なすは私たち日本人の食卓に多く並ぶ人気の農作物です。この記事では、なす栽培における潅水作業のコツについて解説していきます。
目次
1.日本のなす栽培
2.なす栽培の手順
3.潅水作業のポイント
4.まとめ
1.日本のなす栽培
1)なす栽培の歴史
なすは、ナス科ナス属に属する果菜類の野菜です。
原産はインド東部で、紀元前5世紀頃の時代、すでに食用としての栽培がはじまっていたと言われています。
日本に伝わったのは、奈良時代に入ってからで、平安時代に書かれた「延喜式(えんぎしき)」という書物には、当時の栽培方法を鮮明に記した記録が残されています。
日本でなす栽培が広まったのは、江戸時代に入ってからで、この頃になると様々な色や大きさ、形をした品種が全国各地で栽培されるようになります。
現在、なすの主な生産地は高知県、熊本県、群馬県、茨城県、福岡県で、日本で生産される4割以上をこの5県で生産している状況です。
・参考
2020年度都道府県別ランキング
1位:高知県(3万9300トン)
2位:熊本県(3万4200トン)
3位:群馬県(2万7700トン)
4位:茨城県(1万7900トン)
5位:福岡県(1万6700トン)
ちなみに名称である「なす」は、夏に実がなる「夏実」(なつみ)」という言葉が訛ったもの(奈須比:なすび)を、室町時代に宮廷に出仕していた女官が「おなす」と呼んだことを始まりに定着したものと考えられています。
2)日本で栽培されている品種の一例
一般的な品種
・中長なす
日本で最も多く流通している品種の総称。千両なすなどが分類される。光沢のある艶やかな紫色が特徴。
・長なす
20センチ前後の長さに成長する細長い品種の総称。秋田県の「河辺(かわべ)長茄子」、岩手県の「南部(なんぶ)長茄子」、大阪府の「大阪長茄子」、宮崎県の「佐土原(さどわら)長茄子」などが有名。
・大長なす
30~60センチ前後の長さに成長する細長い品種の総称。熊本県、福岡県、長崎県など九州地方を中心に栽培されている。山形県の「庄内大長なす」も有名。
・丸なす
丸い形をした品種の総称。野球ボールからソフトボール位の大きさが主流。肉質の固いものが多い。
・小なす
長さ8センチ、重さ30グラム程度まで成長する品種の総称。丸型と卵型の2種類がある。山形県鶴岡市民田地区で栽培されている「民田なす」、山形県置賜地方で栽培されている「薄皮丸小なす」などが有名。
・米なす
アメリカのブラックビューティという品種を日本で改良してつくった品種の総称。ヘタが緑色で表皮が濃い紫色をしている。
各地の伝統品種
・賀茂なす
京都府北区上賀茂で古くから栽培されている京都の伝統野菜。甘みのある味と固い肉質が特徴。「なすの女王」と呼ばれる。
・杉谷なすび
滋賀県甲賀市甲南町杉谷地区で古くから栽培されている品種。直径10センチ前後の楕円形でヘタには鋭く長い棘がある。
・吉川なす
福井県鯖江市西部中央一帯で古くから栽培されている品種。賀茂なすのルーツとも言われる。一時は消滅の危機にあったが、2009年に発足した鯖江市伝統野菜等栽培研究会が栽培者の育成とブランド化を進めている。
・水なす
大阪府泉州地方の特産品。一般的ななすと比較してふっくらとした形をしている。水分が多く生の状態で食べられることでも有名。
・馬場なす
大阪府貝塚市馬場地区で栽培されている水なすの一種。一般的ななすに近い形をしている。皮ごと丸かじりして食べるのも可能。
・大阪なす
大阪で栽培されている大きな千両なす。接木苗を使用したハウス栽培で栽培されている。分類上は中長なすだが、20センチ前後の長さまで成長する。
・京山科なす
京都府山科地区で古くから栽培されている品種。京都の伝統野菜にも認定されている。丸みのある卵型の形をしている。
・高月丸なす
滋賀県長浜市高月町井口地域で古くから栽培されてきた丸なすの一種。地元消費が中心で市場に出回ることは無かったが伝統野菜を見直す流れから、県内のスーパーでも見かけるようになった。
・下田なす
滋賀県湖南市下田地区で栽培されている品種。アクの無いみずみずしい食感が特徴。漬物業者への出荷や道の駅、直売所での販売など地元での消費が中心になっている。
