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花き類における土壌水分センサーの利用について

日本では、鑑賞用の鉢花に使用する花や贈答用の花束に使用する花、お供え物に使用する花など、様々な種類の花が栽培されています。この記事では、花き類における土壌水分センサーの利用について解説していきます。

目次

1.日本の花き類生産の現状

2.土壌水分センサーの種類

3.土壌水分センサーが検知する情報

4.花き類における土壌水分センサーの利用について

5.まとめ

1.日本の花き類生産の現状

1)日本の花文化

日本の花文化の歴史は古く、平安時代にはすでに花瓶に花を挿す習慣があったといわれてます。室町時代の中期頃になると、見た目の美しさや華やかさに加え、その香りを楽しむ華道が確立。四季折々の魅力を伝える日本の伝統文化のひとつとして今日まで受け継がれています。

2)日本の花き類生産

日本では、様々な種類の花が生産されています。農林水産省が令和元年12月に公表した資料によれば、平成29年度の産出額は、農業産出額全体(9兆2742億円)の約4%を占める3687億円で、その内訳は、切り花類が6割、鉢もの類が3割、花壇用苗もの類が1割となっています。

平成29年度産出額ランキング

1位:キク(625億円)

2位:洋ラン(364億円)

3位:ユリ(214億円)

4位:バラ(178億円)

5位:切り枝(169億円)

6位:鉢花(155億円)

7位:庭園用苗木(146億円)

8位:トルコギキョウ(127億円)

農家戸数は他の農作物と同様、年々減少傾向にあるものの、45歳未満の若い農業者の割合が多く(稲作の約2倍)、小規模農業における平均農業所得も畜産に次いで2番目に高いことから、近年は新規就農者による参入も増えています。

・農林水産省「令和元年度 花きの現状について」

https://www.maff.go.jp/j/seisan/kaki/flower/pdf/1912_meguzi_all.pdf

3)リレーフレッシュネス制度

花き類は、他の農作物と比較して、日持ちが短いのが特徴です。農林水産省は、消費者の日持ちに対する不安を解消するための施策として、花き類の生産・流通・小売の3段階の品質保障を示す認証制度「リレーフレッシュネス」を展開しています。

・花き総合認証プログラム「リレーフレッシュネス」

http://www.mps-jfma.net/about/

2.土壌水分センサーの種類

土壌水分センサーは、土壌に含まれる水分量を測定する装置です。土壌水分センサーには、大きく分けて2つのタイプの製品があります。

1)土壌の誘電特性を利用したタイプ

土壌の誘電特性を利用したタイプは、「土壌を構成する水・空気・土粒子の3要素の中で比誘電率が最も大きい水が土壌全体の比誘電率を決める」という性質を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。TDR方式、TDT方式、WCR方式、ADR方式、キャパシタンス方式など様々な種類があります。

・TDR方式(Time Domain Reflectometry ※時間領域反射法)

TDR方式は、土壌に埋設した金属ロッドに流したマイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

1970年代にカナダで開発された測定方式で、誘電特性から土壌水分を測定する方法の元祖といわれています。

・TDT方式(Time Domain Transmission ※時間領域透過法)

TDT方式は、TDR方式と同様、マイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

違いは、U文型にループしたセンサー部で、片側から照射したマイクロ波が検出器に戻る時間を計測します。その形状から土壌に埋設して使用することは難しく、耕起直後の作土層や砂地でしか使用できない特徴があります。

・WCR方式(Water Content Reflectometer ※含水率反射率計)

WCR方式は、金属ロッドに流したマイクロ波が反射して戻る回数を基に土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

通常より太く設計されたセンサー部が特徴で、メーカーが作成した校正式を基に計算した値のみを出力します。

・ADR方式(Amplitude Domain Reflectometry ※振幅領域反射法)

ADR方式は、TDR方式・TDT方式・WCR方式と同様、土壌の誘電特性を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

他の方式と比較して「土壌の電気伝導度の影響が少なく、測定精度も高い」というメリットがありますが、高額な製品が多く、他の方式でも十分な精度で測定できるようになったため、国内での使用があまり報告されなくなりました。

・キャパシタンス方式(静電容量方式)

キャパシタンス方式は、電圧をかけたセンサー内のコンデンサーで計測した静電容量を基に土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

「静電容量は比誘電率の影響を受ける」という性質から、TDR方式等と同様、土壌の誘電特性を利用した土壌水分センサーとして知られています。

2)マトリックポテンシャルを利用したタイプ

マトリックポテンシャルとは「土壌が水分を吸収する力」のことで、テンシオメーター方式と呼ばれる製品を中心に様々な種類の製品が発売されています。

・テンシオメーター方式

テンシオメーター方式は、ポーラスカップと呼ばれる素焼きのカップを使用した土壌水分センサーです。

センサー周辺の土壌水分が、マトリックポテンシャルによって吸収されると、テンシオメーターに充填した水が外部に吸引される仕組みを利用して土壌水分量を測定します。

「水は通すが空気は通さない」という性質を持つ素焼きカップ内の水圧を測定すれば、その土壌のマトリックポテンシャルを知ることもできます。

・キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式

キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式は、キャパシタンス式土壌水分センサーのセンサー部に素焼きの板をサンドイッチした土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性をマトリックポテンシャルに換算してくれるのが特徴で、テンシオメーターが苦手とする乾燥土壌の測定にも向いています。

