少量多潅水は効率的なのか?試験場の実験結果を紹介

ビニールハウス栽培の要ともいえる「潅水」。

作物の生育に大いに影響するため、潅水方法や潅水資材は慎重に選びたいところです。

潅水方法には噴霧潅水、点滴潅水、頭上潅水などいくつかの方法があります。

中でも、昨今注目を集めているのが「点滴潅水」を用いた「少量多潅水」です。

その理由は、点滴潅水は少ない量の水を少しずつ与えられる「少量多潅水」という潅水ができるからです。

例えば、10Lの水を一度に与えるのではなく、1Lずつ、10回に分けて与えるということです。

今回は、どうして少量多潅水が推奨されているのか、試験場の研究結果を用いながらその理由に迫ります。

目次

少量多潅水について

研究① 施肥量はどれくらい減少するのか

研究② 潅水頻度が排水量と生育に及ぼす影響

研究③ 土壌と根の形態に及ぼす影響

少量多潅水を実現する潅水チューブと自動潅水制御装置

まとめ

少量多潅水について

まずは、少量多潅水について少し説明します。

冒頭でも述べましたが、少量多潅水とは、少しの量の水を何回にも分けてゆっくり潅水する方法です。

少量多潅水に使われる点滴チューブは、チューブの底に小さな穴が開いており、そこから作物に水や栄養分を与えます。

ハウス内全体を潅水する噴霧潅水や頭上潅水と違って、作物の根元付近をピンポイントで潅水することから「点滴潅水」と呼ばれます。

必要な場所に必要なだけ水と肥料を与えるので、水と液体肥料の節約ができる効率的でエコな潅水方法です。

また、葉や枝を濡らさないため、病虫害や雑草の抑制にもつながります。

一見、効率的で使いやすそうですが、初期投資がかかることやチューブに目詰まりが発生するなど、資材の面で課題もあります。

ただ、最近では価格を抑えた点滴潅水用チューブも販売されています。また、目詰まりは定期的なメンテナンスで防ぐことができます。

このような少量多潅水は、経済的で環境にやさしい農業技術ということもあり、注目を集めています。

では、具体的にどれほどの効果があるのか、試験場の研究結果を見てみましょう。

研究① 施肥量はどれくらい減少するのか

最初に紹介する研究は、茨城県農業総合センター園芸研究所による研究です。

この研究は、慣行栽培と少量多潅水で、施肥効率や収量にどの程度の違いがあるのか比較した実験です。対象とした作物は白菜とレタスです。

ビニールハウスを利用した施設栽培ではなく露地栽培での実験ですが、興味深い結果が得られています。

少量多潅水で栽培した結果、なんと白菜では慣行栽培の25%、レタスでは47%施肥量を削減しても、慣行栽培と同等かそれ以上の収量が確保できたのです。

品質も安定しており、窒素利用率も30%ほど向上していました。

また、この実験では、少量多潅水において、収穫直前の施肥量の違いによる硝酸イオン濃度、全糖含量、ビタミンC濃度も計測しています。

これらの成分の計測は、葉物野菜に含まれる成分に対する消費者の関心の高まりが背景にあります。

実験の結果、通常通り少量多潅水をしていると、硝酸イオン濃度は慣行栽培に比べて増加し、全糖含量とビタミンC濃度は減少しています。これは、肥料の利用効率が高まったことが要因です。

