潅水制御装置には、農作物の水管理を省力化するために開発された様々な機器が使用されています。また、水分センサーは潅水作業の効率化を実現する重要な役割を果たすとして知られています。この記事では、水分センサーと潅水制御装置の併用について解説していきます。
目次
1.水分センサーとは
2.農業用水分センサーの役割
3.水分センサーと潅水制御装置の併用
4.スマート技術を活用した水分センサー
5.まとめ
1.水分センサーとは
1)水分センサーとは
水分センサーは、土壌に含まれる水分量を計測するための装置です。
一般では、ハンディータイプの製品を中心に、土壌水分の吸引力を測定して水分量を表示するメ-ター式の計器や水分量に加え土壌温度と電気伝導度も計測する製品が発売されています。
【参考】
大起理化工業株式会社 土壌水分計
https://www.daiki.co.jp/8333j.html
アイネクス株式会社 METER社製土壌水分センサー
http://www.ai-nex.co.jp/ECH2Oprobe-soil.html
2)スマート農業技術の活用
日本の農業は、農業者の高齢化や担い手不足等を原因に、農業生産を省力化するための施策としてスマート農業の普及が進められています。
スマート農業とは、ロボット技術やAI(人工知能)、情報通信技術(ICT)等の先端技術を活用して、農業の省力化・精密化・高品質化の実現を目指すものです。
潅水制御の分野では、潅水装置の遠隔化・自動化に向けた製品として、情報通信技術(ICT)を活用しており、水分センサーも遠隔からの土壌水分値の把握を可能とするため、スマート農業の一つとして開発が進んでいます。
2.農業用水分センサーの役割
農業用水分センサーの役割は下記の通りです。
1)土壌水分の計測
土壌水分の計測は、潅水制御において特に重要な役割を担います。
一般の農業生産の現場では、農作物を栽培する土壌表面に含まれる水分量を目視や感触で確認した後、潅水作業を実行しています。
しかし、農業用水分センサーを使用すれば、農作物の生育に必要な水分量の数値をリアルタイムで確認できるため、適切なタイミングでの潅水が可能になります。
2)温度の計測
温度の計測は、土壌に含まれる水分の蒸発量の計算に使用されます。
土壌水分の蒸発は、農作物の生育に必要な水分を不足させる恐れから、収量や品質にも大きな影響を及ぼすといわれています。
しかし、水分センサーの中には、土壌水分のみならず土壌表面の温度や塩分ストレスを引き起こす土壌塩分等を計測できる装置もあります。
3)栽培データの収集
栽培データの収集は、農業生産の効率化を実現する大きな要素のひとつです。
情報通信技術(ICT)を活用した水分センサーの中には、PCやスマートフォン等のデバイスを使用して1時間ごとの土壌水分と温度をグラフ化できる製品があります。
これらのデータを活用した栽培ノウハウの蓄積は、農業生産の安定化および日本農業が抱える人的課題の解決にもつながるとして大きな注目を集めています。
栽培データの見える化は、熟練農業者が持つ知見や高精度な農業技術を広く一般に普及することから、栽培技術の継承等への活用も期待されているそうです。
4)栽培データの共有
栽培データの共有は、農業生産に係わる業務の改善につながります。
全国の生産地の中には、同一地域で同じ品種を栽培しながら、異なる栽培方法を用いているケースも少なくありません。
しかし、情報通信技術(ICT)を活用した水分センサーを使用すれば、土壌水分等の栽培データを共有できるため、農業生産に係わる業務を地域単位で改善できるほか、後継者や新規就農者の育成にも役立てることも可能になります。
5)水分・温度の変化の通知
水分・温度の変化の通知は、潅水作業の効率化につながります。
潅水作業のタイミングは、土壌に含まれる水分量の変化、土壌水分の蒸発を誘発する温度の変化で決定していきます。
情報通信技術(ICT)を活用した水分センサーの中には、スマートフォン等のデバイスを使用して、土壌水分や温度の変化をプッシュ通知で受け取れる水分センサーも発売されています。
3.水分センサーと潅水制御装置の併用
潅水制御には、手動・遠隔・自動の3つの種類がありますが、この記事ではスマート農業技術を活用した遠隔潅水と自動潅水に使用されている水分センサーについて解説を進めていきます。
