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マルチ栽培における土壌水分センサーの利用について

日本には、マルチシート呼ばれる農業用のフィルムを使用して農作物を栽培する農業生産者がいます。この記事では、マルチ栽培における土壌水分センサーの利用について解説していきます。

目次

1.マルチ栽培とは

2.土壌水分センサーの種類

3.土壌水分センサーが検知する情報

4.マルチ栽培における土壌水分センサーの利用

5.まとめ

1.マルチ栽培とは

1)マルチ栽培とは

マルチ栽培とは、マルチシートと呼ばれる農業用のフィルムを使用して農作物を栽培する方法のことを指します。

マルチシートは、農作物の種や苗を植え付ける畑の「畝(うね)」を覆うために開発された専用のシートで、雑草の発生を抑制する効果や害虫を駆除する効果、地温を上昇させる効果などがあるといわれています。

主な栽培品目は、レタスやブロッコリー、なす、トマト、きゅうり、じゃがいも、さつまいも(かんしょ)などで、畝の形や大きさ、使用する目的、農業生産の規模を違いに、様々な規格・種類の商品が販売されています。

2)マルチシートの種類(市販品)

・95cm

・135cm

・150cm

・180cm

・210cm

・230cm

長さ

・10m

・20m

・30m

・50m

・100m

・200m

・400m

厚さ

・0.02mm

・0.05mm

※0.05mmは土壌消毒剤を散布する際など薬剤の気化を防ぐ場合に使用されることが多い。

透明系(透明・緑色)

・雑草の抑制効果△(緑色は○)

・害虫の駆除効果△

・地温の上昇効果◎(畝全体)

黒系(黒色)

・雑草の抑制効果◎

・害虫の駆除効果△

・地温の上昇効果○(畝表面のみ)

反射系(銀色・白黒・銀黒)

・雑草の抑制効果○

・害虫の駆除効果◎

・地温の上昇効果△

無孔・有孔

・無孔タイプ

マルチシートを張った後、専用の穴あけ器を使用して孔を開けるタイプ。

・有孔タイプ

穴があらかじめ開いてあるタイプ。マルチシートの幅、穴の数、穴と穴の間隔が4桁の数字で順番に記載してある。

(例:9230→幅95cm・穴の数2個・穴と穴の間隔30cm)

3)マルチシートの張り方

マルチシートを張る際は、強風や突風など風の影響が少ない日に実施することがポイントです。ロール状に巻かれたマルチシートを畝の中心に合わせ、専用の杭で仮止めし、シートがたるまないよう広げて裾に土を被せていく手順で行ってください。

2.土壌水分センサーの種類

土壌水分センサーは、土壌に含まれる水分量を測定する装置です。土壌水分センサーには、大きく分けて2つのタイプの製品があります。

1)土壌の誘電特性を利用したタイプ

土壌の誘電特性を利用したタイプは、「土壌を構成する水・空気・土粒子の3要素の中で比誘電率が最も大きい水が土壌全体の比誘電率を決める」という性質を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。TDR方式、TDT方式、WCR方式、ADR方式、キャパシタンス方式など様々な種類があります。

・TDR方式(Time Domain Reflectometry ※時間領域反射法)

TDR方式は、土壌に埋設した金属ロッドに流したマイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

1970年代にカナダで開発された測定方式で、誘電特性から土壌水分を測定する方法の元祖といわれています。

・TDT方式(Time Domain Transmission ※時間領域透過法)

TDT方式は、TDR方式と同様、マイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

違いは、U文型にループしたセンサー部で、片側から照射したマイクロ波が検出器に戻る時間を計測します。その形状から土壌に埋設して使用することは難しく、耕起直後の作土層や砂土でしか使用できない特徴があります。

・WCR方式(Water Content Reflectometer ※含水率反射率計)

WCR方式は、金属ロッドに流したマイクロ波が反射して戻る回数を基に土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

通常より太く設計されたセンサー部が特徴で、メーカーが作成した校正式を基に計算した値のみを出力します。

・ADR方式(Amplitude Domain Reflectometry ※振幅領域反射法)

ADR方式は、TDR方式・TDT方式・WCR方式と同様、土壌の誘電特性を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

他の方式と比較して「土壌の電気伝導度の影響が少なく、測定精度も高い」というメリットがありますが、高額な製品が多く、他の方式でも十分な精度で測定できるようになったため、国内での使用があまり報告されなくなりました。

・キャパシタンス方式(静電容量方式)

キャパシタンス方式は、電圧をかけたセンサー内のコンデンサーで計測した静電容量を基に土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

