「スマート農業」という言葉が世の中に出てしばらく経ちました。
潅水やトラクターなどの自動運転化、ドローンの利用など、あらゆる農作業がスマート農業化しています。
実際にスマート農業に切り替えて、「作業が楽になった」、「効率がよくなった」と感じられた方も多いのではないでしょうか。
また、自分の農場に導入したいと考えている方も多いでしょう。
そして、スマート農業の中でも、AI(人工知能)を用いた技術は、特に注目を集めています。
最近では、「自動○○」というと、必ず「AI」という言葉が付いてくるほどです。
では、「自動化」と「AI」では何が違うのでしょうか。
AIを導入することで、どんなメリットがあるのでしょうか。
そこで今回は、農業でのAI利用について紹介します。
特に施設園芸で活躍するAIには、どのようなものがあるのでしょうか。
目次
1.そもそもAI(人工知能)とは?
2.農業にAIを導入するメリット・デメリット
3.養液土耕栽培向けのAI「ゼロアグリ」
4.ビニールハウス内の環境を制御するAI「クレバアグリ」
5.病害予測に特化したAI「Plantect(プランテクト)」
6.まとめ
1.そもそもAI(人工知能)とは?
農業で活躍するAIを紹介する前に、そもそもAIとはどのようなものなのでしょうか。
AI(人工知能)とは、Artificial Intelligenceの略で、辞書には「学習・推論・判断といった人間の知能をもつ機能を備えたコンピューターシステム」と記されています。(大辞林 第三版より抜粋)
https://kotobank.jp/word/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E7%9F%A5%E8%83%BD-4702#:~:text=%E5%A4%A7%E8%BE%9E%E6%9E%97%20%E7%AC%AC%E4%B8%89%E7%89%88%E3%81%AE,AI%20%E3%80%82
つまり、「学習する機械」といえるでしょう。
コンピューターが大量のデータを学習し、そこから自動的に予測を立てて、タスクを実行します。
皆さんが普段何気なく利用している、最も身近なAIは、検索エンジンでしょう。
例えば「Google」など、インターネットの検索エンジンにも人工知能が活用されています。
キーワード、文字数、滞在時間、直帰率といった情報をもとに学習をしながら、質の低いコンテンツ、有害コンテンツ、コピーコンテンツなどを排除するようしています。
このインターネット社会、多くの方が検索エンジンを利用されていますが、人工知能のおかげで、自分が必要とするコンテンツにたどり着けるようになっています。。
他にも、日常的にさまざまな場面でAIが活躍しています。お掃除ロボット「ルンバ」や人間の感情を認識できるロボット「Pepper(ペッパー)」、最近では自動運転などもAIを利用しています。
2.農業にAIを導入するメリット・デメリット
そんなAIですが、農業分野での活用も広がっています。
では、農業にAIを導入するメリットは何でしょうか。
農業にAIを導入する主なメリットは
・生産効率アップ
・農作業の省力化
・生産コストの低下
の3点です。
AIによって最適な作物管理や効率的な資材の利用が実現すれば、生産性の向上とコスト削減につながるといわれています。
そのため、AIがうまく活用されれば、農業人口の減少や高齢化による農業の労働力不足の解決につながると考えられています。
また、技術や知識の乏しい新規就農者でも品質の高い作物を生産できるようになるため、農業へのハードルが今まで以上に下がるかもしれません。
そして単なる自動化と異なり、機械自身が学習したことを作物管理に反映してくれます。
例えば、潅水の自動制御装置は、人が設定した数値の通りに自動で管理してくれます。
それに対してAIは、膨大なデータの中からそのときの作物の生育状況に最適な数値をAI自らが算出し、自動で潅水や施肥などの作物管理を行います。
それまで人がやっていた「数値の設定」という作業を、機械が代行してくれるのです。
一方で、AIの農業への活用には課題もあります。
1つ目は、導入コストが高いという点です。
将来的には低コストでの導入が可能になるかもしれませんが、現在は、まだ農業分野でのAI活用が始まったばかりという状況です。そのため、費用対効果の見通しがつき辛くなっています。
2つ目は、予期せぬ状況への対応です。
農業は自然との密接なつながりをもつため、予期せぬ天候の変化や病虫害の発生など、データでは対応しにくい状況も発生します。地域ごとの土地条件の違いもあるため、質の高いデータをAIに蓄積できるかという点で課題となっています。
他にも、AI技術を活用できる人材育成など、農業へのAI導入には課題が山積みです。
