株式会社Y.Kカンパニーについて
佐賀県唐津と言えば、呼子の活イカが有名。今回、そんな活イカに負けない勢いのある生産者のお話を聞かせていただきました。 野菜を食べて健康になろう、そんな思いで設立された、株式会社Y.Kカンパニー本田和也社長にお話を聞きました。
株式会社Y.Kカンパニー
代表取締役 本田 和也様
Q、農業法人をいつ立ち上げられたか、お聞かせください。
A、2011年の1月4日に立ち上げました。今期で11年目になります。
Q、従業員数(社員・アルバイト・研修生)についてお聞かせください。
A、社員が3名、パートが14名、ミャンマーからの研修生が3名です。
Q、社長が農業を始められた背景やきっかけ・理由についてお聞かせください。
A、実家が柑橘農家だったから後を継ぎました。それが農業を始めた理由です。
Q、社長になられる前の経歴について、時系列でお聞かせください。
A、法人化する前は個人で農業をしていました。6年ほどかけて柑橘から野菜に切り替えて、
2011年に法人を立ち上げて今に至ります。農業歴は16年ほどです。
Q、主要栽培作物についてお聞かせください。
A、ほうれん草・水菜・小松菜の3種類です。柑橘はやめました。
Q、栽培面積についてお聞かせください。
A、ビニールハウス栽培が2.5ha、露地栽培が2.5haです。ビニールハウスは100棟あります。ビニールハウスには元々柑橘の木を植えていました。だからビニールハウスによって面積が違います。
Q、農業生産以外で、他事業を行っていらっしゃいますか?
A、ないです。今は収穫したものを袋詰めして、段ボールに詰めて出荷しているだけです。
Q、社長が今、販売・人材・生産管理の中で最も気になられている面をどれかお聞かせください。
A、人材と生産管理が同じくらい大切だと考えています。
Q、その理由についてお聞かせください。
A、野菜を作っているのは人です。極端な言い方をすると、作る人が変わると収量が減ることもあります。でも、1つの事業として、収量が人に左右されることがあってはいけないと思っています。だから人材と生産管理は一緒だと思っています。
Y.Kカンパニーの人材育成について
Q、従業員様の平均年齢についてお聞かせください。
A、55歳くらいだと思います。
Q、平均勤続年数はどれくらいかお聞かせください。
A、6年前後です。長い人だと農業法人になる前からいる人もいます。
Q、人材育成について抱えていた課題を、どんな方法で改善されましたか?
A、今までは私1人ですべてやっていたので、社員の教育ができていませんでした。例えば、施肥管理や農薬散布は、私しか持っていない情報を元にしてやっていました。
そんな中で、社員の1人が他の生産者の栽培に関する情報を入手してくるようになりました。そこから、私も社員の意見や提案を拒否するのではなく、相談しながら取り入れるようになりました。そして、取り組みの結果を数値化するようにしました。例えば、売り上げベースで目標数値を示して、社員に伝えるようにしています。自分たちが取り組んだ結果が目に見えてわかるので、モチベーションアップにもつながります。
この目標数値は収量でもいいですね。良い野菜を作れば、収穫や袋詰めなどの作業が早くなります。「下葉が枯れているな」などと、考える時間がなくなりますから。こういったことも社員に説明しています。他にも、1人当たり1時間に何kgの製品を作れたかという数値も毎日出しています。利益に直結する話なので、良いときと悪いときを比較して、人件費の差などを説明するようにしています。
Q、人材育成に関して、現在うまくいっていないこと・課題はありますか?
A、右腕を作りたいです。今の課題は生産において、自分がいなくても利益が発生する仕組みを作ることです。今後事業を拡大して私が新しいことに力を入れても、生産現場をしっかり回してくれるような右腕を作りたいと考えています。
Q、現在人材募集はされていますか?
A、今はしていません。最近2名入ったので止めています。採用方法はハローワークで、2人とも農業未経験です。
Q、採用面で苦労されているところがあればお聞かせください。
A、ハローワークや地域の新聞折り込み、ネット広告などで募集しても、見つからないときは本当に見つかりません。今回はたまたま2名来てくれました。
農業法人としての苦労と工夫について
Q、農業生産の中で、一番苦労した点についてお聞かせください。
A、品質を安定させられないから、価格も安定させられないということです。
先ほどお話ししたように、元々は柑橘農家でした。柑橘を辞めた理由は、自分で価格設定ができなかったからです。当時、JAに出荷していのですがいくら良いものを作っても、自分で価格を決められないし交渉もできない。このことにずっと違和感を持っていました。
だから野菜に切り替えたのです。そして、自分で作った野菜を自分で販売すれば、価格の決定権を持てると思っていました。でも、ふたを開けると厳しい世界でした。品質を安定させられなかったから、価格も安定しなかったのです。
Q、どのようにして解決されたかお聞かせください。
A、最初のうちは水菜だけ生産して市場に出荷していたのですが、価格が安定しませんでした。だから、十数年前になりますが、私自ら売り込み営業を始めました。ちょうどその頃、コンビニでカット野菜の販売が始まりました。そこでパッケージの裏を見て、製造元に直接電話しました。
まず、自社の野菜を知ってもらう必要があったので、スーパーで野菜の試食宣伝をしていました。このときは水菜をサラダにして提供しました。すると、約7割の人が水菜をサラダで食べられるという認識がないことがわかりました。このとき、直感で「まだまだ水菜は伸び代があるのでは?」と思いました。それから、水菜をカット野菜の原料として納める契約をいただきました。しかし、安定出荷ができなくて、お客様から「2週間先、1か月先の確約を証拠として見せてほしい」と言われました。
