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果樹生産における土壌水分センサーの利用について

日本では、みかんやブドウ、りんご、桃などたくさんの種類の果物が栽培されています。この記事では、果樹生産における土壌水分センサーの利用について解説していきます。

目次

1.日本の果樹生産の現状

2.土壌水分センサーの種類

3.土壌水分センサーが検知する情報

4.果樹生産における土壌水分センサーの利用について

5.まとめ

1.日本の果樹生産の現状

中山間地域が国土の約7割を占める日本では、ブドウやみかん、りんご、桃、柿など様々な果物が栽培されています。

果物は、ビタミン、ミネラル、食物繊維など人間の健康維持に欠かせない栄養素を多く含む重要な農作物で、江戸時代から既にブドウやみかん、栗などの栽培が開始されていたといわれています。

農林水産省が公表した資料によれば、日本における果樹生産のピークは昭和54年で、国内消費量の約6割を輸入に頼る状況が続いてきましたが、近年は食の安全に対する意識や健康志向の高まりから、国内の新鮮な果物を求める消費者が増えてきているそうです。

しかし、国内果樹生産の現場では、農業人口の減少や高齢化、後継者不足等の課題を背景に、生産量の低下や耕作放棄地の増加の問題が顕在化。平成17年まで約400万トン前後で推移していた国内生産量も300万トン前後まで減少している状況だそうです。

2.土壌水分センサーの種類

土壌水分センサーは、土壌に含まれる水分量を測定する装置です。土壌水分センサーには、大きく分けて2つのタイプの製品があります。

1)土壌の誘電特性を利用したタイプ

土壌の誘電特性を利用したタイプは、「土壌を構成する水・空気・土粒子の3要素の中で比誘電率が最も大きい水が土壌全体の比誘電率を決める」という性質を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。TDR方式、TDT方式、WCR方式、ADR方式、キャパシタンス方式など様々な種類があります。

・TDR方式(Time Domain Reflectometry ※時間領域反射法)

TDR方式は、土壌に埋設した金属ロッドに流したマイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

1970年代にカナダで開発された測定方式で、誘電特性から土壌水分を測定する方法の元祖といわれています。

・TDT方式(Time Domain Transmission ※時間領域透過法)

TDT方式は、TDR方式と同様、マイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

違いは、U文型にループしたセンサー部で、片側から照射したマイクロ波が検出器に戻る時間を計測します。その形状から土壌に埋設して使用することは難しく、耕起直後の作土層や砂地でしか使用できない特徴があります。

・WCR方式(Water Content Reflectometer ※含水率反射率計)

WCR方式は、金属ロッドに流したマイクロ波が反射して戻る回数を基に土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

通常より太く設計されたセンサー部が特徴で、メーカーが作成した校正式を基に計算した値のみを出力します。

・ADR方式(Amplitude Domain Reflectometry ※振幅領域反射法)

ADR方式は、TDR方式・TDT方式・WCR方式と同様、土壌の誘電特性を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

他の方式と比較して「土壌の電気伝導度の影響が少なく、測定精度も高い」というメリットがありますが、高額な製品が多く、他の方式でも十分な精度で測定できるようになったため、国内での使用があまり報告されなくなりました。

・キャパシタンス方式(静電容量方式)

キャパシタンス方式は、電圧をかけたセンサー内のコンデンサーで計測した静電容量を基に土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

「静電容量は比誘電率の影響を受ける」という性質から、TDR方式等と同様、土壌の誘電特性を利用した土壌水分センサーとして知られています。

2)マトリックポテンシャルを利用したタイプ

マトリックポテンシャルとは「土壌が水分を吸収する力」のことで、テンシオメーター方式と呼ばれる製品を中心に様々な種類の製品が発売されています。

・テンシオメーター方式(小見出し)

