潅水制御装置を使用した水やり作業を行うためには、水源の水を汲み上げる農業用の潅水ポンプが必要です。潅水ポンプには様々な種類があり、それぞれの用途の応じた使い分けがなされています。
農業用の潅水ポンプは、一般的にあまり知られていないため、選び方が分からないという方も多いと聞きます。しかし、製品情報の見方が分かれば、さほど難しいことではありません。性能に関する単語の意味を覚えるだけでも、おおまかな使い方を理解できるようになります。この記事では、潅水ポンプの基本情報、種類、使い方、選び方について解説していきます
目次
1.潅水ポンプとは
2.潅水ポンプの種類
3.各栽培方法における潅水ポンプの使い方
4.潅水ポンプ以外の設備
5.潅水制御装置の体系
6.潅水方法の種類
7.まとめ
1.潅水ポンプとは
潅水ポンプは、エンジンや電気を動力に、圧力を利用して水源の水を汲み上げる農業用のポンプです。ポンプの出口にホースやチューブなどをセットすることで、遠くまで水を送ることができます。
水を汲み上げる仕組みはメーカーや製品によって様々ですが、「圧力で水を汲み上げて送り出す」という構造は基本的に同じです。
しかし、汲み上げる水量や距離などの性能は、製品ごとに大きく異なるため、それぞれの製品が持つスペックを正しく理解することが大切です。まずは、そのスペックを理解するために必要な潅水ポンプの仕様について説明します。
1)潅水ポンプの仕様
潅水ポンプの製品情報は、様々な専門用語が並んでいるため、「どこをチェックすれば良いのか分からない」という人も多いと思います。
実際の導入の際には、専門の取扱業者に見繕ってもらうケースが多いため、すべてを理解する必要はありませんが、導入後の維持管理・メンテナンスには、最低限の基本知識が必要になってきます。
メーカー各社が示している基本的な仕様は以下の通りです。
潅水ポンプの仕様
仕様種別 | 説明 |
用途 | 主な使い途。製品ごとに想定される使い方が記されていることが多い。 |
重量 | 本体の重さ。 |
吸入口径 | 水を汲み上げる部分の口径。吸い上げ部は一般的に円形のため、直径で表す。 |
吐出口径 | 水を吐き出す部分の口径。ホースやチューブを接続する場合は、口径に合ったものを選ぶ。 |
全揚程(m) | 水を押し出す力の強さを、水を垂直に押し上げることができる距離で表したもの。 数値が大きいほど押し出す力が強い。 (※読み方:ぜんようてい) |
吐出し量 | 一定の時間当たりに送り出すことができる水の量。 |
出力(Kw) | ポンプのパワーを表す。数字が大きいほど水を押し出す力が強い。 |
動力 | ポンプを動かす動力。エンジンと電力の2種類がある。 |
上記の中で、特に覚えておきたいのが「全揚程」と「吐出し量」です。施設規模に対して、この2点が不足していると、水を送る力が足りず、適切に潅水することができなくなってしまいます。また、水を送る距離と水の量で、全揚程と吐出し量の数字が変わることも覚えておきましょう。
2.潅水ポンプの種類
潅水ポンプには、電動式のポンプとエンジン式のポンプの2種類があります。動力が異なるとポンプの取り回しも変わるため、それぞれの種類に応じた使用方法を身に着けることが必要になってきます。
電動ポンプは、電源が近くにある圃場以外では使用できませんが、長時間の使用が可能です。一方、エンジンポンプは場所を選ばずに使うことができますが、一回分の燃料で最大3時間程度しか使用できません。ここからは、電動ポンプとエンジンポンプ、それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
1)電動ポンプ
電動ポンプは、電気を動力源にしたモータ式のポンプです。
長時間使用ができるのが特徴で、家庭用電源の100Vに対応した製品と業務用電源の200Vに対応した製品の2つがあります。
200Vに対応した製品は、100Vに対応した製品と比較して、電気の力が強いため100Vと同じ電力量をより短い時間で出力することが可能になります。
通常、200Vの電源は専門業者による電源工事が必要ですが、ビニールハウス等の施設栽培では、200Vに対応した配電盤がすでに設置されているケースが多いため、この場合は、電源工事をしなくても200Vのポンプを導入することができます。
エンジンポンプに比べて価格は高めですが、燃料を用意する必要がないため、長期間の使用を検討するのであれば、割安に使用することができると思います。
また、エンジンを搭載していないため、動作音も静かで、住宅地や夜間に使う場合など、音を気にする場面でも安心して使用することができるでしょう。
種類は、屋内型と屋外型の2種類で、屋外型には防水加工が施されています。
製品例1:ハンディーポンプ HP-200(株式会社 寺田ポンプ製作所)
https://www.teradapump.co.jp/product/model/h
特長
・扱いやすい自吸式ポンプ
・小型・軽量・低騒音
・農業用のほか家庭用や漁業用でも使用可
