有限会社中原温室について
外食産業向けの作物を主力生産物として大葉・パセリ・バジルを生産している中原温室様ですが、コロナ禍の影響で厳しい経営状況にあっても不思議ではありません。
そんな中、大きなダメージを受けることなく運営をされている理由は、ブレない経営方針と自ら描く将来のビジョンへ向かってひた走る姿に答えがあるように感じました。
今回は、有限会社中原温室の作本竜寛専務取締役にお話をお伺いしました。
有限会社中原温室
専務取締役 作本 竜寛様
https://nakahara-onshitsu.com/
Q、有限会社中原温室の創立は何年ですか?
A、父が創業してから、およそ30年が経ちました。
Q、従業員数(社員とアルバイト数、研修生の数)を教えて下さい。
A、社員が2名、パートさんが20名、外国人研修生が9名です。パートさんには選果・収穫作業をしてもらっています。
Q、作本専務が農業を始められたきっかけを教えて下さい。
A、元々農業をするつもりがなかったので、農業高校には行きませんでした。でも大学受験で将来のことを考えたときに、実家が農家であることは1つの個性だと感じ、その個性を伸ばそうと思って農業を志しました。
Q、作本専務の経歴を教えて下さい。
A、関東で農機具メーカーに勤務して、展示会やイベントの企画運営をしていました。そこで自分が学びたかったことは、機械の原価や修理の方法です。将来独立、または実家に就農したときに、1番コストのかかる機械について学びたかったのです。あとは営業などの業務を通して社会経験がしたかったのです。そして退職後、熊本県に戻ってきました。
Q、有限会社中原温室の栽培作物を教えて下さい。
A、大葉、パセリ、バジルです。
Q、有限会社中原温室の栽培面積を教えて下さい。
A、大葉は1.2ha~3.0ha、パセリが熊本市内と阿蘇の2圃場合わせて4~5ha、すべてビニールハウス栽培です。ビニールハウスは合計で100棟を超えています。阿蘇で栽培しているのは、産地をリレーして周年出荷するためです。平野がある方が農家は強いですが、熊本には関東平野のような大規模な平野がありません。でも、熊本には熊本なりの勝ち方があります。近くに標高の高い山があるということは、気温差を利用した栽培ができるということです。
Q、有限会社中原温室が農業生産以外で行っている他事業について教えて下さい。
A、父の代では大葉の6次化をしていましたが、私の代でやめました。父は私に経営をゆだねた時点で私にすべて任せるというスタンスだったので、反対はありませんでした。私は自分の強みを活かせる市場から逸脱しないことを経営で大切にしています。私が農業の先輩に教わったのは、「屏風(びょうぶ)と経営は広げすぎると倒れる」ということです。屏風はある程度の広さまではきれいに見えるけど、広げすぎると倒れます。経営も一緒です。
Q作本専務が会社を経営する中で最も気になることは何ですか?
A、販売と生産管理です。
Q、その理由をおしえてください。
A、人材育成は自分の中でうまくブラッシュアップできていないところがあります。販売と生産管理はある程度経営してきて少しつかめてきているので、お話できることががあるかなと思っています。
有限会社中原温室の販売戦略について
Q、有限会社中原温室の販売先はどちらですか?
A、うちは1社当たりの売り上げに対し、多くても生産量の2割~3割の取引で抑えています。だから販売先は50社ほどあります。連鎖倒産の防止、主導権を握られて価格を決められることを避けるために、発言権を持てる距離感で取引させていただいています。農協や市場には出荷していないので、メインの販売先は生協関係ですね。すべて全国の卸売業者を通しています。物流は知り合いの運送屋さんの中で、運賃が安いところにお願いしています。
Q、有限会社中原温室では直販されていますか?
A、仲卸の方を、営業を担ってくれる社外の仲間だと思っているので、直売はしていません。その方の儲かることが私たちの儲けにつながるような仲間を増やすことが大切だと思っています。つまり、私たちの商品を売れば売るほど、その人も儲かる仕組みです。そうすればその人も私たちのために頑張るし、私たちもその人のために出荷します。バイヤーさんとお話しするときに、お店と私たちの間に1クッションあると良好な関係を築きやすくなります。この3者の関係性は、長く取引を続けるためには必要だと思います。営業を1人雇って全国に行かせるより、各地方の卸の人が地元に展開すれば費用もかかりません。営業を雇うよりも、中間マージンだけ取っていただいた方が、私たちとしても全国展開できます。
Q、販売戦略において苦労されていることはありますか?
A、全国に展開しているので、流通の途中で商品の傷みが発生します。その責任をどこが持つのか決めるのに、毎回苦労しています。本当は傷まずに卸せるのが一番ですけど、その原因を見つけるまでが大変です。特に新しい取引先は、傷まずに出荷できる方法を見つけるまでは、ある程度のロスを覚悟しないといけません。でも、逆にありがたいと思っています。これは他の人も苦労することなので、私たちが早めに完璧な方法を身につけて傷まずに出荷できるようになれば、たとえ少し価格が高くても「作本さんのところは流通ができていて安定的に出荷されるから、作本さんと取引したほうが楽だよね」と思っていただけます。
Q、販売戦略において工夫されていることはありますか?
A、取引先の方は不満に思われているかもしれませんが、私たちは対応の早さが正義だと思っています。だからクレームがあったときには、なるべくその日のうちに対処しています。その際、誠意をお見せすることが必要ですが、一番の誠意は対応の早さだと思います。これは前職の営業から学んだことです。農家さんの傾向として、自分のものは完璧だと思いたいので、自分の非を認めるまで時間がかかります。だから、まずは謝って、解決してからゆっくり話し合うようにしています。感情的になったら、仕事はだめだと思います。お客さんも私たちもいい商品を取引できるような関係を構築したいと思っているので、その実現に向けて素早く対応するのがよいと思っています。
有限会社中原温室の生産管理について
Q、農業生産していて一番苦労した点は何ですか?またどのように解決されましたか?
