農業にとって欠かせない水。
農地にどうやって水をもってくるかは重要な問題です。
しかし、給水設備には農業用水や農業用パイプラインなどいくつかの種類があり、それによって必要となるポンプも違います。
実際に導入しようとすると、さまざまな種類があって混乱してしまうこともあるでしょう。
そこで今回は、給水設備ごとにどんなポンプが必要になるか紹介します。
これから農業を始めようという方や、新しく農地を増やそうとされている方に最適です。
目次
1.主な給水設備は6種類
2.農業用水にはエンジン式かモーター式のポンプ
3.農業用パイプラインはバルブをひねるだけ
4.浅井戸からは浅井戸ポンプで取水
5.深井戸には専用の深井戸ポンプ
6.水道には潅水ポンプ
7.雨水は大きめのタンクに溜めてから送水
8.まとめ
1.主な給水設備は6種類
ポンプについて説明する前に、まずは給水設備にはどんなものがあるか整理しておきましょう。
現代の日本で主に使われている給水設備は、以下の6つが挙げられます。
- 農業用水
- 農業用パイプライン
- 浅井戸
- 深井戸
- 水道
- 雨水
雨水は給水設備というより水源ですが、今回は給水設備としてまとめたいと思います。
では、それぞれの給水設備の特徴と、対応するポンプについて見ていきましょう。
2.農業用水にはエンジン式かモーター式のポンプ
農業用水は、川や湖から開水路で水を引いて、農地まで届ける給水設備です。
日本各地で整備されており、地域によっては網目状に整備されるなど、非常に重要な農業の基盤です。
そんな農業用水路から水を引くには、用水路から水をくみ上げるポンプが必要です。
対応するポンプはエンジン式とモーター式の2種類です。
エンジン式ポンプは電源がなくても動きますが、潅水前に手動でエンジンをかける必要があります。また、燃料を給油する必要もあります。
一方で、モーター式ポンプはエンジン始動と給油の手間がなく、省力化に適しています。
しかし、電源が近くにない場合は電気工事が必要なので、その費用がかかります。
経営面積が大きく収益性の高い農地であれば、作業の省力化ができるモーター式ポンプがいいでしょう。農地が分散していても対応できます。
一方で、農地が1ヶ所に集まっていたり、経営面積がそれほど大きくなかったりする場合はエンジン式ポンプでも十分です。
1つ注意なのが、農業用水から取水していると、ポンプにゴミが詰まってしまうことがあります。それを防ぐためにも、ポンプと一緒にゴミ除けネットも購入しておきましょう。
3.農業用パイプラインはバルブをひねるだけ
農業用パイプラインとは、地中に埋め込んだ用水管を通して、農地に水を運ぶシステムです。水路からの漏水や蒸発がなくなり、安定した水を供給できるのがメリットです。
豊富な水源が確保できる地域を中心にどんどん普及しています。
農業用パイプラインから取水する場合は、ポンプは必要ありません。
というのも、農業用パイプラインを埋設するときに、各農地に給水栓も設置されるからです。イメージとしては、家ごとに水道があるような感じです。
そのため、農地への給水は、給水栓のバルブをひねって水を出すだけと簡単です。
給水栓から田んぼに水を引くだけであれば、配管の工事などは不要です。
ビニールハウスや畑まで水を引くのであれば、給水栓から配管するようにしましょう。このとき、細かいゴミが溜まって管が詰まらないように、ゴミ除けフィルターも一緒に設置しましょう。
また、農業用パイプラインの給水栓は、田んぼへの給水であれば自動化できます。
水位の上限と下限を設定しておけば、必要な量だけ自動で給水してくれます。
省力化ができるだけでなく、必要最低限の水しか使わないので水資源の有効活用につながります。
4.浅井戸からは浅井戸ポンプで取水
給水設備には、地下水を使うというものもあります。その1つが浅井戸です。
地下8mほどのところに、水を通しにくい岩盤層があります。
浅井戸は、その岩盤層の上に溜まっている水のことです。
「地下の比較的浅い位置にある水」という認識でも大丈夫でしょう。
浅井戸から取水するには、「浅井戸用」と表記のある専用のポンプが必要です。
