作物を育てていると「潅水ってどのタイミングで、どのくらいやるのが適切なんだろう?」と感じたことがあるのではないでしょうか。
「水やり3年」という言葉があるように、潅水は一見簡単なように見えますが、そのタイミングは非常に難しいのです。
作物の生育状態・その日の天気・土壌水分量など、さまざまな要因を考慮したうえで潅水する必要があるからです。
ただ水をあげているだけのように見えますが実は奥が深く、作物の生育や収量に大きな影響を与えます。
さて、今回はそんな潅水の「最適なタイミング」について紹介したいと思います。
ビニールハウス栽培は天候の影響を受けにくいのですが、それでも季節によって潅水のタイミングは違ってきます。
季節ごとにどのタイミングで水をあげるのがいいのか、見ていきましょう。
目次
1.潅水の役割
2.季節ごとの適切な潅水のタイミング
3.環境制御システムや水分センサーを導入して見える化
4.まとめ
1.潅水の役割
そもそも、潅水にはどのような役割があるのでしょうか?
私たちは当たり前のように作物に水をあげていますが、まずは潅水が重要である理由を2つ紹介したいと思います。
光合成の原料となる
作物が成長するためには、光合成を促す必要があります。
ご存じの方も多いと思いますが、光合成とは水と二酸化炭素を原料として、植物が自ら成長に必要な養分と酸素を作り出す活動のことです。
水が不足すると光合成速度が落ちて養分の生成が遅くなるため、作物の生育スピードの低下につながってしまいます。
また、光合成によって作られた養分は、水に溶けることで花や果実、根など植物体全体に運ばれるのです。
作物が光合成を行って元気に生育するためにも、潅水は重要なのです。
蒸散を促進して根からより多くの養分を吸収する
潅水のもう1つの重要な役割は、蒸散(読み方:じょうさん)を促進することです。
蒸散とは、主に葉の裏側にある気孔という小さな穴から、植物体内の水分が水蒸気となって外に出ていくことです。
この蒸散には2つの意味があります。
1つ目が、気化熱によって植物体の温度を下げることです。
私たち人間は、体温が高くなると汗をかいて下げようとします。植物も同じように、気孔から水分を外に出すことで、植物体の温度が上がらないようにする働きをもっています。また、夏場の暑いときに蒸散は特に重要となります。
2つ目は、根からの養分吸収を活発にすることです。
気孔から水分を外に出しているので、当然葉の水分は失われます。すると、植物は葉に水分を供給しようと、根から水分を吸い上げようとします。このとき、一緒に土壌中の養分も吸収します。
よって、蒸散は温度と水分量の調整、そして養分吸収において重要なのです。
このように、潅水は作物の生育において非常に重要な役割を果たします。しかし、「ただ潅水する」だけでは、その効果を十分に発揮できません。
次に紹介するような、適切なタイミングというものが存在するのです。
2.季節ごとの適切な潅水のタイミング
それでは、季節ごとの適切な潅水のタイミングについて紹介します。
ビニールハウス栽培とはいえ、外の気温や天気の影響を受けるため、季節によって潅水の時間帯や頻度は変わります。なお、潅水の際には「たっぷりと」水をあげるようにしましょう。
春の潅水
徐々に外気温の上がってくる春は、午前中の日が昇ってから潅水するようにしましょう。
春先はまだまだ朝晩冷えることが多いため、朝早い時間帯や夕方に潅水してしまうと、土が凍って作物の根を傷ませてしまうことがあります。
そのため、日が昇って少し気温が上がったタイミングが適切です。
また、春の潅水で注意する点は、気温が上昇するとともに潅水量を増やすことです。
3月頃はまだ寒い日があるものの、5月になると夏日に近い気温になることもあります。
すると、気温の上昇とともに土の乾きも早くなっていくのです。
そのため、春先は少なめに潅水し、徐々に潅水量を増やしていくように心がけましょう。
夏の潅水
夏場の潅水を行うタイミングは特に重要です。
基本的に朝の涼しい時間帯と夕方涼しくなってからの2回行うようにしましょう。
朝は日の出から午前9時頃まで、夕方は気温の下がる午後17時以降が目安です。
もし夏の昼間に潅水すると、直射日光とハウス内の高温によって土壌中の水の温度が上昇して蒸れてしまい、根を傷める原因となってしまいます。
特に夏場のビニールハウス内は、日中ですと40℃を超えていることがほとんどですので、潅水は控えましょう。
朝と夕方にたっぷりと水をあげて、暑い夏を乗り切りましょう。
秋の潅水
秋の潅水は春と逆で、徐々に頻度と潅水量を減らしていきます。
日中の気温が夏とあまり変わらない時期は、夏と同じように潅水します。
そして秋が深まるにつれ、夕方の潅水をやめ、朝の潅水量を減らしていきます。
特に、秋は夜間の温度が夏に比べ下がるため、気温の変化には特に気を遣っておきましょう。
「ちょっと夜が肌寒くなってきたな」と感じたら、夕方の潅水量を減らす、または辞めるといいでしょう。
冬の潅水
ビニールハウス栽培であれば、冬でも日中は暖かく感じます。
しかし、朝晩は外気温の低下に伴ってビニールハウス内も寒くなるので、夕方の潅水は厳禁です。
土が凍ってしまい、根に深刻なダメージを与えてしまうためです。
そのため、日が昇って少し暖かくなってから潅水するようにしましょう。
具体的には、午前9~12時頃がベストです。
また、土壌が乾いていないと感じたら、潅水をしなくてもいい場合もあります。
このあたりは長年の経験か、次に紹介する潅水制御装置に頼りましょう。
3. 環境制御システムや水分センサーを導入して見える化
潅水のタイミングが分かると、次に問題になるのは潅水量です。
潅水量はそのときの土壌水分量、ビニールハウス内の気温、天気など、さまざまな要因を考慮して決める必要があります。
今までは経験がモノを言うところがありましたが、最近では便利なビニールハウスの環境制御システムや水分センサーなどが登場しています。
ですので、経験の浅い方でもそのようなシステムを使うことで、簡単にビニールハウス内の状況を把握して潅水制御できるようになりました。
例えば、SenSproutは土壌水分センサーと潅水システムを開発しています。
土壌水分量を「数値」として把握し、データを活用することでそのときの状況に応じて、適切な潅水を行うことができます。
また、潅水はスマホから行うことができるため、離れた場所からでも土壌の水分量状態を確認しながら潅水ができるのです。
技術が発達した時代だからこそ、このような潅水制御機器を導入して、適切なタイミングで適切な量の潅水を行って、高品質の作物を生産することが可能となっています。
ぜひ、スマート農業の導入を検討してみましょう。
4.まとめ
今回は、季節ごとの適切な潅水のタイミングについて紹介しました。
潅水は作物を育てるうえで非常に重要な作業です。 適切なタイミングで水を与え、高品質高収量をめざしましょう。