「静電容量は比誘電率の影響を受ける」という性質から、TDR方式等と同様、土壌の誘電特性を利用した土壌水分センサーとして知られています。

2)マトリックポテンシャルを利用したタイプ

マトリックポテンシャルとは「土壌が水分を吸収する力」のことで、テンシオメーター方式と呼ばれる製品を中心に様々な種類の製品が発売されています。

・テンシオメーター方式

テンシオメーター方式は、ポーラスカップと呼ばれる素焼きのカップを使用した土壌水分センサーです。

センサー周辺の土壌水分が、マトリックポテンシャルによって吸収されると、テンシオメーターに充填した水が外部に吸引される仕組みを利用して土壌水分量を測定します。

「水は通すが空気は通さない」という性質を持つ素焼きカップ内の水圧を測定すれば、その土壌のマトリックポテンシャルを知ることもできます。

・キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式

キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式は、キャパシタンス式土壌水分センサーのセンサー部に素焼きの板をサンドイッチした土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性をマトリックポテンシャルに換算してくれるのが特徴で、テンシオメーターが苦手とする乾燥土壌の測定にも向いています。

・電極式ポテンシャル方式

電極式ポテンシャル方式は、ナイロン素材など繊維質で包んだ電極棒の中で発生する電気抵抗を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性を利用した方法の普及で一度は廃れましたが、マトリックポテンシャルを利用した方法への応用をきっかけに、その有効性が見直されました。

テンシオメーターと比較して測定の精度は落ちますが、安価な価格とメンテナンスの手軽さから、日本の農業現場での活用が進んでいます。

3.土壌水分センサーが検知する情報

土壌水分センサーは主に以下5つの情報を検知します。

1)土壌水分量

通常、土壌に含まれる水分量は、土壌表面に現れる湿り気と乾き具合を目視や手の感触で確認して判断する方法が一般的とされています

しかし、土壌水分センサーを使用すれば、農作物の生育に必要な水分量を数値で確認できるようになります。

マルチ栽培は、基本的に水やり作業を行わない栽培方法ですが、猛暑など圃場が極端に乾燥した場合には、マルチシートに開けた穴から土壌水分量を測定して、必要な水分を与えるようにしてください。

2)土壌温度

土壌温度の計測は、土壌に含まれる水分の蒸発量の計算に役立ちます。

土壌水分の蒸発は、農作物の生育に必要な水分量を不足させることから「農作物の品質や収量にも大きな影響を及ぼす」といわれています。

マルチ栽培は、使用するマルチシートの色によって地温を上昇させる効果がありますので、土壌温度の変化には特に注意してください。

3)電気伝導度(EC値)

電気伝導度(EC値)は、土壌に含まれる肥料分や塩分濃度を示した数値です。EC値が0.3㎳/㎝以下を示す場合は施肥量を増やし、1.0㎳/㎝以上を示す場合は施肥量を減らすのが良いといわれています。

マルチ栽培で追肥を行う場合は、降雨の影響で肥料が水に溶け出し、地中に染み込むよう、フィルムの表面に肥料を散粒しておいてください。

4)土壌pH

土壌pHは、土壌に含まれる酸性・アルカリ性の度合いを示した数値です。

農作物は、pH6.0~6.5の弱酸性の土壌でよく育つといわれています。しかし、土壌pHが低い状態のまま、土壌全体が酸性に傾き過ぎると、石灰分や苦土分の欠乏、アルミニウムの溶け出しを招き、根の生育を妨げてしまう恐れがあるといわれています。

マルチ栽培の対象になっている農作物の中には、ニンニクなどpH5.5~6.0程度が適当とされている品目もありますので、栽培する農作物の適正な値を確認した上で測定するよう心がけてください。

5)土壌pF(土壌の保水性)

土壌pFは、土壌の保水性や湿り気具合を示した数値です。十分に水分を含んでいる状態の土壌では低い数値を示し、乾燥している状態の土壌では高い数値を示します。

マルチシートで畝全体を覆うマルチ栽培は、優れた保水性が特長の栽培方法ですが、圃場が極端に乾燥すると土壌pFの値が急激に上昇することがありますので、腐葉土など保水性に優れた土壌改良材を使用した土づくりを行ってみてください。

4.マルチ栽培における土壌水分センサーの利用について

日本では、マルチ栽培を対象にした様々な農業研究が行われています。

信州大学農学部准教授の鈴木純氏が行った研究では、マルチ栽培を実施する圃場を対象に、テンシオメーター方式を採用したデータロガー付き土壌水分センサーを使用して、降雨後の体積含水率の変化を記録しました。

その結果、マルチシートを使用してない裸地部よりも体積含水率の増加は少なかったのですが、「畝間に貯留した雨水が深度0.3~0.4m程度の土層を経由してマルチ下へ浸入すること」や「栽培する農作物の形状、生育段階によっては根域群が湿潤化すること」が判明したそうです。

参考文献

・フィルムマルチ施用畑の雨水と土壌水分の挙動

https://www.jstage.jst.go.jp/article/agrmet1943/54/1/54_1_23/_pdf

5.まとめ

マルチ栽培は日本の農業生産の多くが実践する最もポピュラーな栽培方法です。土壌水分センサーの中には、先述した農業研究でも使用されたテンシオメーター方式を採用した製品も数多くありますので、ぜひこの記事を参考に導入を進めてみてください。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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