株式会社M’s greenについて
2010年に会社を立ち上げ、施設園芸、露地栽培、農作業受託、自社販売、通販に至るまで、生産から販売まで幅広く事業を手掛ける株式会社M’s greenの代表取締役社長である松永様にお話を伺いました。
松永社長は儲けるために農業をすると明言されています。
11年間で会社をここまで成長させた秘訣は「個性を生かす」「人に任せる」の2つでした。
株式会社M’s green
代表取締役社長 松永 淳様
Q、株式会社M’s greenの創立は何年ですか?
A、2010年4月13日に創立したので、今年で11年目となります。私の誕生日に創立しました。
Q、従業員数(社員とアルバイト数、研修生の数)を教えて下さい。
A、社員が5名、パートが4名、ミャンマーからの技能実習生が2名です。繁忙期には玉ねぎ収穫やアスパラガス作業のパートさん、稲わら収集・麦わら収集の男性アルバイトを募集します。パート登録者は15名くらいです。
Q、松永社長が農業を始められたきっかけを教えて下さい。
A、実家はもともと農家ではありませんでした。今から16年ほど前に、父親がちょっとした思い付きで「農業してみようかな」って言ったのがきっかけで、まずは父親が農業を始めました。それから弟がアスパラガスの栽培を始めました。私は他の仕事に行きながら、アルバイト感覚で農業を手伝うようになりました。会社と家のアルバイト、両方から給料をもらうのは楽しかったですね。その頃は20代だったので、寝る時間はあまり必要ではありませんでした。最初はお金が理由でしたが、作業を手伝ううちに農業が楽しくなってきました。会社に行っていても、作物は日々成長しますよね。次第に会社の仕事より作物の方が気になるようになったので、仕事を辞めて農業をしようと思うようになり、その同じタイミングで農業法人を設立しました。
Q、松永社長の経歴を教えて下さい。
A、高校卒業後、ディスカウントスーパーに就職して、5年ほど正社員として物を販売する経験を積みました。それから久留米のタイヤ工場に勤めていました。工場はマニュアルが用意されていて、その基準で材料を準備して組み合わせたら製品ができる仕組みでした。でも農業にはマニュアルがありません。農業を始めたきっかけは、自分で作ったものを自分で売れると思ったからです。始めてみると作物を作ったけれどもなかなか売れないという苦労もありました。
Q、株式会社M’s greenの栽培作物を教えて下さい。
A、アスパラガスと玉ねぎを中心に、米麦大豆、キャベツ、飼料用の稲わら・麦わらの収集、販売をしています。
Q、株式会社M’s greenの栽培面積を教えて下さい。
A、アスパラガスがビニールハウスで70a(18棟)。玉ねぎが5ha。米は12ha。麦は10~12.3ha。大豆は裏作で作っていましたが、今年は大豆の畑をすべてキャベツにしようと思っています。稲わら収集は120haほど、麦わらは50haほどです。
Q、株式会社M’s greenが農業生産以外で行っている他事業について教えて下さい。
A、青果の袋詰めくらいです。
Q、松永社長が会社を経営する中で最も気になることは何ですか?
A、人材です。
Q、その理由をおしえてください。
A、家族経営で会社をスタートさせましたが、いくらがんばっても1人の作業量は限界があると感じていました。だから、当初から人を雇用したいと思っていました。実際に雇用するとそれぞれに個性や特技があるので、そこがいいなと感じます。私1人ではできなかったことでも、人が増えたことによってできるようになったと日に日に感じますね。
株式会社M’s greenの人材育成について
Q、株式会社M’s greenの平均勤続年数はどのくらいですか?
A、雇用型に切り替えてからそんなに経っていないので、一番長い人で5年です。辞めた人は1人もいません。
Q、株式会社M’s greenの従業員の平均年齢はいくつくらいですか?
A、30代半ばです。私が38歳ですので(インタビュー時)、自分とほとんど変わらない年齢です。
Q、人材育成は上手く行っていますか?