A、阿蘇という離れた圃場との行き来です。熊本市から2時間かかるので、そこを管理することに苦労しています。
Q、どのように解決しようとしていますか。
A、責任者となる人を阿蘇に配置しています。その人を中心に管理していくことで、管理の課題は少し改善されました。私の思いをその人が受信して、阿蘇で展開してくれています。だから、生産管理では人が大事だと思います。また、これは人を育てるにもいい方法だと思います。誰も頼る人がいないので、自分でしっかりと考えます。責任感が人を育てていますね。
Q、農業生産において独自で工夫されていることはありますか?
A、土作りです。それぞれのビニールハウスの日照量や水分量、土の質をすべて記録して、1つ1つの圃場ごとに対応の仕方を変えています。今までさまざまな資材や農薬の提案を受けました。でも、他の圃場で成功したことがうちで成功するとは限りません。私も、最初は全圃場同じ量の肥料を入れていました。でも何度も繰り返しているうちに、向き不向きがあることに気づきました。それからはビニールハウスの棟数分のやり方、100通り以上のやり方で毎回施肥しています。この苦労が、最近報われ始めました。100通りのやり方が自分の中に落とし込まれていくので、自分個人としての成長も感じます。1通りで50年続けるのと、100通りで50年続けるのでは、フィードバックの量が全然違います。苦労はありますが、自分の成長を感じられるので嬉しく思っています。
Q、現在、農業生産において困っていることはありますか?
A、もう少し鮮度を保持できるようなシステムがほしいです。そうすれば、取引先の方に迷惑をかけなくて済みます。コールドチェーンなどの発達で、以前よりも鮮度は維持できていると思います。でも他の地域と違って、九州から関東に出荷する場合は2日かかります。この課題を解決したいですね。
あとは、最近暑くなってきましたよね。人がビニールハウスの中で作業するにも限界があるので、ハウス内の温度を気化熱で温度を下げるシステムが気になっています。殺菌水を利用できればハウスの中も殺菌できて、農薬の使用量も減りそうです。
作本専務が目指す農業の未来
Q、今後の展開について考えていることを教えて下さい。
A、農業起業家を地方に増やしていきたいと思っています。今、新規就農者の成功事例がほとんどなく、農業は私たちのような2世代、3世代、あるいはバックグラウンドを持った人しか生き残れない業界になっています。新規就農者は、よほどの個性がない限り成功しません。だから私は、新規就農者を資金面・運営面からサポートして、グループの傘下として地域に展開させたいと思っています。生産物も私たちと一緒に販売します。イメージとしては、うちで修行した人が独立するときに、うちが出資金1千万円だして株の80%を購入する。それで、経営や生産体系を私たちが管理します。そして軌道に乗り始めたら、その人に株を100%買い取ってもらって独立させます。人を育てて株の評価額を上げて、ゆくゆくは会社の利益として回収するのです。独立した人も会社の利益率が上がって評価額が上がりますし、うちもその人の応援をがんばります。こうやって農業起業家を地方に増やせれば、地域の耕作放棄地の解消にもつながります。私たちは10億、20億といった大きな野望はなく、2億くらいまで少しずつ売り上げを増やしていこうと思っています。いろんなところの土地を買って中原温室として運営すると、管理ができなくなって反収が落ちます。すると「あの会社は面積増えてもスカスカだね」と言われると思うので、それなら本気で起業したい人を育てます。実はうちの社員で1人、5年後の独立を目指している人がいます。だから彼に阿蘇の圃場を任せていますし、彼が独立した後は違う人を入れるつもりです。
新規就農者は、最初の3年は国や県の補助制度が手厚いです。しかし、3年で「新規就農特権」を使い果たしてしまい、経営的に苦しくなります。でも、ある程度成功している段階で補助制度を使えば起爆剤になると思います。最初に補助制度を使っても、どんどん使い切って何も残りません。補助制度を使わなくてもいい状態で使えば、その人はさらに伸びるでしょう。
Q、作本専務が考える今後の農業のあるべき姿について教えて下さい。
A、農業はなくならないと思います。でも、地域に偏りが出てはだめだと思うので、すべての地域に農業の基盤となる人が増えるべきだと思います。農業格差があるとただ潰しあうだけだと思うので、いろんな地域にいろんな若い人がいるべきだと思います。そして、その人たちは地域の柱になると思います。農業こそ地域の柱になると思うし、ストーリーがあればお金も稼げると思うので、農業こそ田舎で稼げる仕事だと思います。そして、その人が次の人を育てて、つながっていけばいいと思います。
Q、作本専務から若手農家へひとことお願いします。
A、農業は敷居が高くて障害も多いですけど、突き抜けた後に広がる世界はブルーオーシャンだと思います。だから最初の戦略戦術をしっかり練って、最初の壁を突破して、その後のブルーオーシャンで他の業界にも負けないように稼いでもらいたいと思います。
インタビューを終えて
会社によって、経営方針は様々でその多様性により社会が成り立っています。
しかしながら、時流というものがあり、一般的にはその流れに乗り経営を進めていくものとされていますが、作本専務はあえて逆張りで突き進み6次化産業からの撤退や営業マンを持たずに仲卸との関係を重視した営業方針を徹底されています。
逆張りの背景には、作本専務の言葉からも分かる通り、戦略と戦術が練られた結果であると感じました。
これから農業を始められる方のみならず、今後の経営方針を考えておられる農業法人様にも参考になるインタビューだったと思います。