目次
1.野菜栽培における水分管理の重要性
2.自動潅水が野菜栽培に有効なわけ-事例①-
3.自動潅水が野菜栽培に有効なわけ-事例②-
野菜栽培における水分管理の重要性
植物の生育には、酸素や気温、二酸化炭素などの環境要因が関係しています。今回は、その中でも「水」に着目して植物の生育メカニズムとともに、野菜栽培における水分管理の重要性をご紹介します。
また、自動潅水の仕組みを用いることで、栽培の効率化だけではなく、収量アップも狙うことができます。
この自動潅水が野菜栽培に有効な理由については、事例とともにご紹介します!
植物の体は90%が水でできている
植物の体は80%~90%が水でできています。人間の体は約70%が水分と言われているので、どれくらい植物にとって水が重要か分かるのではないでしょうか?
植物の体の中では、細胞の中を水が満たし、細胞同士が支えるように膨らんでバランスをとっています。
そのため、この水がなくなったり、不足してしまったりするとバランスを崩して萎れてしまいます。この状態が「水切れ」と言われます。
また、「蒸散」と言われる植物の働きにも水が多く使われます。
蒸散とは、植物の体の中にある水分を外に出す働きのことで、主に葉の裏側に分布する「気孔」と言われる穴から水蒸気として放出します。
根から吸収されたほとんどの水は、上に向かって養分を運びながら移動し、最終的には気孔から放出されます。
もし、水が不足すると、一時的な萎凋(いちょう)を引き起こし、その後脱水によって枯死(こし)します。
枯死を防ぐためにも、定期的で適切な量の水やりが重要です。
植物のエネルギー源は水
次に、水は植物のエネルギー源にもなります。
植物がエネルギーを作り出す方法といえば光合成ですが、この光合成には水と二酸化炭素が使われます。
光合成に使われる水は根から吸収された水のうち、ほんの一部です。しかしこの光合成では植物にとっては重要なエネルギー源になるデンプンや酸素を生み出すため、水の不足は避けなければいけません。
植物の体を流れる水
最後に、植物の体の中には導管・師管といって、養分が溶け出した水を運ぶ管があります。
この管は人間にとっては血管のようなもので、とても重要な植物の器官の一つです。
導管は根から吸収した養分が混ざった水を通し、師管は葉で作られた養分が混ざった水を通します。
この導管・師管は根から地上部の先端まで通っており、水移動とともに養分を植物の体全体に運びます。
水がなければ養分を運ぶことができませんので、やはり植物にとって水は重要な役割を果たします。
自動潅水が野菜栽培に有効なわけ-事例①-
ここからは、自動潅水で栽培することで得られる効果について、事例を交えてご紹介します。
初めにご紹介する事例は、光合成の観点から見た野菜の収量と水分管理の関係についてです。山形大学農学部の宍戸客員教授のコラム記事を参考にしています。
参考記事:https://www.takii.co.jp/tsk/bn/pdf/20110660.pdf
野菜の栽培では、水を与える量をこまめに調整することができます。この野菜の水管理は植物におけるすべての生理作用に影響を与え、農業では「収穫量」の変動に関係しています。
トマトやメロンでは、水分ストレスをかける(水切り)をすることで、糖濃度の上昇を促すことができます。
そのため、トマトやメロンの栽培では敢えて水切りをする管理がされますが、ほとんどの生理作用を抑制させてしまいます。
そこで、野菜の収量に直接かかわる光合成と、光合成で生み出した養分の分配・転流に関係する水分ストレスについて解説します。
水分ストレスが光合成に与える影響
水が光合成に与える影響を調べるために、トマトに水分ストレス(=乾燥ストレス)を与えるポリエチレングリコールを与えました。
実験区は、無処理区・弱ストレス区・中ストレス区・強ストレス区と、ストレスの強弱にも色を付けました。
測定は、それぞれの区の葉で光合成速度と蒸散速度を測定し、比較しました。
その結果、水分ストレスが強いほど光合成速度は低下すること、光合成速度の低下に伴って、蒸散速度も低下することが分かりました。
つまり、水分ストレスのかかる水切り状態では、気孔が閉じて水分の放出や光合成に必要なガスの取り込みができなくなり、いわば窒息状態になってしまいます。
また、水分ストレスの強弱に関係なく、気孔が閉じることも分かりました。
水分ストレスが養分の分配・転流に与える影響
次に、水分ストレスが養分の分配・転流に与える影響を調べるために光合成直後のトマトに水分ストレス(弱弱・中・強・無)を与えてトマトを栽培し、養分の転流率を調べることで影響を検証しました。
まず、水分ストレスが弱~中にかけては、何もストレスをかけていないトマトとほぼ同じ量の養分が転流しました。
このことから、水分ストレスが弱~中では光合成速度は低下するものの、速度が低下する前に生成していた養分の転流には影響を与えないことが分かります。
しかし、強い水分ストレスを与えた場合そもそもの植物の生理作用を阻害するため、転流率も大きく減少しました。
よって、水分ストレスを与えずに栽培することの重要性から、自動潅水で水分管理をすることの有効性が分かります。
自動潅水が野菜栽培に有効なわけ-事例②-
2つ目に紹介する自動潅水の有効性を示す事例もトマトを使った実験です。
参考:https://www.zero-agri.jp/gifunoushi
ゼロアグリという自動潅水装置を使った実験で、タキイ種苗会社のトマト「CF桃太郎J」「桃太郎ネクスト」を使っています。
実験方法は、2品種のトマトを自動潅水と手潅水で栽培し、収穫量と障害果実の発生率を比較します。
はじめに、「CF桃太郎J」ではゼロアグリで栽培した試験区の可販収量は手潅水区と比較して約11%増収しました。
また、上物収量に関しては約15%増収しました。続いて、障害果実の発生割合は手潅水に比べてゼロアグリでは約5%減少しました。
もう一方の品種「桃太郎ネクスト」でも同様に、ゼロアグリで栽培した試験区の可販収量は、手潅水区と比べて約26%増収、上物収量は約30%増収しました。
また、障害果実の発生割合についても、手潅水に比べてゼロアグリでは約6%減少しました。
このように、様々な研究が行われ水分管理の重要性と自動潅水の有効性が示されています。
水やりの効率を上げるためだけに自動潅水システムを導入するのではなく、植物の生理作用の観点からも導入を検討してみてはいかがでしょうか?