潅水制御には、手動・遠隔・自動の3つの種類があります。
その中でも、自動潅水制御は潅水作業に関するすべての操作を自動で制御できる潅水システムになっています。この記事では、潅水の自動化に必要なインプット情報を解説します。
目次
1.自動潅水制御とは?
2.完全自動型潅水システム「ゼロアグリ」
3.自動潅水に必要なインプット情報
4.日本農業の人的課題を解決
1.自動潅水制御とは?
自動潅水制御は、IoT(Internet of Things)とAI(人工知能)を活用した完全自動型の潅水システムで、クラウド上での栽培管理による土壌環境の見える化およびノウハウのデータ化・水やり・施肥作業のすべてを自動で制御してくれるのが特徴です。
日本の農業は、農業者の高齢化等を原因に深刻な人手不足に悩まされています。
農林水産省の調べでは、2010年に約268万人いたとされる農業従事者数も、現在では約168万人まで減少し、また平均年齢も67歳に到達するなど、農業人口の減少と高齢化が同時進行している状況といわれています。
このような社会課題を背景に、国や農林水産省では、日本農業を救出するための施策として、ロボット技術やAIなど最先端の技術を活用したスマート農業の普及を推進しています。
IoTやAIを活用した自動潅水制御は、農業生産の効率化だけではなく、日本農業が抱える人的課題を解決するための新たな技術として期待されています。
2.完全自動型潅水システム「ゼロアグリ」
ゼロアグリ(ZeRo.agri)は、農作物に必要な水分量をAIが算出して潅水や施肥作業を自動で制御するAI搭載型の潅水施肥システムです。
開発したのは、M2Mプラットフォーマーとしてエネルギーやヘルスケアなど幅広い分野を対象に、M2Mソリューションを提供する株式会社ルートレック・ネットワークスです。
同社が開発したセロアグリは、「土壌の保水力は粘土質か砂質かによって異なる」という性質を元に、48時間の準備潅水を行ったあと、AIシステムが圃場の土壌条件を認識して土壌水分量を一定に保つように潅水を制御します。
きゅうりを対象にした実証実験では、前年比120%を上回る収量を実現したほか、熊本県のトマト農家の実証例でも、1日あたり3~4時間を費やしていた潅水の時間を数分単位に短縮しています。
また、福岡市の「実証実験フルサポー事業」、株式会社KDDIエボルバが宮城県東松島市で実施した「AI潅水施肥システムを活用したミニトマト栽培の取り組み」、農林水産省および経済産業省が支援する「農業競争力強化支援法に基づく事業」など、国や地方公共団体、民間企業らが取り組む様々なプロジェクトにも活用されています。
AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ
3.自動潅水に必要なインプット情報
ゼロアグリは、日射量・土壌水分量・EC値・地温の4つのデータを使用します。
潅水作業については、日射量と土壌水分量をトリガーに、農作物に含まれる水分の蒸散量を推定して必要な時に必要な量だけ潅水する少量多潅水を実現します。
少量多潅水とは、少量の水を時間をかけながら回数を重ねて与える潅水方法で、農作物のストレスを最小限に抑えるという特徴があります。
ストレスと着果率の関係を調査した栽培実験では、潅水制御装置を使用した水の葉面噴霧時刻と着果の関係および水分の土壌容量を検証する研究が実施されました。
研究では、ストレスの軽減から「少量の水を時間をかけながら少しずつ与えた圃場の方が着果率が高く糖度も高い」という成果が得られたそうです。
土壌環境の見える化および栽培ノウハウのデータ化については、土壌水分量、EC値、地温を10分毎に自動で計測・記録して土壌環境のモニタリングを実施します。
土壌環境の見える化および栽培ノウハウのデータ化は、環境への負荷を軽減するサスティナブルな農業経営を実現すると同時に、安定的かつ効率的な栽培方法を確立するといわれています。
1)日射量
日射量は、太陽から放射されたエネルギー量を測定した数値です。
農作物の収量は、水・光・二酸化炭素を3要素とする光合成と大きく関係しています。 十分な日射量を確保するためには、ビニールハウスのフィルム洗浄をこまめに行うか、散乱光タイプのフィルムを使用するのが良いそうです。自動潅水においては、農作物に含まれる水分の蒸発量を推定する重要なデータとして扱われます。
2)土壌水分量
土壌水分量は、土壌に含まれる水分量を測定した数値です。
測定には、圃場の土壌を直接採取して行う採土法や土壌中の毛管張力および多孔物質体等を圧力計に導くテンシオメーター法という方法が用いられているそうです。自動潅水においては、潅水の量とタイミングを決定するデータとしての役割を担います。
なお、SenSproutの水分センサーでも、土壌水分量と地表面温度を1時間毎に測定し、パソコンやスマートフォンから確認することができます。
SenSprout 水分センサーシステム
https://sensprout.com/sensorsystem-2/
3)EC値
EC値は、導電率や電気伝導度を意味する電気の流れやすさを測定した数値です。
農業分野では、肥料や塩分濃度の指標として使用され、肥料や塩分が少ないほどEC値が低くなるといわれています。自動潅水においては、液肥混入機等を使用した施肥作業に役立つデータとされます。
4)地温
地温は、地表や地中の温度を測定した数値です。
土壌に含まれる水分の蒸発量は、ビニールハウス内の温度や地温によって大きな影響を受けるそうです。自動潅水においては、日射量と同様、農作物に含まれる水分の蒸発量を推定する重要なデータとして扱われます。
4.日本農業の人的課題を解決
日本の農業は、農業人口の減少や高齢化、後継者不足など深刻な人的課題を抱えています。農林水産省では、これらの課題を解決するための施策としてスマート技術を活用した農業の普及を推進しています。
同省が2019年に開始したスマート農業実証プロジェクトでは、生産者や民間企業、大学、研究機関らで構成された各コンソーシアムを実施者に、稲作や畑作、果樹、花き類など各地の栽培品目に合わせた様々な実証実験が行われているようです。
現代農業は、収益性等の課題から継承や参入を敬遠する若者が多いといわれています。
しかし、自動潅水を使用した農業経営を実現すれば、これまでのイメージを大きく変える新しい農業のカタチが見えてくるはずです。
農業経営の効率化を実施する際には、自動潅水制御装置の導入を視野に検討を進めてみてください。最後まで読んでくださりありがとうございました。