・電極式ポテンシャル方式

電極式ポテンシャル方式は、ナイロン素材など繊維質で包んだ電極棒の中で発生する電気抵抗を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性を利用した方法の普及で一度は廃れましたが、マトリックポテンシャルを利用した方法への応用をきっかけに、その有効性が見直されました。

テンシオメーターと比較して測定の精度は落ちますが、安価な価格とメンテナンスの手軽さから、生産現場での活用が進んでいます。

3.土壌水分センサーが検知する情報

土壌水分センサーは主に以下5つの情報を検知します。

1)土壌水分量

通常、土壌に含まれる水分量は、土壌表面に現れる湿り気と乾き具合を目視や手の感触で確認して判断する方法が一般的とされています

しかし、土壌水分センサーを使用すれば、農作物の生育に必要な水分量を数値で確認できるようになるため、適切なタイミングでの潅水が可能になります。

2)土壌温度

土壌温度の計測は、土壌に含まれる水分の蒸発量の計算に使用します。

土壌水分の蒸発は、農作物の健全な生育に必要な水分量を不足させてしまうことから、収量や品質にも大きな影響を及ぼすといわれています。

3)電気伝導度(EC値)

電気伝導度(EC値)は、土壌に含まれる肥料分や塩分濃度を示した数値です。EC値が0.3㎳/㎝以下を示す場合は施肥量を増やし、1.0㎳/㎝以上を示す場合は施肥量を減らすのが良いといわれています。

4)土壌pH

土壌pHは、土壌に含まれる酸性・アルカリ性の度合いを示した数値です。

農作物は、pH6.0~6.5の弱酸性の土壌でよく育つといわれています。しかし、土壌pHが低い状態のまま、土壌全体が酸性に傾き過ぎると、石灰分や苦土分の欠乏、アルミニウムの溶け出しを招き、根の生育を妨げてしまうそうです。

5)土壌pF(土壌の保水性)

土壌pFは、土壌の保水性や湿り気具合を示した数値です。十分に水分を含んでいる状態の土壌では低い数値を示し、乾燥している状態の土壌では高い数値を示します。

4.花き類における土壌水分センサーの利用について

日本では、花き類の栽培に最適な土壌水分量を割り出す様々な農業研究が行われています。熊本県農業研究センター農産園芸研究所の花き部が実施した「シュクコンカスミソウの隔離床栽培における高品質生産」の研究では、以下の研究成果が発表されました。

「シュクコンカスミソウの隔離床栽培における高品質生産」の研究成果

1.切り花のボリュームを確保するためには、定植後と生育の前期に十分な施肥と潅水を行い、株の生育を促す必要がある。

2.生育後期に土壌を乾燥状態で管理すると、切重量やボリュームは減少するが、頂花近くの節間が短くなり、切り花が曲がりにくくなる。

3.土壌を乾燥状態にする時期を早める(節間伸長期~発蕾期)と長さや重さは減少するが、長花近くの節間長が短くなり、曲がりにくくなる。

4.冬~春出しの作型では、発蕾期から土壌を乾燥状態で管理する。土壌の乾燥程度は、土壌の保水性や湿り気具合を表す土壌pFが29程度(下位葉がしおれ始める)までに留め、それ以上になったら潅水を実施する。(1回の潅水量は2~4

5.高温期の春~夏出しの作型の土壌は、冬~春出し作型よりも湿り気が多くなるように管理する必要があるため1回の潅水量を増やすようにする。

6.切り花のボリュームが劣る秋出しの作型では、土壌を乾燥する時期を開花枝展開期に遅らせるなど作型に応じた対応をする。

7.ポリオフェイン長繊維不織布(タイベック)の農業用マルチを使用すれば、開花が早まり切り花のボリュームが向上する。

8.隔離床栽培は、冬期の品質低下の著しい火山灰土壌や排水の悪い圃場での品質向上に有効で、砂土のような保水性の悪い土壌には適さない。

・「シュクコンカスミソウの隔離床栽培における高品質生産」

https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/6748.pdf

5.まとめ

花き類は、野菜や果物の様に食べることはできませんが、私たちの心を豊かにしてくれる重要な農作物です。土壌水分センサーの中には、土壌の保水性を示す土壌pFを測定できる製品もありますので、ぜひこの記事を参考に導入を進めてみてください。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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