「企業の農業参入」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
農業では、後継者不足やそれに伴う耕作放棄地の増加といった問題を解決するために、企業の積極的な参入が求められています。
そこで、2003年から企業が農地を借りて農業に事業として取り組むことが法律で認められました。
そして、2003年以降食品産業や地元の中小企業を中心に、企業の農業参入は増加しています。
今回は、農業に参入している企業の中でも自動潅水システムを用いて野菜を栽培している企業を4つ紹介します。
「身近な企業が実は農業をしていた」なんて発見があるかもしれません。
目次
企業の農業参入の歴史
農業に参入している大企業 ①住友化学グループ
農業に参入している大企業 ②オリックス
農業に参入している大企業 ③四国電力
農業に参入している大企業 ④カゴメ
まとめ
企業の農業参入の歴史
農業に参入している企業を紹介する前に、企業の農業参入の歴史について説明します。
そもそも企業の農業参入の機運が高まったのは、担い手の減少や高齢化による耕地面積の減少や耕作放棄地の増加が大きな要因です。
テレビなどで「後継者がいない」と言っている農家さんを見たことがあるという人もいるのではないでしょうか。
そのため、多様な担い手の確保と若者を中心とした新規就農者の確保が求められるようになりました。
企業の農業参入は、この「多様な担い手の確保」を実現することにあたります。
企業の農業参入を促すために、2003年に一部の地域で「農地リース制度」が始まりました。
これは、耕作放棄されそうな農地に限り農業法人以外の企業でも農地を借りて農業に取り組むことができるという制度です。
そして2009年には、貸借であれば農地を適正に利用するなどの条件を満たす場合に限り、全国どこでも企業が農業に参入できるようになりました。
その結果、2008年には400程度だった企業の農業参入ですが、2017年には約3,000にまで増加しています。
中でも、野菜の栽培に取り組む企業の割合が高い傾向にあります。
企業にとって農業へ参入することは新規事業やそれに伴う新たな販路の開拓、地域貢献などのメリットがあります。
特に建設業を中心とした地元の中小企業の場合、「地域の農地を守るため」「地域の雇用を確保するため」といった理由での農業参入が多いのが特徴です。
一方で黒字化が難しく残念ながら撤退してしまった企業もあります。
企業がもともと持つ経営ノウハウだけでなく、最新設備の導入や制度の活用、地元との協力が企業の農業参入において重要です。
では、実際に農業に参入している企業を4つ紹介します。
農業に参入している大企業 ①住友化学グループ
最初に紹介するのは、国内第2位の化学メーカーである住友化学グループです。
住友化学グループでは、「住化ファーム」または「サンライズファーム」という名前の農場を、長野や大分など全国に7か所展開しています。
栽培作物は以下の通りです。
・トマト
・いちご
・キャベツ
・レタス
・みつば
住友化学グループの中には、農薬や肥料、潅水資材などの農業関連商品を製造・販売しているメーカーもあります。
農場ではグループ会社の製品を積極的に利用し、先進的な栽培に取り組んでいます。
中でも潅水資材は住化農業資材株式会社のもつ高い技術を用いています。
潅水チューブは地表潅水、点滴潅水、頭上潅水のそれぞれに対応した多彩な製品があります。
また、チューブ内の目詰まりを防止するフィルターや潅水制御システムなど、ビニールハウスでの自動潅水を可能にする製品を豊富に取り揃えています。
グループ会社の製品を活かしながら、新しい農業ビジネスの構築を目指しています。
農業に参入している大企業 ②オリックス
オリックスは大阪に本社を置き不動産や金融サービスなどの数多くの事業を手掛ける大手企業です。
プロ野球チームの「オリックス・バファローズ」の親会社でもあるため、野球好きであればピンとくる人も多いのではないでしょうか。
そんなオリックスは、長野や静岡、兵庫に計4か所の農場を所有しています。
農場はすべてICTを活用した大規模ビニールハウスです。
栽培している主な野菜は以下の通りです。
・トマト
・パプリカ
・レタス
・ほうれん草
・サラダケール
他にもクレソンやパクチーなどの葉物野菜、米、さらには種苗の研究まで、数多くの作物を栽培しています。
栽培方法は、ICTを活用した水耕栽培がメインです。
温湿度センサーや日射センサー、屋外気象センターなどでハウス内の環境を徹底的にデータ化し、作物の育てやすい環境になるようコントロールしています。
ビニールハウス内の環境制御は、パソコンによる遠隔操作が可能です。
また、潅水や液肥の施肥も自動潅水システムを用いて行っています。
栽培された野菜は、グループ会社であるオリックス・フードサプライによって販売されています。
全国規模のネットワークを持つオリックスならではの試みです。
農業に参入している大企業 ③四国電力
高松に本店を置き、四国を中心に電力事業を展開する四国電力も、実は農業に取り組んでいるのです。
栽培作物はトマトです。
「電気屋さんのつくったトマト」として、流通・販売されています。
トマトの栽培は徳島県で行われており、ビニールハウス施設によって病虫害の発生を抑え、農薬の使用を最低限に抑えています。
また、四国電力のグループ会社、四国総合研究所が開発した栽培管理システムによって、トマトの育ちやすい環境をコントロールしていることも特徴です。
潅水システムは、点滴潅水を導入しています。
トマトの根元に少しずつ、ストレスがかからないように水と栄養分を施しています。
四国電力は、ほかにもオリーブの加工・販売やみかんパウダーの開発・販売をするグループ会社をもつなど、農業分野で幅広い活躍を見せています。
また、電力・エネルギー分野の技術を活かし、ハウス施設での栽培管理システムの開発にも取り組んでいます。
農業に参入している大企業 ④カゴメ
食品産業の大手メーカーであるカゴメ。
野菜ジュースやトマトケチャップなど、馴染みのある商品が多くあります。
カゴメは約20年前から農業に参入し、大規模なハウス施設を使ったトマト栽培に取り組んでいます。最大の特徴は他を圧倒するほどの生産性です。
通常のトマトの施設栽培では年間生産量は1平方メートルあたり10kg程度です。
一方でカゴメの農場では年間あたり約70kgの生産量を誇ります。
どうしてこれほどまで生産できるのでしょうか?
それは、トマトの生育に最適とされる量のCO2を、濃度のムラなく施設全体に行きわたらせる技術を開発したからです。
また、トマトが樹の片側に実をつけるように生育させることで、収穫を効率化させています。
カゴメのハウス施設は、大規模なところで10haを超えています。
そこに欧米の技術を導入し、自社流にアレンジすることで、大規模施設でも高い生産性を実現しているのです。
もちろん、栽培環境はICTを用いています。
トマトの生育に合わせた環境のコントロール、養液の調整等を行い、年間を通して品質にバラつきが出ないよう管理しています。
まとめ
今回は、自動潅水システムやICTを用いて農業に参入している大企業を4つ紹介しました。
グループ会社の強みを活かして同じグループの製品を使って農業に取り組んでいる企業、海外の技術を導入し自社流にして活かしている企業と、企業によって特色がありました。
ここで紹介した大企業だけではなく、各地域の中小企業でも農業への参入は進んでいます。地域への貢献、原材料の確保、農業の発展のためなど、目的はさまざまですが、企業の農業参入は、日本の農業を力強く支えています。