農作物の潅水方法には様々な種類があります。
その中でも、少量多潅水と呼ばれる潅水方法は、「農作物の水分の吸収率を高くする」という特性から、トマトやスイカ、メロンなど果菜類の栽培を中心に多くの農業現場で実践されています。
農林水産省や農研機構では、「少量多潅水の効果を検証する」として、全国各地の生産地を実証フィールドに、栽培実験や実証試験を進めてきました。
この記事では、少量多潅水の概要と各研究機関が推奨する作物別の方法や研究事例、最新のスマート農業技術を活用した装置を紹介していきます。
目次
1.少量多潅水とは?
2.少量多潅水の効果
3.少量多潅水の方法
4.少量多潅水に適した農作物
5.研究機関による実証事例
6.スマート農業による少量多潅水
7.少量多潅水まとめ
1.少量多潅水とは?
少量多潅水とは、少量の水を時間をかけながら回数を重ねて与える潅水方法です。
これまで農作物の潅水作業は、一度に多くの水を与えた後、時間を空けて次の潅水を行う方法を主流としてきました。
しかし、この方法は農地の環境を急激に変化させてしまうという恐れから、環境の変化を緩やかにする新しい潅水方法の開発が望まれてきました。
少量多潅水は、「農作物の健全な生育を促す」というその特性から、積極的な導入が進められています。
2.少量多潅水の効果
少量多潅水には、主に以下の効果があります。
1)農作物のストレスの軽減
少量多潅水には 「農作物のストレスを軽減する」という効果があります。
1980年代に亜熱帯地域に位置する東京都小笠原村で実施されたトマトの栽培実験では、水の葉面噴霧時刻と着果の関係および水分の土壌容量を検証する研究が行われました。
研究では、ストレスの軽減から「少量の水を時間をかけながら少しずつ与えた圃場の方が、着果率(花房の着花数に対する着果数の割合)が高い」という成果が得られたそうです。
2)病害虫発生の抑制
少量多潅水には「病害虫の発生を抑制する」という働きがあります。
これは、潅水装置を用いた潅水作業全般にも言えることですが、農作物の中には品種によって葉に水がかかると病気になりやすいものがあります。
従来の潅水方法は、一度にたくさんの水を与えることから、葉面に水分が付着しやすく多くの病害虫を発生させてきました。
しかし、少量多潅水は少量の水を時間をかけながら回数を重ねて少しずつ与える潅水方法のため水分の付着を最小限に抑えることができます。
3)収量の向上
少量多潅水の最も大きな効果が「収量の向上」です。
トマトの着果率については、先述した東京都小笠原村の栽培実験で検証されましたが、佐賀県で実施されたキュウリの実証実験でも、前年の20%を上回る収量を確保できたそうです。
3.少量多潅水の方法
少量多潅水は、点滴チューブを使用した点滴潅水で行われるのが一般的です。
点滴潅水とは、点滴のようなゆっくりとした水やり作業を行う潅水方法で、点滴チューブには地表に設置して使用するタイプの製品と地中に埋没して使用するタイプの製品の2種類があります。
北海道や東北地方、信越地方等での寒冷地では、農作物の凍傷対策として点滴チューブを使用するケースもあるようです。
1)点滴チューブの選び方
点滴チューブは、ポリエチレン等のプラスチックを素材に、軟質と硬質の2種類が発売されています。
軟質素材は、軽量かつ安価な導入コストが特長で、交換頻度は多くなりますが、初期投資の金額を抑えることができます。
硬質素材は、肉厚で剛健なつくりが特長で、軟質素材よりも高価ですが、長期間にわたり使用することができます。
選び方は、栽培する農作物の規模や予算の都合など人によって様々ですが、あまり薄すぎる素材はネズミ等の被害を受けやすくなりますので、選び方には十分な注意が必要です。
2)潅水量の計算方法
点滴潅水の潅水量は、使用する点滴チューブの本数と目詰まりを防止するために内蔵されたドリッパーの間隔で計算されます。
例えば、点滴チューブが1本、株間が10㎝、ドリッパーの間隔が10㎝、1時間あたりの流量が1ℓの場合、1時間毎に10分の潅水を施せば、1株当たり167㎖の潅水を実行できる計算になります。
但し、流量が多すぎるもしくは少なすぎると、潅水量もそれに合わせて増減するため、送水に使用するポンプの圧力と点滴チューブの圧力をマッチングする必要があります。
点滴チューブのパンフレットやカタログには、水圧の適応やドリッパーの間隔が記載されていますので、これを参考にマッチングしてみてください。
また、潅水制御に使用するポンプの中には、点滴潅水に適した圧力タンク付きの製品も発売されていますので、これらを上手に組み合わせた潅水設備を設計してみるのも良いでしょう。
3)住化農業資材の点滴チューブ
住化農業資材は、製薬会社大手の住友化学アグロのグループ企業で、農業用潅水の資材や種子、種苗、種子コート、培土等の開発・製造・販売を手がけています。
