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砂地栽培における土壌水分センサーの利用について

日本には、砂地栽培と呼ばれる農法を用いて農作物を栽培している農家がいます。この記事では、砂地栽培における土壌水分センサーの利用について解説していきます。

目次

1.砂地栽培とは

2.土壌水分センサーの種類

3.土壌水分センサーが検知する情報

4.砂地栽培における土壌水分センサーの利用について

5.まとめ

1.砂地栽培とは

1)日本の砂地栽培の歴史

砂地栽培とは、土壌粒径が小さい砂土と呼ばれる土壌を利用して農作物を栽培する農法のことを指します。

日本における砂地利用の歴史は古く、江戸時代中期頃には、日本海沿岸部の内陸にある水田を保護するための砂防林植栽事業が行われたと伝えられています。

砂地の農業利用が本格化したのは、1953年に施行された「海岸砂地地帯農業振興臨時措置法」以降で、全国各地にある沿岸部の土地を中心に、その活用が進められてきましたが、近年は農業人口の減少や高齢化、後継者不足等を原因に耕作放棄地の増加が深刻化しています。

2)砂地栽培のメリット

砂地栽培のメリットは、通気性と透水性に優れた土壌の性質を利用できる点にあります。

通常、同じ場所で同じ農作物を連続して栽培していると連作障害と呼ばれる弊害が起こります。

しかし、砂土は連作障害の原因の一つである栄養分の偏りが発生しにくいという特性があるため、連作障害のリスクを最小限に抑えた状態で農作物を栽培できます。

最近では、砂土を利用した高床式栽培など、高収益な農業生産を目的に砂地栽培に取り組む農家も多く、1年間に10回の連作に成功した例も報告されています。

2.土壌水分センサーの種類

土壌水分センサーは、土壌に含まれる水分量を測定する装置です。土壌水分センサーには、大きく分けて2つのタイプの製品があります。

1)土壌の誘電特性を利用したタイプ

土壌の誘電特性を利用したタイプは、「土壌を構成する水・空気・土粒子の3要素の中で比誘電率が最も大きい水が土壌全体の比誘電率を決める」という性質を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。TDR方式、TDT方式、WCR方式、ADR方式、キャパシタンス方式など様々な種類があります。

・TDR方式(Time Domain Reflectometry ※時間領域反射法)

TDR方式は、土壌に埋設した金属ロッドに流したマイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

1970年代にカナダで開発された測定方式で、誘電特性から土壌水分を測定する方法の元祖といわれています。

・TDT方式(Time Domain Transmission ※時間領域透過法)

TDT方式は、TDR方式と同様、マイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

違いは、U文型にループしたセンサー部で、片側から照射したマイクロ波が検出器に戻る時間を計測します。その形状から土壌に埋設して使用することは難しく、耕起直後の作土層や砂土でしか使用できない特徴があります。

・WCR方式(Water Content Reflectometer ※含水率反射率計)

WCR方式は、金属ロッドに流したマイクロ波が反射して戻る回数を基に土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。

通常より太く設計されたセンサー部が特徴で、メーカーが作成した校正式を基に計算した値のみを出力します。

・ADR方式(Amplitude Domain Reflectometry ※振幅領域反射法)

ADR方式は、TDR方式・TDT方式・WCR方式と同様、土壌の誘電特性を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

他の方式と比較して「土壌の電気伝導度の影響が少なく、測定精度も高い」というメリットがありますが、高額な製品が多く、他の方式でも十分な精度で測定できるようになったため、国内での使用があまり報告されなくなりました。

・キャパシタンス方式(静電容量方式)

キャパシタンス方式は、電圧をかけたセンサー内のコンデンサーで計測した静電容量を基に土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

「静電容量は比誘電率の影響を受ける」という性質から、TDR方式等と同様、土壌の誘電特性を利用した土壌水分センサーとして知られています。

2)マトリックポテンシャルを利用したタイプ

マトリックポテンシャルとは「土壌が水分を吸収する力」のことで、テンシオメーター方式と呼ばれる製品を中心に様々な種類の製品が発売されています。

・テンシオメーター方式

テンシオメーター方式は、ポーラスカップと呼ばれる素焼きのカップを使用した土壌水分センサーです。

センサー周辺の土壌水分が、マトリックポテンシャルによって吸収されると、テンシオメーターに充填した水が外部に吸引される仕組みを利用して土壌水分量を測定します。

「水は通すが空気は通さない」という性質を持つ素焼きカップ内の水圧を測定すれば、その土壌のマトリックポテンシャルを知ることもできます。

・キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式

キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式は、キャパシタンス式土壌水分センサーのセンサー部に素焼きの板をサンドイッチした土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性をマトリックポテンシャルに換算してくれるのが特徴で、テンシオメーターが苦手とする乾燥土壌の測定にも向いています。