・特殊構造のバルブレスタイプで安定した自吸性能を維持
・接液部に特殊樹脂を採用
仕様(50Hz)
・重 量:7.0㎏
・吐出径:25㎜
・全揚程:6m
・吐出量:20ℓ/min
・出 力:135W
仕様(60Hz)
・重 量:7.0㎏
・吐出径:25㎜
・全揚程:6m
・吐出量:40ℓ/min
・出 力:210W
製品例2:家庭用ポンプ SH-150(株式会社 寺田ポンプ製作所)
https://www.teradapump.co.jp/product/household/family_h/entry_248
特長
・従来比180%の水圧
・散水ノズルが使用可能
・5mのキャブタイヤケーブル1本、カップリング1組、ホースバンド2個が付属
・100V電源
・持ち運びに便利な軽量モデル
仕様
・重 量:4.9㎏
・吐出径:25㎜と15㎜に対応
・全揚程:15m
・吐出量:60ℓ/min
・出 力:150W
2)エンジンポンプ
エンジンポンプは、エンジンを動力源にした潅水ポンプです。
エンジンの種類は、ガソリンを燃料に使用する4サイクルエンジンとガソリンとエンジンオイルを混合した混合ガソリンを燃料に使用する2サイクルエンジンの2種類があります。
エンジンを動力源としているため、場所を選ばず使用できるのがメリットですが、エンジン音が大きいため、騒音が心配な場所での使用はおすすめできません。また、排気ガスに不純物が混じりやすいため、屋内での使用も不向きといえます。
製品例1:エンジンポンプ SEV-25FG(株式会社 工進)
https://www.koshin-ltd.jp/products/123.html
特長
・総排気量 98CC
・4サイクルエンジン(自動車用無鉛ガソリンを使用)
・タンク容量 1.8ℓ
・燃料消費目安 約1.5時間
・ホースの着脱が便利なワンタッチカップリング付き
・持ち運びが簡単な片手ハンドルタイプ
仕様
・重 量:18㎏
・吐出径:25㎜
・全揚程:32m
・吐出量:140ℓ/min
・出 力:1.8kW(最大)
製品例2:エンジンポンプ SEV-80X(株式会社 工進)
https://www.koshin-ltd.jp/products/1108.html
特長
・総排気量 179CC
・4サイクルエンジン(自動車用無鉛ガソリンを使用)
・タンク容量 3.6ℓ
・燃料消費目安 約1.6時間
・ホースバンド3個、ワンタッチカップリング2セット、工具一式が付属
仕様
・重 量:27.7㎏
・吐出径:80㎜
・全揚程:27m
・吐出量:1050ℓ/min
・出 力:3.5kW(最大)
3.各栽培方法における潅水ポンプの使い方
潅水ポンプは、栽培する農作物の種類や環境に適した製品を選ぶことが大切です。
潅水ポンプの主な用途は、効率的な水やり作業を実践して農作業の手間を大幅に減らすことにあります。ここからは、潅水ポンプの代表的な使い方と潅水ポンプを使用した栽培方法について解説していきます。
1)自動潅水システムによるビニールハウス栽培での水やり作業
生育状況を細かく管理して栽培するハウス栽培では、潅水ポンプとタイマースイッチを組み合わせた自動潅水システムが多く使用されています。
自動潅水システムは、タイマー付きのスイッチを使用して潅水ポンプのON・OFFをコントロールするシステムです。農作物の生育に必要な潅水量をコントロールできることから、ビニールハウス等の施設園芸で多く用いられています。
農作物の水やり作業に使用する潅水チューブは、1回の操作で広範囲を潅水できる農業用のホースで、均一かつ長尺な潅水作業を実現します。
当社が開発した遠隔潅水制御システム SenSprout Proは、インターネットを利用して潅水制御するシステムで、動作時間を1分単位で指定できるなど、きめ細やかな潅水作業を可能にします。なお、遠隔潅水制御システム SenSprout Proでの潅水ポンプ制御についてはご利用の潅水ポンプ製品によりますのでお問い合わせください。
SenSprout Pro 潅水制御システム
https://sensprout.com/ja/irrigationcontrolsystem-2/
2)露地栽培の作物に潅水する
畑や果樹園などの露地栽培では、定期的な耕耘作業が必要なため、持ち運びが可能なエンジン式の潅水ポンプが使用されています。
農作物の水やり作業は、簡易な潅水ホースやスプリンクラー、散水機等を使用して行いますが、栽培期間が長い作物には、作業中に踏んでしまっても差し支えのない頑丈な潅水チューブや移動式のスプリンクラーを使用するケースもあるようです。
また、ポンプの吐出し口に取り付けるパイプは、設置と撤去が簡単な塩ビ製のパイプが多く用いられています。
3)乾燥時の水やりに使用する
潅水ポンプは、降雨量の少ない夏の時期や冬の乾燥時期など、土壌中の水分量が不足しているときにも使用します。
乾燥時の水やり作業は、緊急性の高い作業になるため、持ち運びが簡単なエンジン式の潅水ポンプに、スプリンクラーや散水機を接続して、畑の隅々まで水が行きわたるように行います。
