能ですが、ゲートウェイを使うと、遠隔操作により急な水やりや潅水中止といった、複雑な操作が可能になります。
・施設構成

SenSproutが提供している潅水制御システムを例に説明します。潅水制御システムでは、制御盤が潅水システム全体のコントロールをしています。
制御盤は、潅水ポンプと電磁弁に接続され、システムで設定したとおりに潅水ポンプと電磁弁を動作させます。
1システムで4つまで電磁弁を操作できるため、潅水が必要な箇所にだけ潅水することも可能です。
・必要費用の項目と目安
遠隔潅水システムの設置に必要な、費用項目と金額の目安について説明します。
・遠隔潅水システム設置に必要な費用項目
- 材料費
- ゲートウェイ(インターネットへ接続するための機器)
- 制御盤(制御用ソフトウェア)
- 電磁弁
- 潅水ポンプ
- 潅水チューブまたは潅水ホース
- 潅水システム設置費や電気・水道工事費
- インターネットサービス使用料(インターネットに接続する場合)
- その他雑費
設置に必要な費用項目は上記のとおりです。
費用の目安は、30万円台~で、施設の規模によって変わります。SenSproutの場合は、制御システムと潅水ゲートウェイ、専用の電磁弁2台がセットになって、398,000円で販売しています。
なお、潅水制御システムをレンタルするのであれば、電磁弁一つにつき毎月5,000円のみで導入が可能です。
https://sensprout.com/ja/irrigationcontrolsystem-2/
ただし、遠隔潅水システムは、設置に必要な物がパッケージになって販売されている場合もあるため。販売価格が一括表記されている場合があります。
手動潅水システムを導入する場合
潅水システムを手動で制御する場合でも、施設の基本構成は遠隔潅水システムとほぼ同じです。
ただ、潅水ポンプの動作を手動で行うため、制御システムが不要になります。
・用意する物
- 潅水ポンプ
- 潅水チューブまたは潅水ホース
- 弁
手動潅水システムは、遠隔潅水システムよりも材料がシンプルです。制御システムが不要なため、一般的な給水用資材で構築できます。
ちなみに、潅水ポンプには、電源の規格が100Vと200Vの物があります。購入時にはよく確認してから選びましょう。
・施設構成

手動潅水システムの施設は、潅水ポンプで水を汲み上げて送り、その水を手動の弁で制御する構成です。
構成がシンプルなため導入が容易で、必要に応じて組み替えることも可能です。
小規模な農地で使いたい場合や、時期ごとに農地のレイアウトが変わる場合などにおすすめです。
・設置費用の目安
手動潅水システムの設置に必要な費用項目と金額の目安について説明します。
・手動潅水システム設置に必要な費用項目
- 材料費
弁
潅水ポンプ
潅水チューブまたは潅水ホース
- 給水システム設置費
- その他雑費
設置に必要な費用項目は上記のとおりです。電気工事が不要なため、費用の大部分を材料費が占めます。
設置費用の目安は、必要な材料費を積算すれば算出することができます。 それぞれの相場は、弁が1個当たり1万円前後、潅水ポンプが数万円~数十万円、潅水チューブまたはホースは、100mあたり1万円以下です。
潅水システムは自分で導入可能か

遠隔潅水システムを導入するにはそれなりの費用が必要なため、自前での導入を検討している方もいるのではないでしょうか。
本格的な遠隔潅水システムを導入するにはそれなりの費用が必要なため、導入を躊躇される方もいるかもしれませんが、簡易的な手動潅水システムなら自前でも導入することが可能です。
ここでは、自前で導入可能な手動潅水システムについて説明します。
電気工事不要の手動潅水システムなら導入可能
潅水システムを自前で導入する場合、導入の壁になるのが電気工事です。遠隔潅水システムは、電磁弁と潅水ポンプに接続するための電気工事が必要になるため、専門業者に頼まざるを得ません。
しかし、一般的な給水資材で構築可能な手動潅水システムなら、電気工事が必要ないため、自前で設置することも可能です。
必要な物は、弁、潅水ポンプ、潅水チューブまたは潅水ホースの3種類。潅水ポンプは設備屋さんや農機具屋さんから購入する必要がありますが、ほかの2種類はホームセンターでも手に入れることができます。
潅水の手間を少しでも減らすため、自前で設置可能な範囲で潅水システムを導入してみるのもいいかもしれません。
潅水システムは潅水を楽にしてくれる心強い味方
潅水システムは、日々の潅水作業を効率化してくれる心強い味方です。遠隔潅水システムを導入すれば、圃場へ行かなくても潅水が可能なだけでなく、水やりの時間の調整や急な水やりに対応可能です。
もちろん、手動潅水システムでも、その効果はかなりのものです。特に、夏の潅水作業に便利で、暑い中潅水作業をしなくていいだけでなく、熱中症の危険性を回避することもできるのです。
とはいえ、潅水システムの導入には費用がかかるのも事実。まずは試験的に小規模なシステムを自前し、潅水システムに触れてみるというのもいいかもしれませんね。