A、上手くいっていると思います。勤務体制をシフト制にしたことで、勝手に人材が育つようになりました。それぞれ経験年数・勤続年数が違いますよね。だから最初の人が次の人に教えて、また次の人に教えてという仕組みができます。人に教えることで、教える側は振り返りができます。自分が覚えておかないと教えられませんからね。また、毎年やる作業は決まっていますよね。社員さんたちの間では、去年よりも今年、今年よりも来年みたいな感じで、雰囲気作りがスムーズにいっている感じはします。だから頼む仕事、してもらう仕事が毎年増えています。今までは自分が1から10まで全部しなければならないと思っていました。しかし、同年代の社長さんを見ていると、いろんな新しいことに挑戦されています。今までの私は、新しいことに挑戦する余裕がありませんでした。でも、最近やっと新しいことに挑戦する時間ができ始めました。もともと弟も一緒に働いているので、最初から私の右腕のような感覚でした。でも、弟も社員さんと同じ感覚で働いていた感じだったので、ここ数年、弟に「もう少しこうなってほしい」と思う部分がありました。最近は、弟も少し全体を見られるようになったかなと思います。
また、今年やっと完全シフト制に変えました。カレンダーを作って、誰が何曜日に休むと決めました。当然、私が休みの日もあります。私が休みの日は、弟が中心となって作業指示や何かあったときの対応をします。できないときは私に連絡がありますが、強制的に自分でやらなければならない場面を作れています。社員も一番長い人が作業班のリーダーになります。でも、その人が休みの日は2番目に長い人がリーダーにならないといけません。現場の責任者がいないことで、他の現場にいる人たちが責任をもち、成長していきます。これはシフト制のいいところですね。日々作物は成長するじゃないですか。だから日々仕事があります。「今日はリーダーがいないから仕事はできません」だと、現場は回りません。現場にいる人で現場を回していかないと、どうしようもありません。だからシフト制にしたことで、人材が勝手に成長していくようになりました。
みなさん私とほとんど歳が変わらないので、それなりに社会経験もあります。経験のないことをいきなりやるのは無理ですが、いつもと同じ作業は問題なくできます。私もできないことや苦手なことは、社員の人たちに頼むようにしています。
一方で、人材育成で上手くいっていないこともあります。私の仕事はそれぞれの特技・個性を活かすことだと思っていますが、今はまだ人材の特技・個性を活かしきれていないと思います。今後、私がそれぞれの人材の個性を引き出せるようになれば、会社の中での自分の役割が明確になり、会社としてもっと強くなっていくのでしょう。これから先、新しい人材を入れるときも同じです。自分たちが弱いところを補ってくれる人が入ることで、結果として会社が強くなる。そんなことを目指しています。
Q、人材募集は行っていますか?
A、はい、2021年になってから1名募集しています。面接はありましたが、まだマッチしていません。急いで補充しなければならないわけではないので、欲しい人材がくるまで待っている感じですね。
Q、人材募集はどのような方法で行っていますか?
A、有料の農業求人サイト「あぐりナビ」を使っています。
Q、人材採用で苦労されている点について教えて下さい。
A、今のところありません。
株式会社M’s greenの販売方針について
Q、株式会社M’s greenの主な販売先を教えて下さい。
A、品目によってそれぞれ違います。アスパラガスのメインの販売先は仲卸さん経由のスーパー、直販、JAです。玉ねぎもほとんど青果向けですが、一部加工があります。
Q、株式会社M’s greenは直販されていますか?
A、しています。アスパラガスはネット販売とギフト発送をしています。ありがたいことに、毎年春頃になると「今年もここに送って」と直接注文が入ります。オリジナルギフト包装も、注文をくださる方からの要望です。前は1kgの発泡スチロールで送っていましたが、味気なかったですからね。だから妻に頼んで、一からデザインしてもらいました。妻はそういったことが好きなので、私がするより上手くいくだろうと思ったのです。
玉ねぎもネット販売をしています。
Q、販売面で苦労されている点はございますか?
A、ここ数年、玉ねぎが大暴落したので、その点は苦労しています。コロナの影響もあって、市場価格がとんでもなく落ちました。契約で量と価格を決めているところでも、毎週100ケース出荷していたところが50ケースになることがありました。
Q、販売面で工夫されている点はございますか?
