株式会社佐保(サホ)農園 佐保 正彦様

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株式会社佐保(サホ)農園について

佐賀県佐賀市大和町にある佐保農園。近くには美人の湯で有名な古湯温泉、九州では数少ないスキー場の天山スキー場がある。そんな自然に恵まれた地で農業法人を運営されている佐保社長にインタビューをさせていただきました。

株式会社佐保(サホ)農園             

代表取締役社長 佐保 正彦様

栽培作物 ネギ、キャベツ

Q、農業法人をいつ立ち上げられたかお聞かせください。

A、平成18年に立ち上げたので、14年目になります。

Q、従業員数(社員・アルバイト・研修生)に分けてお聞かせください。

A、6名です。そのうち社員は2人、アルバイトは4人です。研修生は使っていませんが、2、3年に1回くらいの頻度で何人か来ました。

Q、社長が農業を始められた、背景やきっかけ・理由についてお聞かせください。

A、実家は専業農家ではありませんでした。父親は土木の下請けをしていまして、それ以前は石垣作りの職人でした。

私は農業高校を卒業して、滋賀県の園芸専門学校に行って、実習主体の研修を2年間受けました。その研修中で良い作物が作れていたので、農業をしてみる価値がある、自分でやってみたいと思いました。作物を育てるということに非常に意義を感じたので、農業に挑戦してみようと思いました。それから、地元に戻って農業を始めました。

Q、社長になられる前の経歴について、時系列でお聞かせください。

A、専門学校を卒業して20歳のとき、昭和53年の4月に農業を始めました平成18年に農業法人にしましたが、それ以前は個人経営でやっていました。

Q、主要栽培作物と栽培面積についてお聞かせください

A、小ネギがビニールハウスで約68a、キャベツが露地で約120aです。6、7年前の全盛期から比べると規模を縮小しています。

一番規模が大きかったときは、小ネギ96a、キャベツ230a作っていました。

現在のビニールハウスは16棟あり、小ネギとキャベツで生計を立てています。

Q、農業生産法人以外で、他事業を行っていらっしゃいますか?

A、農業生産以外はやっていませんが、個人出荷ですので、袋に自分の名前を入れて、パッキングまでして出荷しています。「薬味小ネギ」というロゴを袋に付けて、自分の商品としてあちこちに卸しています。

Q、佐保社長が今、販売・人材・生産管理の中で最も気になられる面はどれかお聞かせください。

生産管理です。

Q、生産管理を気にされている理由についてお聞かせください。

A、作ることは基本中の基本ですので、良いものを作るということに、一番神経を使っています。

佐保(サホ)農園が考えるネギの栽培管理について

Q、ネギを栽培する中で過去一番苦労した点について、またどのようにして解決されたかお聞かせください。

A、ネギに関しては、連作障害です。

ビニールハウスの中で、1年に4回転ネギを作るので、どうしても連作障害が発生します。ネギ栽培の特徴として、土を乾燥させてネギを固くして商品価値を上げようとするので、どうしても土が傷んできます。25、6歳の頃から微生物有機農法をしていますが、随分失敗もしました。紆余曲折を経ながら現在に至っています。

Q、ネギの栽培において、独自で工夫されているところがあればお聞かせください。

A、前の質問と被りますが、土づくりに力を入れています。

1年に1回土壌分析をしています。良い土というのは、物理性・生物性・化学性、この3つが整った土です。これは師匠からアドバイスをいただきながら栽培しています。

この辺り(佐保農園周辺)は川の近くで、土質は砂です。砂というのはCEC(塩基飽和度)が15ほどしかなく、保肥力が非常に小さな土です。これにゼオライトや泥炭、有機物を入れて保肥力の優れた土にします。これを毎年やります。肥料もボカシ肥料などを入れています。ただ、ボカシ肥料をずっと与えていると、ネギ自体は淡い色になります。これは消費者にアピールできる色ではありません。でも、植物自体は健康なのです。緑が濃いのは、硝酸態窒素が入って、極端に言うと豚でも食べない色なのです。だから植物本来の色に近い(淡い緑の)ものを作らないといけません。

栽培したネギの販売先について

Q、主な販売先についてお聞かせください。

A、

・市場を通したスーパーマーケット

・個人の仲卸経由のスーパーマーケット

・相対取引での市場への出荷

これらが5ヶ所くらいです。

小口は、ラーメン屋さんとうどん屋さんが5ヶ所くらいです。

どうして販売先を広げたかというと、リスク分散です。1ヶ所に、私の出荷量の3割以上を依存しないようにしています。例えば、卸先に数量の減少・値下げを頼まれたときに「ほかにも売り先があるから、そっちに売ります」というスタンスを持っていないといけません。対等な関係を作ることが大切です。