遠隔潅水・自動潅水の概要は下記の通りです。
1)遠隔潅水
遠隔潅水とは、IT技術を用いた通信技術であるICT(情報通信技術)を活用したシステムを利用して潅水を遠隔から操作する方法のことを指します。パソコンやタブレット、スマートフォンなど使用して遠隔から農作物の水管理を実行できるのが特徴です。
2)自動潅水
自動潅水とは、IoT(モノのインターネット)とAI(人工知能)を活用した完全自動型の潅水システムのことを指します。AIシステムが圃場の土壌条件を認識して土壌水分量を一定に保つように潅水を自動で制御してくれるのが特徴です。
3) SenSproutの製品併用について
当社が開発した遠隔潅水制御システム SenSprout Pro 潅水制御システムは、インターネットを利用して潅水を遠隔から制御するシステムです。機器は、灌水ゲートウェイと潅水制御盤の2つで構成されています。
関連製品である「SenSprout Pro センサーシステム」は、土壌の水分量や温度の計測、グラフ化、栽培管理のデータ共有、水分量と温度の変化の通知、計測データのダウンロード等の操作を遠隔から実行できるシステムです。
深さ毎に異なる土壌の水分量と地表面の温度を1時間ごとに計測してデータを収集します。実証実験では、地点毎に最大30%以上あった農作物の重量の違いを5%程度まで低減できる可能性を見出すことに成功しました。
それにより、水分センサーの数値を把握しながら、潅水制御システムを利用して水やりを行うことで、遠隔から水管理をすることを実現しています。
SenSprout Pro 潅水制御システム
https://sensprout.com/ja/irrigationcontrolsystem-2/
SenSprout Pro センサーシステム
https://sensprout.com/ja/sensorsystem-2/
4.スマート技術を活用した水分センサー
1)AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ(ZeRo.agri)
ゼロアグリ(ZeRo.agri)は、農作物に必要な水分量をAIが算出して潅水や施肥作業を自動で実行するAI搭載型の潅水施肥システムです。
このシステムは、「土壌の性質が粘土質か砂質によって保水力が異なる」という性質を元に、48時間の準備潅水を行ったあと、AIシステムが圃場の土壌条件を認識して土壌水分量を一定に保つように潅水を制御してくれるのが特徴です。
開発したのは、D2C事業等を展開する株式会社ルートレック・ネットワークスで、土壌水分や温度等の環境データや栽培データの見える化をサポートする機能も備えるそうです。
AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ(ZeRo.agri)
2)環境モニタリングシステム Farmo(ファーモ)
株式会社Farmoが運営する環境モニタリングシステム Farmo(ファーモ)は、田んぼの入水と止水を遠隔から制御する水田 Farmoとビニールハウス内のデータを見える化するハウス Farmoの2つで構成されたスマートフォンアプリです。
水田 Farmoは、水位センサーと給水ゲートの2つを使用して、田んぼの入水と止水の制御や水位のリアルタイム表示、水位データのグラフ化ができるアプリです。スマートフォンを使用して田んぼの水位を遠隔から確認・制御できるため、見回り回数を大幅に削減することが可能になるそうです。
ハウス Farmoは、太陽光発電の専用センサーを用いて、ハウス内の環境を見える化するアプリです。気温や湿度、炭酸ガス濃度等のデータを取得してハウス内の環境変化をグラフ化する機能のほか、ハウス内の異常をプッシュ通知する機能も備えるそうです。
環境モニタリングシステム Farmo(ファーモ)
5.まとめ
農業人口の減少や農業者の高齢化等が進行する日本農業では、持続可能な農業生産に向けたスマート農業の普及が急がれています。
潅水制御装置に使用する水分センサーは、潅水作業の効率化のみならず、農業者が栽培データを活用して農業生産のオペレーションを向上するデータドリブン農業の実現にも役立つことでしょう。水分センサーと潅水制御装置を導入する際には、この記事を参考に検討を進めてみてください。最後まで読んでくださりありがとうございました。