テンシオメーター方式は、ポーラスカップと呼ばれる素焼きのカップを使用した土壌水分センサーです。

センサー周辺の土壌水分が、マトリックポテンシャルによって吸収されると、テンシオメーターに充填した水が外部に吸引される仕組みを利用して土壌水分量を測定します。

「水は通すが空気は通さない」という性質を持つ素焼きカップ内の水圧を測定すれば、その土壌のマトリックポテンシャルを知ることもできます。

・キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式

キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式は、キャパシタンス式土壌水分センサーのセンサー部に素焼きの板をサンドイッチした土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性をマトリックポテンシャルに換算してくれるのが特徴で、テンシオメーターが苦手とする乾燥土壌の測定にも向いています。

・電極式ポテンシャル方式

電極式ポテンシャル方式は、ナイロン素材など繊維質で包んだ電極棒の中で発生する電気抵抗を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性を利用した方法の普及で一度は廃れましたが、マトリックポテンシャルを利用した方法への応用をきっかけに、その有効性が見直されました。

テンシオメーターと比較して測定の精度は落ちますが、安価な価格とメンテナンスの手軽さから、生産現場での活用が進んでいます。

3.土壌水分センサーが検知する情報

土壌水分センサーは主に以下4つの情報を検知します。

1)土壌水分量

通常、土壌に含まれる水分量は、土壌表面に現れる湿り気と乾き具合を目視や手の感触で確認して判断する方法が一般的とされています

しかし、土壌水分センサーを使用すれば、農作物の生育に必要な水分量を数値で確認できるようになるため、適切なタイミングでの潅水が可能になります。

2)土壌温度

土壌温度の計測は、土壌に含まれる水分の蒸発量の計算に使用します。

土壌水分の蒸発は、農作物の健全な生育に必要な水分量を不足させてしまうことから、収量や品質にも大きな影響を及ぼすといわれています。

3)電気伝導度(EC値)

電気伝導度(EC値)は、土壌に含まれる肥料分や塩分濃度を示した数値です。EC値が0.3㎳/㎝以下を示す場合は施肥量を増やし、1.0㎳/㎝以上を示す場合は施肥量を減らすのが良いといわれています。

4)土壌pH

土壌pHは、土壌に含まれる酸性・アルカリ性の度合いを示した数値です。

農作物は、pH6.0~6.5の弱酸性の土壌でよく育つといわれています。しかし、土壌pHが低い状態のまま、土壌全体が酸性に傾き過ぎると、石灰分や苦土分の欠乏、アルミニウムの溶け出しを招き、根の生育を妨げてしまうそうです。

4.果樹生産における土壌水分センサーの利用について

農林水産省は、国内果樹生産を取り巻く状況を改善するための施策として、ロボット、AI、ICT(情報通信技術)等の先端技術を活用したスマート農業を推進しています。

広島県大崎上島町で実施した「レモンにおけるスマート農業機械等の一貫作業体系の実証」では、レモンを対象に「土壌水分の見える化システム」と「AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ」を使用して、作業時間の短縮と販売量の増加を検証。その結果、作業時間の30%削減・販売量の20%増加に成功したそうです。

https://www.naro.go.jp/smart-nogyo/subject/kaju-cha/131282.html

また、三重県紀州地域農業改良普及センターと三重大学大学院生物資源学研究科が実施した「生産現場における高品質ミカン生産のためのICT利用に向けた土壌水分計測手法の確立」では、温州みかんを対象に圃場の環境条件をリアルタイムで計測する農業用小型計測ロボット「フィールドサーバ」を使用して、水分ストレスの指標を測定。その結果、気象情報と土壌環境の計測が樹体の水分把握に極めて重要な役割を持つことを突き止めることに成功したそうです。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/air/20/3/20_3_86/_article/-char/ja/

5.まとめ

長期化する消費低迷や若者の果物離れ等の課題を抱える日本の果樹生産現場では、輸出拡大や6次産業化など新たなマーケット創出に向けた取り組みが進められています。

しかし、これらのマーケットに対応する高品質な果物を生産するためには、土壌に含まれる水分量を正確に測定することが重要になってきます。 土壌水分センサーを使用した果樹生産を検討する際には、ぜひこの記事を参考に導入を進めてみてください。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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