A、玉ねぎに関しては、昨年の苦しい状況の中で貯蔵施設を造りました。低温の乾燥庫を造って、貯蔵して安定的に出荷できるようにしています。市場価格を見ながら出荷時期を調整できるのは大きいですね。
一方で、運用方法にはまだまだ工夫の余地があります。最近は地球温暖化の影響かはわかりませんが、玉ねぎが大玉になることが増えました。売れ筋サイズのM・Lサイズが少なくなって、せっかく注文をいただいても用意できないことがあります。でも、収穫したら選果してどんどん出荷しないと、倉庫の中がいっぱいになってしまいます。注文が入ったのに「昨日出荷してしまった」ということもありました。
松永社長が目指す農業の未来
Q、今後の展開について考えていることを教えて下さい。
A、このあたりはものすごく田舎でしょう。坂口地区といいますが、世帯数は100軒、人口は200人しかいません。そのうち約半分が65歳以上です。俗にいう過疎地域です。だからこそ、私たちのような若い世代が盛り上げて、元気な地区だと発信できるようにしたいです。玉ねぎやキャベツは重量物で、なかなか大変な仕事です。その大変な仕事を、自分ら若い人たちが、ワイワイ楽しみながら仕事をしているのを見せたいなと思います。いろんな人がいれば、会社としていろんな強みが生まれます。結局、農業も人がいないと何もできませんからね。そのためにも、根底にあるのは会社が儲かることです。そして従業員さんに還元して、どんどん人を増やしていきたいですね。若い人がいる会社にしていきたいです。
Q、松永社長が考える今後の農業のあるべき姿について教えて下さい。
A、農業目線ではなく、会社目線で「儲けよう」という意識をもつべきだと思います。何のために農業しているか考えるときに、私は儲けるために農業を選びました。お金を稼がないと雇用も生まれないし、後継者も育ちません。儲かりたいという思いは一瞬でも忘れないようにしておかないと、今はものすごく難しい時代だと思います。昔は作れば売れる時代でしたが、今は作っても売れるような時代ではなくなりました。いい商品でも捨てなければならない時代になっています。だからこそ、儲かりたいという信念は忘れずにしたいと思っています。今でも「家が農業していたから農業を始めた。だから今も続けている。」と言うと、「よくそんなに仕事するね」と言われます。でも、農業でなく、会社目線で考えると、儲かろうとするのは普通のことです。
Q、松永社長から若手農家へひとことお願いします。
A、今の若い人たちは、農業で簡単にお金を稼げると思っている人が多いという印象があります。農地もない、お金もない、人手もない、でも農業がしたいって想いだけでどうにかなると思っている人たちが結構います。だから、そんなに甘くないよって話をよくします。例えば、ラーメン屋さんを出したい人でも、ラーメン屋さんで修行しながら、技術と開業資金を貯めますよね。そして貯まった資金で、お客さんがくるかわからない中で開業します。農業も一緒です。自然と向き合っていかなければならないので、想像以上に難しいです。だから準備はちゃんとしたほうがいいですね。いろんな人に会って話を聞いて、中身を知る必要があります。うちも父親が農業をしていたわけではないので、やりたいことに対して反対はしませんでした。でも「これどうしたらいい」って相談しても「俺に聞いても知るもんか」って言われました。だからよそに農業を習いに行ったり、先にやっている人のところに見に行ったりするしかありませんでした。そのとき知り合った人が、偶然にも志の高い人が多かったのです。だからその人たちが私にとっての目標になりました。その先輩たちは、私がこれから苦労するだろう出来事を超えてきた人たちです。だからぶれずに、その人たちを目指せばいい。作物は喋ってくれないので、自問自答するしかありません。農業は難しくて、自分がこうと思っても天候によっては全然育たないこともあります。でも確固たる目標があると、がんばろうと思えます。その人たちのレベルまで成長しないと、同じ会話ができないじゃないですか。私、すごく負けず嫌いなんですよ。
だからいろんな人に会って話を聞いてから就農したほうがいいと思います。立派なことを言うけど、実際見に行くと大した田んぼ・会社ではないこともあります。反対に、何も話さないし謙遜するのに、ものすごいことをやっている人もいます。私もとにかく会いたい人に会い、話を聞いて、農場を見せてもらいました。目標となる人を自分の目で確かめて、それが間違いない人だったのでしょうね。今、農業している中でやっと当時思っていたことと同じような話や相談ができるようになりました。それが本当に楽しいですね。
インタビューを終えて
松永社長は「農業で儲ける」それが当たり前の時代になる日が来る。また、「儲けるために農業をしている」とおっしゃっていました。 とにかく人に会い、お会いした方の知見を活かし、最短距離でぶれない目標に突き進む松永社長。既に他人から相談を受け、知見を与える立場になっている方だと感じました。