・電極式ポテンシャル方式

電極式ポテンシャル方式は、ナイロン素材など繊維質で包んだ電極棒の中で発生する電気抵抗を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。

土壌の誘電特性を利用した方法の普及で一度は廃れましたが、マトリックポテンシャルを利用した方法への応用をきっかけに、その有効性が見直されました。

テンシオメーターと比較して測定の精度は落ちますが、安価な価格とメンテナンスの手軽さから、農業現場での活用が進んでいます。

3.土壌水分センサーが検知する情報

土壌水分センサーは主に以下5つの情報を検知します。

1)土壌水分量

通常、土壌に含まれる水分量は、土壌表面に現れる湿り気と乾き具合を目視や手の感触で確認して判断する方法が一般的とされています

しかし、土壌水分センサーを使用すれば、農作物の生育に必要な水分量を数値で確認できるようになるため、適切なタイミングでの潅水が可能になります。

砂土は、一般の土壌と比較して保水性が低い傾向にありますので、土壌水分量の変化に十分に注意しながら潅水を行ってください。

2)土壌温度

土壌温度の計測は、土壌に含まれる水分の蒸発量の計算に役立ちます。

土壌水分の蒸発は、農作物の生育に必要な水分量を不足させることから「農作物の品質や収量にも大きな影響を及ぼす」といわれています。

砂土は、熱伝導率と熱容量が小さく地温が上昇しやすい傾向にありますので、土壌温度の変化には十分に注意するようにしてください。

3)電気伝導度(EC値)

電気伝導度(EC値)は、土壌に含まれる肥料分や塩分濃度を示した数値です。EC値が0.3㎳/㎝以下を示す場合は施肥量を増やし、1.0㎳/㎝以上を示す場合は施肥量を減らすのが良いといわれています。

砂土は、一般の土壌と比較して電気伝導度(EC値)が低い傾向にありますので、液体肥料を活用するなど、肥料分の補充に重点を置いた栽培を進めてみてください。

4)土壌pH

土壌pHは、土壌に含まれる酸性・アルカリ性の度合いを示した数値です。

農作物は、pH6.0~6.5の弱酸性の土壌でよく育つといわれています。しかし、土壌pHが低い状態のまま、土壌全体が酸性に傾き過ぎると、石灰分や苦土分の欠乏、アルミニウムの溶け出しを招き、根の生育を妨げてしまう恐れがあるといわれています。

砂土は、石灰分を与え過ぎると亜鉛や鉄などの微量要素が欠乏しやすくなりますので、土壌pHの値には十分に注意してください。

5)土壌pF(土壌の保水性)

土壌pFは、土壌の保水性や湿り気具合を示した数値です。十分に水分を含んでいる状態の土壌では低い数値を示し、乾燥している状態の土壌では高い数値を示します。

砂土は、一般の土壌と比較して保水性が低い傾向にありますので、土壌pFの変化に注意しながら適切なタイミングで潅水を行ってください。

4.砂地栽培における土壌水分センサーの利用について

日本では、砂地栽培に関連した様々な農業研究が行われています。

徳島県立農林水産総合技術センター農業研究所、鳥取大学乾燥地研究センター、鳥取大学農学部の3者が実施した研究では、サツマイモを対象に土壌pFを測定できるデータロガー付きの土壌水分センサーを使用して1時間毎の土壌水分量の変化を記録。

その結果、「土壌pFの値を定植から40日目頃までは1.5~1.8、41~80日目頃までは1.8~2.0、81~120日目頃までは2.0~2.5で管理すれば、品質や収量が向上する」ということが判明したそうです。

参考資料

「砂地畑における土壌水分の推移がサツマイモの収量 および品質に及ぼす影響」

http://www.unity-design.jp/blog/wp-content/uploads/2016/05/1301650219918f61553c2b1f4bea77b8.pdf

5.まとめ

砂地栽培を成功させるためには、農作物の成長に合わせた水管理が重要になってきます。土壌水分センサーの中には、先述した農業研究でも使用された土壌pFを測定できる製品もありますので、ぜひこの記事を参考に導入を進めてみてください。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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