しかし、日本の農業の課題を解決する1つの手段として、AIの農業利用に関しては、日夜研究が行われています。
では、実際にAIを活用した農業システムには、どのようなものがあるのでしょうか。
3.養液土耕栽培向けのAI「ゼロアグリ」
ゼロアグリ(ZeroAgri)
養液土耕栽培とは「少量の水でいかに効率よく生育させるか」という考えを元に、点滴潅水を用いて作物を栽培する方法です。
慣行栽培に比べ、潅水・施肥量が少ないのが特徴です。
しかし、気象条件や作物の生育に合わせた潅水・施肥量の調節が難しいという課題がありました。
そこで開発されたのが、株式会社ルートレック・ネットワークスの「AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ」です。
ビニールハウス内での潅水施肥を完全自動化し、理想的な養液土耕栽培を実現しました。
ゼロアグリの仕組みは次のようになっています。
まず、ビニールハウス内の各種センサー(日射・温湿度・土壌など)から得られたデータをクラウドに送ります。
次に、クラウドが現在の作物の生育状況に最適な培養液の量を計算し、ビニールハウスに設置されたゼロアグリに、培養液の最適な供給量と時間を指示します。
そして、ゼロアグリから自動的に潅水・施肥が行われます。
ビニールハウス内のデータは10分ごとにクラウドに送信され、どんどん蓄積されていきます。
さらにこのデータは、PCやスマートフォンを使えば離れていても確認できます。
また、培養液の濃度や潅水の時間は、手動による管理も可能です。
この手動管理の機能は、作物の糖度をあえて高くするなど、地域や農家ごとの特色を活かす際に役立ちます。
ほかにも、猛暑や急な天候変化に対応する機能も搭載しているなど、予期しない状況への対応もできるように設計されています。
このような機能をもつゼロアグリによって、養液土耕栽培における管理作業の大幅な削減や、収量・品質の安定化が可能となりました。
温湿度や日射量などの環境データの数値化により、農家の事業継承にも大きく貢献しています。
また、水や肥料を適切な量だけ使うため、生産コストの削減にもつながっています。
導入する農家も増えているため、現在の日本をリードするAI潅水施肥ロボットといっていいでしょう。
誰でも世界基準の養液土耕栽培ができる、そんな画期的なシステムです。
4.ビニールハウス内の環境を制御するAI「クレバアグリ」
クレバアグリ
クレバアグリ株式会社からは、IoT+AIによる農業クラウドサービスがリリースされています。
温度・湿度・日射量・CO2濃度など、ビニールハウス内のセンサーで収集したあらゆる環境データをクラウド上でAIが分析し、土壌水分量や日射量などを自動制御します。
クレバアグリの特徴は、使用しているクラウドサービス「Alibaba Cloud」が、日本と中国にデータセンターをもつことです。
日中両国の栽培データがクラウド上に蓄積されるため、大量のデータがどんどん蓄積される仕組みとなっています。
クラウド上のデータが増えれば増えるほどAIの学習精度が向上するため、作物にとってよりよい生育環境をAIが求められるようになります。
海外のデータもAIに学習させることで、今までの日本では考えられなかったような栽培管理も実現するかもしれません。
5.病害予測に特化したAI「Plantect(プランテクト)」
Plantect(プランテクト)
もし、作物が病気にかかりそうだということが前もって分かっていたら、農家はどれほど助かるでしょうか。
BOSCHの販売する「Plantect(プランテクト)」は、病害予測に特化した温室内環境遠隔モニタリングシステムです。
ビニールハウス内に設置したセンサーで、ビニールハウス内の環境をモニタリングします。
そして、それらの環境データから、AIが病害発生のリスクを予測します。
作物の病気のリスクを知ることで、適切なタイミングで適切な量の農薬を散布することができます。そのため、農薬の散布量と作業量を抑えることができます。
また、病害によって廃棄する作物が減るため、品質の向上や収量アップにつながります。
培養液の潅水やビニールハウス内の環境制御といった機能はありませんが、農家の脅威である「作物の病害の発生」を予測できる、非常に心強いシステムです。
5.まとめ
農業(施設園芸)で活躍しているAIについて紹介しました。
潅水や施肥、環境制御など、今までは人の手で行っていた作業が、次々と精度の高いAIに置き換わっています。
今までは感覚頼りだった農業にAIを導入することで、誰もが高品質の作物を安定して作れる時代が到来しつつあります。
そして機械が学習し、機械が実行することで、労働力不足や後継者不足などの日本農業の課題が解決するかもしれません。
もしかすると、将来的には農作業のほとんどをAIが担う時代が来るかもしれません。