同社が開発する農業用の潅水チューブは、ビニールハウス等の施設園芸や野菜の露地栽培、果樹など全国各地の生産者が愛用する製品で、ろ過フィルターや液体混入機等の関連製品を含め多数のラインナップが展開されています。
1.品名:ストリームライン60・80
ストリームライン60・80は、農作物の株元に潅水するタイプの点滴チューブです。優れた節水性と葉面への飛散を防止する構造が特長で、目詰まりの心配も少なく、また土中の通気性も良好に保てることから、効果的な施肥作業を実現することができます。
・ストリームライン60
https://www.sumika-agrotech.com/product/pdf/kansui_streamline_60.pdf
・ストリームライン80
https://www.sumika-agrotech.com/product/pdf/kansui_streamline_80.pdf
2.品名:スーパータイフーン100・100-1
スーパータイフーン100・100-1は、ストリームラインと同様で優れた節水性と葉面への飛散を防止する構造が特長の点滴チューブです。土中の通気性を良好に保てることに加え、農作物の生育状態に合わせた施肥量の調整も可能なため、より効果的な施肥作業を実現することができます。
・スーパータイフーン100・100-1
https://www.sumika-agrotech.com/product/pdf/kansui_supertyphoon_100.pdf
3.品名:ユニラムRC17
ユニラムRC17は、最新の圧力補正機構付きドリッパーが内蔵されている点滴チューブです。水圧が変化しても一定量の潅水をキープできることに加え、高低差30メートル程度の傾斜地でも利用できる構造になっています。
・ユニラムRC17
https://www.sumika-agrotech.com/product/pdf/kansui_yuniramu_rc.pdf
4.少量多潅水に適した農作物
1)トマト
トマトは、少量多潅水を用いた実証実験が最も多く実施されている農作物です。
主にビニールハウス等の施設栽培で用いられ、その多くは点滴チューブを使用した点滴潅水によって行われています。
一般的な潅水方法は、「少量の潅水に適しておらず、水やり作業にムラが出てしまう」という欠点が指摘されてきました。
しかし、点滴潅水は点滴のようなゆっくりとした水やり作業を実現できるため、現在では生産者のほとんどが、点滴チューブを使用した潅水作業を実践しています。 潅水量は、1株当たり2~3Lの潅水量が必要といわれていますが、土質や排水等の圃場条件によって変化するため、栽培条件に応じた適正量を見い出すことが重要なようです。
2)ナス
ナスもトマトと同様、少量多潅水が多く用いられている農作物です。
促成ナスの育苗においては、栽培初期から多くの水を潅水するのではなく、生長に合わせ1日に必要な量を少しずつ増やしていく方法が良いとされています。
定植から活着(約10日間)までは鉢土が乾かないよう、株元から半径15㎝程度に手潅水を行い、活着後からは潅水チューブを使用して潅水量を調整していきます。 潅水は、1株当たり3L程度を目安に、3日に1回程度のペースで行うのが良いとされていますが、葉に水分が付着すると葉焼け等の被害を招く恐れがあるため、株元への潅水が重要だそうです。
3)スイカ
スイカも少量多潅水による潅水作業が適している農作物です。
露地栽培が一般的なスイカですが、能登農業技術センターが実施した研究では、トンネル支柱などの雨よけ施設を利用して、定植期・着果期・肥大期のそれぞれで少量多潅水による効果を検証することに成功したそうです。
この研究は、能登半島の主要な農作物のひとつである、スイカの着果遅れや生長不良に対応するために行われました。 一般的に知られる潅水の頻度としては、多湿を嫌う特性から「土が乾いたら水やりをする」程度で留めておくのが良いそうです。
4)メロン
メロン栽培にも少量多潅水は効果的です。
慣行栽培では、潅水の時期や回数、量など天候や土壌条件、生育状況に応じた判断のみで潅水が行われてきました。
しかし、多量の水を施す地床のメロン栽培では、「養液土耕(潅水同時施肥栽培)最大の特徴である少量多潅水によって土壌水分の制御や施肥管理を合理的に実施できる」と結論付けています。 潅水は、1株あたり100Lを目安に一番果が確認できるまでは自然の雨のような少量多灌水を行い、硬果期に入った後は灌水量を少しだけ絞り、収穫10日前位には枯れない程度に水分を調整するのが良いとされています。
5.研究機関による実証事例
少量多潅水を用いた栽培実証は、各都道府県の農業センター等を実施者に全国各地の生産地で行われています。過去に実証された事例は以下の通りです。
