土壌水分センサーを使用した農業研究の事例を紹介

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日本では、農業に関する様々な研究が行われています。その中でも土壌水分センサーを使用した研究は、農作物の栽培特性の解明や農業生産の効率化に役立つとして、その実証が進められています。この記事では、農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)が過去に実施した研究内容の一部を紹介します。

目次

1.土壌水分センサーの種類

2.土壌水分センサーが検知する情報

3.農研機構とは

4.土壌水分センサーを使用した農業研究

5.まとめ

1.土壌水分センサーの種類

土壌水分センサーには、テンシオメーター、平板型、電極棒式(TDR/TDT・ADR)、ロガータイプの4つの方式があります。いずれの方式もセンサーを地中に埋没して使用するのは同じですが、原理や形状に違いがあります。

1)テンシオメーター

テンシオメーターは、ポーラスカップと呼ばれる素焼きのカップを使用した土壌水分センサーです。センサー周辺の土壌が乾燥するとテンシオメーターに充填した水が外部に吸引される仕組みを利用して土壌の水分量を測定します。

2)平板型

平板型は、電圧をかけた平板型のセンサーを利用して土壌に含まれる水量の変動を測定する土壌水分センサーです。メンテナンスが簡単で電力の消費量も少ないことから、無人での測定にも向いています。

3)電極棒式(TDR/TDT・ADR)

電極棒式(TDR/TDT・ADR)は、土中に埋没した金属ロッドに流したマイクロ波を利用して、土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。センサー基部にある回路機器から発振された電磁波がロッドの先端に流れ、次の発振を誘発する仕組みを利用しています。

4)データロガー付きタイプ

データロガー付きタイプは、測定したデータを記録するデータロガーが内蔵された土壌水分センサーです。セット製品のほか、既存の土壌水分センサーと接続して使用するデータロガー単体の製品も発売されています。

2.土壌水分センサーが検知する情報

土壌水分センサーの中には、土壌水分の測定に加え、土壌温度や電気伝導度(EC値)、土壌pHを測定できる製品もあります。

これらの土壌水分センサーが検知する情報の詳細は以下の通りです。

1)土壌水分量

通常、土壌に含まれる水分量は、土壌表面に現れる湿り気と乾き具合を目視や手の感触で確認して判断する方法が一般的とされています

しかし、土壌水分センサーを使用すれば、農作物の生育に必要な水分量を数値で確認できるようになるため、適切なタイミングでの潅水が可能になります。

2)土壌温度

土壌温度の計測は、土壌に含まれる水分の蒸発量の計算に使用します。

土壌水分の蒸発は、農作物の健全な生育に必要な水分量を不足させてしまうことから、収量や品質にも大きな影響を及ぼすといわれています。

3)電気伝導度(EC値)

電気伝導度(EC値)は、土壌に含まれる肥料分や塩分濃度を示した数値です。EC値が0.3㎳/㎝以下を示す場合は施肥量を増やし、1.0㎳/㎝以上を示す場合は施肥量を減らすのが良いそうです。

4)土壌pH

土壌pHは、土壌に含まれる酸性・アルカリ性の度合いを示した数値です。

農作物は、pH6.0~6.5の弱酸性の土壌でよく育つといわれています。しかし、土壌pHが低い状態のまま、土壌全体が酸性に傾き過ぎると、石灰分や苦土分の欠乏、アルミニウムの溶け出しを招き、根の生育を妨げるといわれています。

3.農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)とは

農研機構は、農業・食品分野の研究を専門に扱う研究機関です。

研究する内容は、基礎技術から応用技術までと幅広く、近年は、「食料の自給力向上と安全保障」、「農業・食品産業の競争力強化と輸出の拡大」、「生産性の向上と環境保全の両立」の3つを目標に、農業・食品産業における「Society 5.0」の実現に向けた取り組みも推進しています。

4.土壌水分センサーを使用した農業研究

農研機構が土壌水分センサーを使用して実施した研究内容は以下の通りです。

1)「設置方法の違いを考慮した土壌水分センサーの校正式を求めるための室内試験」

この研究は、土壌水分センサーの設置方法と出力値の関係を調べたものでした。

研究では、センサー部で取得した情報に変換式(校正式)を加えて土壌水分量を割り出す電極棒式(誘電率)の土壌水分センサーを使用して、精度の高い測定を実行する設置方法を検証したそうです。

研究の内容と成果

・誘電率式土壌水分センサーの設置方法には、「センサーの周囲に土壌を充填する方法」、「センサー全体を土壌に挿入する方法」、「センサーのフォーク部のみを挿入して回路部周囲に土壌を充填する方法」の3つの方法がある。

・日本に分布する代表的な6種類の土壌(豊浦砂・黒ボク土・低地土・島尻マージ・水田土壌・山土)のうち、豊浦砂と黒ボク土ではセンサーの設置方法の違いで出力値が大きく異なる。

・設置方法の違いが出力結果に大きな影響を及ぼした豊浦砂と黒ボクは、pF2.0(土壌から水分を引き離す力を表す力)付近で土壌水分量が大きく減少することから、設置方法の違いで、黒ボク土(最大±0.076㎥)豊浦砂(最大±0.044㎥)その他の土壌(最大±0.025㎥)の誤差が生じることが判明。 ・これらの結果から、精度の高い土壌水分測定を行うためには、「センサーのフォーク部のみを挿入して回路部周囲に土壌を充填する方法」で取得した校正式を用いる必要がある。

出展:農研機構

https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nire/2017/nire17_s04.html

2)「土壌水分分布測定に基づく圃場内の平均土壌水分量を示す代表地点の抽出」

この研究は、土壌水分の状態を監視して潅水作業を実行するシステムに使用する水分センサーの埋設地点を検討するために実施されたものでした。

研究では、圃場内で測定した水分測定の結果にTime stability(土壌水分が時間で変動すると仮定したとき、その平均値と類似した地点を代表地点とする考え方)の概念を適用して、平均的な土壌水分を示す代表地点を抽出したそうです。

研究の内容と成果

・携帯式土壌水分センサーを使用して、地点毎・時間毎の表土(0~20cm)の体積含水率を測定。

・地点毎の平均相対差と標準偏差を算出した結果を参考に、地点毎の平均平方二乗誤差を算出して、圃場内の平均的な土壌水分を示す平均平方二乗誤差が最小となる代表地点を割り出した。

・圃場平均体積含水率と代表地点における体積含水率の関係から、代表地点として抽出された地点が、圃場平均体積含水率と比較して誤差の少ない地点であることを確認。 ・この手順を適用すれば、土壌水分センサーの設置地点を事前に特定することができる。

出展:農研機構

https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nire/2019/nire19_s06.html

5.まとめ

農研機構は、農業研究の成果を一般に向けて公開する技報誌も発行しています。

これまで発行した技報紙の中には、柑橘類を栽培作物に土壌水分センサーの利用方法を示した「カンキツ用簡易土壌水分計利用マニュアル」もありますので、ぜひこちらも確認してみてください。最後まで読んでいただきありがとうございました。

農研機構「カンキツ用簡易土壌水分計利用マニュアル」

https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/059812.html

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