・絹かわなす
愛媛県西条地区で栽培されている品種。地元では「ぼてナス」とも呼ばれる。自家消費用の栽培が多い。
・熊本赤なす
熊本県の伝統野菜。熊本県農業研究センターが「ヒゴムラサキ」という品種を開発してブランド化に取り組んでいる。長さ30センチ、重さ300グラムまで成長する。
・佐土原なす
宮崎県宮崎市佐土原町で江戸時代から栽培されている品種。一時はその姿をほぼ見なくなったが、1988年に地元の種苗会社が保管していた佐土原なすの種を県総合農業試験場に託したことをきっかけに、復活に向けた活動がはじまった。
・十市なす
高知県南国市十市地区で栽培されている小なすの一種。表皮が黒紫色で光沢がある。関西地区の市場で流通する小なすのほとんどを占める。
2.なす栽培のポイント
種まき・育苗管理
(1)育苗箱に土を入れ、深さ1センチの溝を8センチ間隔で堀り、種を5ミリ間隔でまく。
(2)種をまいた所を5ミリの高さで覆土して水やりをする。
(3)育苗箱をトンネル型のビニールハウスに入れ、保温する(夜25℃・昼30℃)
(4)発芽後は夜間温度20℃で管理する。
(5)本葉が2枚生えたら12~15センチの農業用ポットに移植して夜温温度15℃で管理する。
(6)定植適期は本葉が7~8枚生えた頃。(種まき60~80日後)
土づくり・定植作業
(1)定植2週間以上前に苦土石灰を1平方メートル当たり約150グラム施して深く耕す。
(2)定植1週間前に化成肥料を1平方メートル当たり約150グラム、堆肥を1平方メートル当たり3~4キログラム、過リン酸石灰を1平方メートル当たり約30グラム施して、再びよく耕す。
(3)定植2~3日前に幅70センチの平畝(台形)をつくる。
(4)黒色のマルチシートで畝を覆う。
(5)畝の中心に株間50センチの穴を掘る。
(6)苗を植えたポットに水をたっぷり含ませる。
(7)ポットから苗を抜き、掘った穴に植える。
(8)支柱を立てて紐を八の字に結ぶ。
(9)根元に水やりをする。
栽培管理
(1)定植約3週間後に1回目の追肥を行う。(マルチの裾を上げて、肥料を畝の両側の肩部にばらまき、土と混ぜるよう軽く耕してからマルチを戻す)
(2)その後、3週間おきに追肥を繰り返す。
(3)1番花の下から出た側枝2本、主枝1本の3本立てに整枝する。
(4)アブラムシ、ダニ類、ミナミキイロアザミウマ、青枯病、半身萎凋病などの病害虫に注意する。
(5)青枯病や半身萎凋病はウイルス性の病気のため、感染が広がらないよう抜き取って対処する。
収穫作業
(1)開花後15~20日前後が収穫適期。
(2)多く着果過ぎた場合は若採りして株の負担を減らす。
(3)涼しい時間に収穫すると日持ちが良くなるため、朝に収穫作業を行う。
3.潅水作業のポイント
なすは「水でつくる」農作物です。
そのため、株が成長して実が付く時期は、十分な潅水と追肥を行う必要があります。特に、株が大きく成長する夏の時期は、1株当たり6リットルの水分が必要になると言われています。そのため、畝間に溜まった水が全部染み込むのを見届けてから、次の作業に移るようにしましょう。
なお、日本のなす生産者の中には、少量多潅水と呼ばれる潅水方法を用いて水やり作業を行っている生産者がいます。
少量多潅水とは、少量の水を時間をかけて少しずつ与える潅水方法のことで、農作物のストレスを軽減する効果や病害虫の発生を抑える効果、収量を増やす効果などがあると言われています。
当社が開発したSenSprout Pro潅水制御システムを使用すれば、インターネットを利用して潅水量を遠隔から制御できるようになりますので、興味のある方はお気軽にお問い合わせ下さい。
SenSprout Pro潅水制御システム
https://sensprout.com/ja/irrigationcontrolsystem-2/
4.まとめ
なすは、「一富士、二鷹、三茄子(なすび)」という言葉にもある通り、縁起物としても有名な農作物です。なす栽培にチャレンジする際には、ぜひこの記事を参考に潅水作業を行ってみてください。最後まで読んでいただきありがとうございました。