そこで始めたのが、Excelを使った播種計画作りです。それまではノートに書くというアナログ方式でした。Excelのカレンダーに出荷予定日を入れて、そこから逆算して播種日と栽培面積を決めます。そして、それをデータとして蓄積します。データは分析・蓄積ができますよね。例えば暖冬だと生育日数が短かったとか、寒かったら生育日数が長かったとか。それをデータ化することで、長期天気予報から前よりも綿密に播種計画を作ることができるようになりました。
加えて、週2回の生育調査によって、計画通りに出荷できそうなのか確認するようになりました。もし収量が計画に満たないようであれば、お客様に伝えるようにしています。事前に伝えることで、お客さん側にも対応してもらえます。反対に余るときもわかるので、特売をしてもらうなどして、余らせることなく売れるようにしてもらっています。
現在は販売・生産・出荷の理想的な流れが自分の中であるので、そこに向かって今取り組んでいるという感じですね。
Q、農業生産において、独自で工夫されているところと課題があればお聞かせください。
A、工夫している点は、データ化と生産の見える化です。
課題はデータがたくさんありすぎて分析しにくいことです。分析に時間がかかるので、もっと分析しやすいデータのとり方が課題です。これができないと、せっかくのデータを何にも活用できません。
Q、その課題に向けて何か施策をしている、または検討していることがあればお聞かせください。
A、特にしていません。これからです。いろいろ模索してみましたが、自社のやり方や作物に合わなかったのでやめてしまいました。今はほとんどExcel管理です。
Y.Kカンパニーが目指す農業の未来
Q、今後の展開について、お考えになられていることがあればお聞かせください。
A、今の農場長がやりたがっている、水耕栽培を始めたいと思っています。農場長はずっと前から水耕栽培をやりたいと言っていて、情報収集や資材の準備を進めています。だから彼にやらせたいと思っています。それに伴って、農場長の後釜が必要です。だから、生産現場を任せられる、右腕のような存在がほしいです。
また、新社屋を建てたいとも思っています。現在の作業場は手狭に感じています。だからもっと利益を確保して、みんなが働きやすい空間を作りたいです。
Q、社長が考えられる今後の農業のあるべき姿をお聞かせください。
A、会社の10年ビジョンがあるので、それに沿って農業を展開したいと思っています。
水耕栽培を始めて、新社屋を建てて、働きやすい環境を整えていきたいと考えています。
また、現在取り組んでいる委託販売事業にもっと力を入れていきたいと思っています。これは近隣の農家さんから野菜を集めて販売するという事業です。この事業を拡大させたい理由は、委託販売は農家が儲かる仕組みの1つだと思うからです。いくら良いものを作っても市場に左右されて儲からないということでは、後継者も少なくなりますよね。これでは悪循環です。だから、販売という出口の部分がしっかりしておけば、農家が儲かるのではないかと考えています。
その代わり自社がしっかりしていないと、元も子もありません。
私は1度、生産現場を離れていました。社員に任せないといけないと思って、生産の仕組みを作りました。でも、その仕組みが上手くいかずに、品質がどんどん低下していきました。「これではまずい」と思い、昨年から再び私が現場に入り始めました。それでも、私が現場にいなくても問題なく回るようにしたいので、今後3年で生産を任せられる状態まで進めたいと思います。そうすることで、次のステップが考えられるようになります。
海外に向けての野菜の輸出も考えていました。しかし、新型コロナウイルスが拡大して、考えさせられるところがありました。もともと、輸出向けの野菜はリスク分散として考えていたのです。でも、コロナで当たり前が当たり前ではなくなりました。例えば、「どこから買うのか」という消費者の選択肢が変わりました。ネット通販や宅配が伸びていますよね。農水省かどこかのアンケートで「コロナが収束してもネット通販や宅配を続けようと思いますか?」という質問に対して、半分以上の人が「利用を続けたい」と回答していました。つまり、ネット通販や宅配に、何らかの価値を見出しているということです。
私たちも、今までは安定出荷を重視して農業をしていました。でも、今の時代だと安定出荷は当たり前です。そして、次に起こるのは安定出荷ができている上での価格競争だと思います。それに巻き込まれないためにどうするのか、しっかりと考えておく必要があると思います。
Q、これから農業をしたい若者へのメッセージをお願いします。
A、人は食べないと死んでしまいます。だから、誰かの食を支えているということを誇りに思えるようになれば、農業は楽しいです。儲かる、儲からないというのはありますが、それは人それぞれ違います。普通の生活ができればいいという人もいれば、少し贅沢がしたいと思う人もいます。理想は人それぞれですが、人の食を支えていて、良いものを作れば「おいしかったよ」と言ってもらえる。そこに農業の楽しさがあると思います。
インタビューを終えて
目標や結果を数字で示し、過程をデータで残し生かしていく。
社長自らがこれらを徹底することで、従業員の方々がどこに向かえばいいのか共通のゴールが理解できる。農業法人を経営するうえで非常に大切なことを実直に取り組み続けた結果が成長し続けているのだと思います。 さらに、株式会社Y.Kカンパニーとして現状に満足するだけでなく、今後のビジョンを掲げさらなる飛躍を目指す。そんな想いがひしひしと伝わってきました。
今後のさらなる発展を期待せざるをえないインタビューでした。