設置するには工事が必要ですが、このあと紹介する深井戸に比べると費用は安価です。
「昔からこの辺りは井戸水を使っている」という地域の方は、利用を検討してみてもいいでしょう。
ただ、浅井戸は雨量や周囲の環境の影響を受けやすいというデメリットもあります。
干ばつが続くと枯れてしまったり、環境変化によって水質が変わってしまったりすることもあります。
もし何か変化を感じたら、すぐに検査をして成分を確認することをおすすめします。
ちなみに、浅井戸は飲料水としても使われます。
もし飲料水として使いたければ、安全のために定期的な水質検査をしましょうね。
5.深井戸には専用の深井戸ポンプ
浅井戸に対し、岩盤層の下にある地下水をくみ上げる給水設備が深井戸です。
固い岩盤を掘るため、工事費用と時間がかかるのがデメリットですが、非常に安定した給水設備であるというメリットもあります。
深井戸は周囲の影響を受けにくく、年間を通して水量と水質が安定しています。
水温も安定しており、夏は冷たく冬は温かく感じられます。
雪が積もる地域では融雪用としても利用できます。
深井戸に必要なポンプは、動力の強い深井戸専用ポンプです。
水圧の制御に制御盤と圧力タンクも必要です。
深井戸専用ポンプには、ジェットポンプと水中ポンプの2種類があります。
ジェットポンプは深さ20mほどまで対応しています。
吸込管と圧送管の2本の管を通し、水をくみ上げます。
機種によっては浅井戸と兼用できるものもあり、地上部にはモーターと制御装置、井戸の中に2本の管といった形になります。
かつてはモーター音がうるさかったのですが、最近ではモーター音が抑えられた製品もあります。
一方の水中ポンプは、40mほどの深い場所からでも水をくみ上げることができます。
地上には制御盤と圧力タンクで、モーターは地下にあります。
管は揚水管の1本のみで、地下水中に沈めたモーターを使って一気に水をくみ上げます。費用はかかりますが、モーター音が気にならないというメリットがあります。
農業用水や農業用パイプラインのない地域では、地下水の利用も選択肢として十分に考えられます。もし地下水を使おうと考えているなら、一度専門業者に調査を依頼してみましょう。
6.水道には潅水ポンプ
水道も重要な給水設備の1つです。
水道から取水する場合は、まとまった水量を確保するために、1度貯水タンクに溜めてから送水する方法をおすすめします。
対応するポンプは潅水ポンプで、潅水チューブに送ります。
潅水ポンプにはエンジン式とモーター式の2種類があるので、自身の農地に合った方を選びましょう。
そして、給水設備として水道を使う場合は、3つほど注意が必要です。
1つ目は、宅地近くで下水道が整備されている地域では、下水道料金が必要な場合があります。一度お住まいの地域の行政機関で確認しておきましょう。
2つ目は、家庭からの需要が多い朝や夕方は、一時的に水圧が下がります。
この場合は潅水時間をずらす、大きめの貯水タンクに溜めるなどして対応しましょう。
3つ目は、取水する場所によって水圧が違うことです。
水道管が太い主管であれば大丈夫ですが、枝にあたる支管だと水圧が足りないことがあります。どこから取水することになるか、導入前に確認しておきましょう。
7.雨水は大きめのタンクに溜めてから送水
給水設備というよりは「水源」という表現が正しいかもしれませんが、最後に雨水の利用についても紹介します。
雨水を利用する際の給水設備は水道と同じです。
貯水タンクに水を溜めておいて、そこから潅水ポンプ、潅水チューブを通して潅水します。
雨水を使う場合の注意点ですが、貯水タンクは大きめのサイズを使うのがおすすめです。雨はいつ降るか分からないので、大容量の貯水タンクであれば安心感も違います。
また、貯水タンクの色は藻が発生しにくい黒色のものにしましょう。
8.まとめ
農業で使える給水設備と、それに対応したポンプについて紹介しました。
地域によって、使える給水設備はさまざまでしょう。
自分の農地にはどんな給水設備が利用できて、どんなポンプが対応しているか、導入する前に一度整理しておきましょう。
周辺の農家さんや業者の方に相談するのもいいですね。 給水設備が整えられれば、スムーズな農業経営につながりますよ。