1)事例:1「隔離床でのトマト栽培における少量多潅水におけるストレス軽減」(熊本県農業センター・大分県農政部 廣末徹氏ら)
「トマトの隔離床栽培は培地量が少ないため根域に保持できる水量が不足してストレスがかかりやすい」という課題から研究を実施。
「少量多潅水には点滴潅水が望ましく、底面給水マットを培地と点滴チューブの間に設置することで培地を均一に湿らすことができる」という結果から、「ストレスの軽減による収量の増加が見込める」との結論を導き出しました。
・「隔離床でのトマト栽培における少量多潅水におけるストレス軽減」
http://www.naro.affrc.go.jp/org/karc/qnoken/qnoken/no64/64-181.pdf
2)事例:2「少量多頻度潅水施肥が促成ナスの根と養分の畝内分布の推移に及ぼす影響」(日本土壌肥料学雑誌 速水悠氏・前田守弘氏 )
少量多潅水を(1日/4回)タイマーで計測して1回で全量を潅水する一回潅水との比較を行う。
この研究では、「少量多潅水は潅水位置付近の重量含水量が増え細根が多くなる」という結果から、「少量多潅水でも栽培後期の畝内土壌の重量含水率が保持できることから生育や収量を維持できる可能性」が示されたそうです。
・「少量多頻度潅水施肥が促成ナスの根と養分の畝内分布の推移に及ぼす影響」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dojo/91/1/91_910104/_article/-char/ja/
3)事例:3「メロンの養液土耕栽培における給液量と生育の関係」(茨城県農業総合センター園芸研究所 鈴木雅人氏・金子賢一氏 )
「地床のメロン栽培では養液土耕の特徴である少量多潅水の効果で、慣行の施肥・潅水よりも制御や管理が容易に行える可能性」から研究を実施。
養液土耕は地下水と密接な関係にあるため「慣行栽培と比較して降雨に伴う水分の変動が起こりにくい」という結論 が導き出されました。
・「メロンの養液土耕栽培における給液量と生育の関係」
https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/enken/hokoku/no11/documents/hiiac119-142003.pdf
6. スマート農業による少量多潅水
1)SenSprout Pro 潅水制御システム
当社が開発した遠隔潅水制御システム「SenSprout Pro 潅水制御システム」は、インターネットを利用して少量多潅水を遠隔から制御できるシステムです。
灌水ゲートウェイと潅水制御盤の2つで構成され、ベビーリーフの生産量で日本一を誇る熊本県の農業法人 株式会社果実堂様をはじめ、JA福岡大城アスパラガス部会様など多くの農業現場で使用いただいています。
また、関連商品として土壌水分や温度のグラフ化、栽培管理のデータ共有、水分量と温度の変化の通知、計測データのダウンロード等の操作をスマートフォン等のデバイスから実行できる「SenSprout Pro センサーシステム」も提供しています。
・SenSprout Pro 潅水制御システム
https://sensprout.com/ja/irrigationcontrolsystem-2/
・SenSprout Pro センサーシステム
https://sensprout.com/ja/sensorsystem-2/
2)AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ(ZeRo.agri)
ゼロアグリ(ZeRo.agri)は、少量多潅水に必要な水分量をAIが算出して潅水や施肥作業を自動で実行するAI搭載型の潅水施肥システムです。
このシステムは、「土壌の性質が粘土質か砂質によって保水力が異なる」という性質を元に、48時間の準備潅水を行ったあと、AIシステムが圃場の土壌条件を認識して土壌水分量を一定に保つように潅水を制御してくれるそうです。
「幸 満つる郷 KDDIエボルバ 野蒜」が実施した「AI潅水施肥システムを活用したミニトマト栽培の取り組み」では、生育状態を遠隔から管理する屋外型のクラウド録画パッケージを追加導入して、前年比の約2.4倍にあたる出荷数を実現しました。
・AI潅水施肥ロボット ゼロアグリ(ZeRo.agri)
7. 少量多潅水まとめ
少量多潅水は、果菜類を栽培する生産者を中心に多くの農業者が導入しています。
当社が提供する「SenSprout Pro 潅水制御システム」と「SenSprout Pro センサーシステム」を活用すれば、土壌に含まれる水分量を確認しながら、スマートフォン等のデバイスを使用して遠隔から少量多潅水を実施することができます。
この記事を参考に、当社のシステムを活用した遠隔操作による少量多潅水を検討してみてはいかがでしょうか?