市場を通すこともリスク分散です。お金の回収は個人だとリスクもある。個人出荷を始めて25年になりますが、まだ1回も、回収できなかったことはないです。これは、私が相手を見る目があるということではなくて、たまたまです。おいしい話には乗っていないということはありますけど。薄利でいいから、長く付き合える相手を見つけることが大切です。販売は継続が一番、それには信頼関係が必要で、その次に利益が必要です。ここは販売で工夫している点でもあります。

Q、販売面で苦労された点についてお聞かせください。

A、25年前取引先とは、対等な関係ではなかったです。私が「お願いします。買ってください。」と頭を下げていました。だから、取引先の言いなりで、価格を落としたり数量を減らされたりすることもありました。それを、経験することで、ここ10年間は対等な関係になりました。極端な話をすると、25年前は出荷できるものがなかったら、他から買ってでも出せということもありました。そんなことをしていたら経営は成り立たちませんが、20年くらい前はやっていました。でも、今は対等な関係になりました。

Q、取引先と対等な関係になるために工夫することはありますか。

基本として、良いものを作る。良いものを作って、定量出荷する。世間が求める100点のものを100%出荷するのは難しいが、80、90点のものを、商品として納め続けることが大切です。良いものを作るとは言っても、極上のものは必要ありません。例えば、110、120点の品評会用のものはいりません。100点のものを、90点、85点くらいに少しハードルを下げて、必ず100%の量を納める。これが大切です。こうして信頼関係が築かれます。

でも、これだけ異常気象が続くと、100%の量を出荷するのは難しい。そういう時は仕方ない。でも、それ以外のときは販売先の要望を聞いてきちんと納めていくことが大切です。

Q、出荷できないときは、「佐保さんが出荷できないなら仕方ないですよね」という関係を築けることが大切ということですね?

そうです。

Q、今後の佐保(サホ)農園の展開についてお考えをお聞かせください。

A、私には農業専門学校を卒業してJAに勤めている息子がいますが、本人は「農業はしないよ」と言っています。私も無理にさせるつもりはありません。本人が「農業したい」と言えば、その時点で考えます。ただ、せっかく農業法人にしているので、異業種でもいいから誰か買いたいという人がいれば、条件次第で手放してもいいかなと思います。でも、私の身体が許す限りは農業をしていきたいと思います。70歳過ぎるまではできると思います。

Q、新規就農の方が、社長がお元気なうちに修行を積んで引き継ぐということもあり得ますか?

A、あり得ますよ。2年前に研修に来た子は非常に良い子で、現在しっかりとネギを作っています。本当に良いネギを作っています。今はJAに出荷していますが、いずれ個人の方へ出荷したいと言っています。

佐保社長が目指す農業の姿

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Q、佐保社長が考えられる今後の農業のあるべき姿をお聞かせください。

A、農業で自立できる農家が増えてほしいです。

そして一番懸念することは、農地が荒れることです。特に私の住んでいる中山間地域では、農地がどんどん荒れていっています。農政にはほとんど興味がありませんが、農地が荒れることをただ手を拱いて眺めているだけというのも、なんだか悔しいなと思います。それが一番の懸念材料ですね。私自身の農業経営以上に、中山間の農地が荒れることが心配です。誰も作る人がいません。今のままでは採算が合いませんから。

機械が必要だし、イノシシ・鹿・サルなどの獣害で農地が荒れます。昔から地産地消と言いますが、違います。“地産地衰“です。山を治める、水を治めるということが国土保全・食料自給という観点から見ると大切なのに。

Q、中山間地域の農業で、どのような対策をすれば未来があると思いますか。例えばスマート農業の機器を使って効率化するとか。

A、私の頭では思いつきません。(笑)

簡単なものではありません。いろんな学者が「ああしろ、こうしろ」と言いますが、おそらく答えはないと思います。そのくらい、中山間地域は切羽詰まっています。機械は高い、基盤整備はしていない、獣がいる。それでサラリーマンが土日だけやっていると、労働時間だけが長くなります。今は子どもが部活動などをすると、それの応援に行きますよね。昔はサラリーマンにそんな時間ありませんでした。2、30年前は、サラリーマンが日曜百姓でやっていました。今は集落営農があるが、もう少し発展させたらいいと思います。集落営農もほぼ補助金で成り立っていますよね。

Q、これから農業をしたい、農業をしている若者に向けて、メッセージをお願いします。

A、農業をしたいとか、異業種から入ってきたいという人もたくさんいますが、まず「作る」というところから入ってほしい。まず、1番は良い作物作ることです。これが基本中の基本です。異業種の方は販売から入ってくる人が多いが、それでは本末転倒です。良いものを作るというところから入ってほしいです。それがお互いの信頼関係になってきます。

インタビューを終えて

社長の話を振り返ると、継続して良いものを供給し続けることが取引先との信頼関係につながる。当然のことながら難しいことです。約43年農業を続ける秘訣を教えていただいた気がします。

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