しかし、収穫の1週間前に水と肥料を制御することで、硝酸イオン濃度を減少させ、全糖含量とビタミンC濃度を増加させることが可能でした。

この実験から、少量多潅水は肥料の使用量を抑えることが可能であるといえます。

また、作物の株元に狙いを絞って給液しているため、肥料の利用率が高くなり、品質の確保につながることも分かります。

土壌中に残る肥料成分も少なくなるため、環境への影響も低減できます。

当然、作物の生育段階や天候によって水や肥料の量を調整する必要がありますが、少量多潅水が経済的な栽培方法であるとわかりました。

露地栽培での実験ではありましたが、天候の影響を受けにくいビニールハウス栽培でも、同様の結果が得られるでしょう。

研究② 潅水頻度が排水量と生育に及ぼす影響

次に紹介する実験は、香川県農業試験場が行った、キクの施設栽培における実験です。

この実験では、潅水頻度の違いが、排水量とキクの生育にどのような影響を及ぼすのか実験しました。

潅水頻度は1日4、8、12回の3水準。

潅水量は、定植後は1.6L/日、生育の進んだ11月4日以降は1.2L/日と設定しています。

まず排水量についてですが、定植後の1.6L/日の頃は、潅水量と排水量がほぼ同じという結果でした。

しかし、潅水量が1.2L/日となった頃から、排水量は急激に減少しました。しかも、12回潅水区が最も早く減少したのです。

一方生育に関しては、潅水頻度の高い処理区の方が茎長と生体重の標準偏差が小さいという結果が得られました。こ

れは、土壌中の水分量が一定になり、作物への水分ストレスが大幅に減少することで、生育が均一になったと考えられます。

したがって、潅水頻度を高めることで排水量が減少するとともに、キクの生育にバラつきが少なくなることがわかります。

少量多潅水をすることで、品質を保ちながら、水の使用量を減少できるのです。

研究③ 土壌と根の形態に及ぼす影響

最後に紹介する研究は、福岡県農業総合試験場による研究です。

促成栽培のナスを用いて、慣行栽培と比較して、少量多潅水による土壌と根の形態への影響を調べました。

なお、土壌については、土壌表面から深さ30cmまでの硬さを計測しています。

実験の結果は、土壌に関しては少量多潅水の方が柔らかいという結果となりました。

慣行栽培では、土壌が多量の水を含むことで重くなるため、深くなるほど圧密効果により土壌が圧縮されて硬くなるのです。

一方の少量多潅水では、水が点滴状に排出されるため吐出量が少なく、その分土を圧縮しなかったため柔らかくなったと考えられます。

また、根に関しては、根の重さは慣行栽培と少量多潅水では同じでした。

しかし、根の長さは、少量多潅水の方が44%長いという結果を得られました。

これは、土が柔らかかった分根が伸びやすかったため、細い根がたくさん伸びたということです。

そして、根の表面積が増えた分多くの養分を吸収できたため、少量多潅水の方が収量も多くなりました。

この実験から、少量多潅水をすることで、栽培期間中にわたって土壌を柔らかく保ち、作物が細い根をたくさん張ることで養水分の吸収効率を上げ、収量をアップさせることができるとわかりました。

少量多潅水によって、作物が育ちやすい土壌が形成されるのです。

少量多潅水を実現する潅水チューブと自動潅水制御装置

最後に、少量多潅水を可能にする潅水チューブと自動制御装置を3つ紹介します。

1つ目は、住化農業資材株式会社の「ストリームライン60/80」と「スーパータイフーン50/100」です。

ストリームライン60/80

http://www.netafim.co.jp/Catalogs/Drippers/StreamlinePlus60-80.pdf

スーパータイフーン50/100

https://www.sumika-agrotech.com/product/pdf/kansui_supertyphoon_100.pdf

一般の点滴潅水用チューブに比べて丈夫で、水圧などによる破裂に強いのが特徴です。

また、穴が円形であるため、目詰まりが少ないことも魅力です。

大企業ならではの安心感のある潅水チューブです。

2つ目に紹介する潅水チューブは、有限会社アグリ開発の「点滴チューブ」です。

アグリ開発「点滴チューブ」

http://agri-power.net/

オーソドックスな点滴潅水用チューブで、理想的な少量多潅水を実現します。

果菜類や葉物野菜、さらには果実まで、多くの作物で安定した実績を上げてきました。

チューブの内部は独自のジグザグ流路になっており、この構造が均一な潅水を可能にします。また、乱流が発生するため、目詰まりが起きにくいことも特徴です。

3つ目に紹介するのは、株式会社ルートレック・ネットワークスの「AI潅水施肥ロボットゼロアグリ」です。AIを用いて潅水の完全自動化を実現した製品です。

ゼロアグリ(ZeroAgri)

https://www.zero-agri.jp/

ハウス内の温度・湿度・日射量の環境データからAIが必要な潅水量を予測し、自動で潅水・施肥してくれます。

AIは設定した土壌水分量を保つような潅水をしてくれるので、少量多潅水によって作物への水分ストレスを減らすことができます。

また、既存のハウスに設置できること、PCやスマートフォンによる遠隔操作が可能なこと、過去のデータが利用できることなどの魅力も詰まっています。

理想的な少量多潅水によって、だれもが高い生産性と品質を誇る作物を生産できるシステムです。

ほかにも、少量多潅水を可能にする潅水チューブはたくさんあります。

自分の栽培方法や作物に合わせた製品を選びましょう。

まとめ

試験場で行われた実験結果を元に、少量多潅水の効果について紹介しました。

少量多潅水は効果的な潅水と施肥を可能にし、生産性アップにつながることがわかりました。

また、作物の養分利用率を高めるため環境にもやさしく、作物の生育しやすいフカフカの土を保ちます。

最近ではさまざまなチューブ、そしてAIを用いた自動制御装置まで販売されています。

今後もさらなる研究開発が進むと予想されるので、少量多潅水の技術にさらに注目が集まるでしょう。

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