日本では、露地栽培と呼ばれる栽培方法をメインに、葉物類や果菜類、根菜類や,花き類など多くの農作物が生産されています。この記事では、露地栽培における土壌水分センサーの利用について解説していきます。
目次
1.露地栽培とは
2.土壌水分センサーの種類
3.土壌水分センサーが検知する情報
4.露地栽培における土壌データの活用
5.露地栽培に適した土壌水分センサー
6.まとめ
1.露地栽培とは
露地栽培とは、ビニールハウス等の栽培施設を使用せずに、屋外の畑で農作物を栽培する方法のことを指します。
その土地の気候条件や土壌条件のみを利用して農作物を栽培するのが特徴で、葉物類や果菜類、根菜類や,花き類など様々な種類の農作物を栽培することができます。
2.土壌水分センサーの種類
土壌水分センサーは、土壌に含まれる水分量を測定する装置です。土壌水分センサーには、大きく分けて2つのタイプの製品があります。
1)土壌の誘電特性を利用したタイプ
土壌の誘電特性を利用したタイプは、「土壌を構成する水・空気・土粒子の3要素の中で比誘電率が最も大きい水が土壌全体の比誘電率を決める」という性質を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。TDR方式、TDT方式、WCR方式、ADR方式、キャパシタンス方式など様々な種類があります。
・TDR方式(Time Domain Reflectometry ※時間領域反射法)
TDR方式は、土壌に埋設した金属ロッドに流したマイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。
1970年代にカナダで開発された測定方式で、誘電特性から土壌水分を測定する方法の元祖といわれています。
・TDT方式(Time Domain Transmission ※時間領域透過法)
TDT方式は、TDR方式と同様、マイクロ波が通過する時間を計測して土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。
違いは、U文型にループしたセンサー部で、片側から照射したマイクロ波が検出器に戻る時間を計測します。その形状から土壌に埋設して使用することは難しく、耕起直後の作土層や砂地でしか使用できない特徴があります。
・WCR方式(Water Content Reflectometer ※含水率反射率計)
WCR方式は、金属ロッドに流したマイクロ波が反射して戻る回数を基に土壌の比誘電率を測定する土壌水分センサーです。
通常より太く設計されたセンサー部が特徴で、メーカーが作成した校正式を基に計算した値のみを出力します。
・ADR方式(Amplitude Domain Reflectometry ※振幅領域反射法)
ADR方式は、TDR方式・TDT方式・WCR方式と同様、土壌の誘電特性を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。
他の方式と比較して「土壌の電気伝導度の影響が少なく、測定精度も高い」というメリットがありますが、高額な製品が多く、他の方式でも十分な精度で測定できるようになったため、国内での使用があまり報告されなくなりました。
・キャパシタンス方式(静電容量方式)
キャパシタンス方式は、電圧をかけたセンサー内のコンデンサーで計測した静電容量を基に土壌水分を測定する土壌水分センサーです。
「静電容量は比誘電率の影響を受ける」という性質から、TDR方式等と同様、土壌の誘電特性を利用した土壌水分センサーとして知られています。
2)マトリックポテンシャルを利用したタイプ
マトリックポテンシャルとは「土壌が水分を吸収する力」のことで、テンシオメーター方式と呼ばれる製品を中心に様々な種類の製品が発売されています。
・テンシオメーター方式
テンシオメーター方式は、ポーラスカップと呼ばれる素焼きのカップを使用した土壌水分センサーです。
センサー周辺の土壌水分が、マトリックポテンシャルによって吸収されると、テンシオメーターに充填した水が外部に吸引される仕組みを利用して土壌水分量を測定します。
「水は通すが空気は通さない」という性質を持つ素焼きカップ内の水圧を測定すれば、その土壌のマトリックポテンシャルを知ることもできます。
・キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式
キャパシタンス式土壌水分センサーを応用した方式は、キャパシタンス式土壌水分センサーのセンサー部に素焼きの板をサンドイッチした土壌水分センサーです。
土壌の誘電特性をマトリックポテンシャルに換算してくれるのが特徴で、テンシオメーターが苦手とする乾燥土壌の測定にも向いています。
・電極式ポテンシャル方式
電極式ポテンシャル方式は、ナイロン素材など繊維質で包んだ電極棒の中で発生する電気抵抗を利用して土壌水分を測定する土壌水分センサーです。
土壌の誘電特性を利用した方法の普及で一度は廃れましたが、マトリックポテンシャルを利用した方法への応用をきっかけに、その有効性が見直されました。
テンシオメーターと比較して測定の精度は落ちますが、安価な価格とメンテナンスの手軽さから、生産現場での活用が進んでいます。
3.土壌水分センサーが検知する情報
土壌水分センサーが検知する情報の詳細は以下の通りです。
1)土壌水分量
通常、土壌に含まれる水分量は、土壌表面に現れる湿り気と乾き具合を目視や手の感触で確認して判断する方法が一般的とされています
しかし、土壌水分センサーを使用すれば、農作物の生育に必要な水分量を数値で確認できるようになるため、適切なタイミングでの潅水が可能になります。
2)土壌温度
土壌温度の計測は、土壌に含まれる水分の蒸発量の計算に使用します。
土壌水分の蒸発は、農作物の健全な生育に必要な水分量を不足させてしまうことから、収量や品質にも大きな影響を及ぼすといわれています。
3)電気伝導度(EC値)
電気伝導度(EC値)は、土壌に含まれる肥料分や塩分濃度を示した数値です。EC値が0.3㎳/㎝以下を示す場合は施肥量を増やし、1.0㎳/㎝以上を示す場合は施肥量を減らすのが良いといわれています。
4)土壌pH
土壌pHは、土壌に含まれる酸性・アルカリ性の度合いを示した数値です。
農作物は、pH6.0~6.5の弱酸性の土壌でよく育つといわれています。しかし、土壌pHが低い状態のまま、土壌全体が酸性に傾き過ぎると、石灰分や苦土分の欠乏、アルミニウムの溶け出しを招き、根の生育を妨げてしまうそうです。
4.露地栽培における土壌データの活用
一般社団法人電子情報通信学会は、安藤優平氏(三菱電機)、砂田英之氏(三菱電機インフォメーションシステムズ)、松永龍弥氏(三菱電機)、高田佳典氏(三菱電機)らが研究した「露地栽培における土壌センサデータ活用に関する考察」の内容を一般に向けて公開しています。
研究では、玉ねぎを対象に、体積含水率、土壌温度、電気伝導度(EC値)の3つを測定できる土壌水分センサーを深さ10cm地点に埋設。玉ねぎの生育期間である5月下旬~8月上旬までの土壌データを収集・分析しました。
その結果、体積含水率の幅が大きい程、土壌の水はけが良いことが判明。市販の土壌水分センサーを用いて土壌の水はけの状態を確認できることが分かったそうです。
※参考文献
「露地栽培における土壌センサデータ活用に関する考察」
https://www.ieice.org/publications/conference-FIT-DVDs/FIT2019/data/pdf/F-035.pdf
5.露地栽培に適した土壌水分センサー
A・R・P社が開発した「WDー3ーWETー5Y」は、体積含水率、土壌温度、電気伝導度(EC値)の3つを測定できる土壌水分センサーです。
TDR方式の改良版である折り返し平行伝送路方式という新しい方式を採用しているのが特徴で、先述した「露地栽培における土壌センサデータ活用に関する考察」でも使用されました。
WDー3ーWETー5Y
出典|http://www.arp-id.co.jp/hp/sensor_WD3WD5/img/image38.JPG
6.まとめ
農業を取り巻く環境は、農業人口の減少や高齢化、後継者不足等の課題を背景に、年々その厳しさが増しています。
しかし、土壌水分センサーを使用すれば、台風や長雨、冷害など天候や気候の影響を受けやすい露地栽培でも、高収量・高品質な農業生産を実現することが可能になります。
露地栽培で土壌水分センサーを使用する際にはぜひこの記事を参考にしてみてください。最後まで読んでいただきありがとうございました。