4.潅水ポンプ以外の設備
潅水制御装置には、潅水ポンプ以外にも様々な資材や機器が使用されています。
1)潅水チューブ
潅水チューブは、等間隔に配列された数ミリ単位の小さい孔が開いた農業用のホースです。潅水制御装置を構成する設備の中では、最終段階である農作物への水やり作業を担います。
農作物の畝間に設置して株元に潅水するタイプや埋没して使用するタイプ、ビニールハウス等の天井部等に設置して使用するタイプなど様々な種類があります。
2)ろ過フィルター
ろ過フィルターは、井戸水など水源に含まれるゴミや汚れを除去するための装置です。潅水制御装置を構成する設備の中では、装置全体の性能を維持するためのメンテナンスの役割を担います。
ハンドルをくるくる回すだけで洗浄できる半自動型のろ過フィルターは「メンテナンスの時間を大幅に短縮できる」として、多くの生産者が愛用しています。
3)タイマー
タイマーは、農作物への潅水時間を設定する装置です。潅水制御装置を構成する設備の中では、農業者の栽培管理の負担を軽減する省人化に向けた役割を担います。
住化農業資材株式会社が提供するよくばりタイマーという製品を使用すれば、「〇時間ごとに△分潅水する」など、農作物の栽培品目に合わせた設定ができるようになります。
4)液肥混入機
農作物の生育に必要な液体肥料を混入する機器です。潅水制御装置を構成する設備の中では、潅水と施肥を同時に実行する省力化に向けた役割を担います。
株式会社サンホープが提供するドサトロンは、正確な希釈精度を持った電源不要の液肥混入機で、畜産業や緑化事業にも使用されています。
5)スプリンクラー
スプリンクラーは、大規模農業で行われている露地栽培向けの設備です。潅水制御装置を構成する設備の中では、最終段階である農作物への水やり作業を担います。
農作物の株元に潅水する潅水チューブとは違い、農作物の頭上から雨のように潅水できるのが特徴です。
6)バルブコック
バルブコックは、水源から流れてきた水の通水をコントロールする設備です。潅水制御装置を構成する設備の中では、潅水チューブへの通水を制御する役割を担います。
元々は、水道関連に使用する真鍮製の部材で、専門店ほか一般のホームセンターなどで販売されています。樹脂製やプラスチック製など農業用に向けた安価な製品も発売されています。
7)塩ビ管(VU管・VP管など)
潅水制御に使用するパイプは、コック類と同様、元々は水道関連の部材です。潅水制御装置を構成する設備の中では、水源の水を圃場に運ぶ役割を担います。通水する水の量や設置する場所に応じた様々な規格があります。
5.潅水制御装置の体系
潅水制御装置を効果的に使用するためには、それぞれの設備に応じた体系づくりが必要です。潅水制御装置の一般的な体系は以下の通りです。
(1)井戸等の水源から水を汲み上げる「潅水ポンプ」
↓
(2)圃場に水を運ぶ「塩ビパイプ(VU管・VP管)」
↓
(3)水源の水に含まれるゴミや汚れを除去する「ろ過フィルター」
↓
(4)通水をコントロールする「コック類」
↓
(5)液体肥料を同時混入する「液肥混入機」
↓
(6)農作物への水やり作業を行う「潅水チューブ・スプリンクラー」
6.潅水方法の種類
潅水制御装置を使用した潅水方法には、地表潅水・点滴潅水・頭上潅水の3つがあります。
1)地表潅水
地表潅水は、農作物が植えられた畝間の表面にチューブやパイプを設置して潅水する方法です。ビニールハウス等の施設園芸や野菜の露地栽培等に用いられます。
2)点滴潅水
点滴潅水は、雨のようなゆっくりとした水やり作業を行う潅水方法です。使用する潅水チューブには、地表に設置して使用するタイプの製品と地中に埋没して使用するタイプの製品の2つがあり、ムダの無い効率的な潅水が特徴といわれています。
最近では、トマトやきゅうりなどの果菜類で行われている少量多潅水と呼ばれる潅水方法にも使用されています。
少量多潅水とは、少量の水を時間をかけながら回数を重ねて与える潅水方法で、農作物の健全な生育を促すその特性から、収量や品質の向上に役立つとして、多くの農業現場で用いられています。
3)頭上潅水
頭上潅水は、大規模農業の露地栽培やビニールハウス等の施設園芸で用いられる潅水方法です。移動式のスプリンクラーを用いて行う露地栽培向けの方法やビニールハウスの天井部にノズル付きのパイプを設置して施設全体を潅水する方法の2つがあります。
7.まとめ
潅水ポンプは、栽培する農作物の種類や圃場条件に適した製品を選ぶことが重要です。ハウス栽培や露地栽培など使用環境が異なる場所では、使用する潅水ポンプの種類も違うため、基本的な仕様については、しっかり理解しておきましょう。 潅水ポンプを正しく使うことは、農業生産の省力化につながります。 特に、ビニールハウス等の施設栽培では、農作物の水やり作業に費やしていた時間を大幅に短縮することができます。 潅水ポンプや潅水システムを使用して水の管理を効率的に行う時代。当社の遠隔潅水制御システム SenSprout Proを使用して水やり作業をもっと楽にしませんか?