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YAMABIKO FARM 中原 宏輔様

YAMABIKO FARMについて

大学卒業後ミュージシャンを目指し福岡へ、そこで農業生産者と知り合い交流するとみんな生き生きとしていた。

昔ぼんやりと考えていた、農業をしたい!という思いが再燃し、2014年に新規就農された、中原宏輔様にお話をお伺いいたしました。

YAMABIKO FARM

中原 宏輔様

Q、YAMABIKO FARMの創立は何年ですか?

A、2014年です。今年で7年目ですね。

Q、従業員数(社員とアルバイト数、研修生の数)を教えて下さい。

A、アルバイトが7名と、「農の雇用事業」を利用した研修生が1名です。

Q、中原様が農業を始められたきっかけを教えて下さい。

A、昔から漠然と農業への憧れがありました。でも家族や親戚に農家をしている人はおらず、大学で福岡県に来て以降は飲食店やマンションの管理会社で働いていました。飲食店というのはライブハウスのことで、僕自身もバンドマンでした。そこに集まってくる人は農業をしている人が多かったですね。その方々が本当に生き生きしていたので、「農業っておもしろそうだな」と思いました。農業への憧れを持ちながらもズルズルと生活していたら、3.11の震災が起こりました。それをきっかけに考えが変わって、いつ自分の身に何が起こるか分からないから、やりたいと思う仕事をやろうと思いました。その当時はマンションの管理会社で働いていましたが、クレーム対応が多かったので仕事が肌に合っていないと感じていました。夜中や休みの日に呼び出されることも多く、鬱々としていましたね。だから妻を説得して農家をやろうと思ったら、逆に背中を押してくれました。妻は元々野菜や虫取りが好きなタイプで、お義父さんも農家に嫁がせたかったようです。それから唐津のハローワークで農業の正社員を募集しているところを探し、雇ってもらいました。

Q、中原様の経歴を教えて下さい。

A、宮崎県出身で、大学で福岡県に来ました。大学卒業後は福岡の飲食店(ライブハウス)、マンションの管理会社で働き、その後、唐津市のトマト農家さんで2年間研修を受けました。研修後は大良という地域に1.2反の土地を借りて、そこに施設を建てて中玉トマトの栽培を始めました。5年ほど栽培しましたが、農地が飛び地で管理が大変だったので、ニラに転換しました。現在はニラを始めて2年目です。

Q、YAMABIKO FARMの栽培作物を教えて下さい。

A、ニラです。タフボーイという母葉の厚い品種を栽培しています。

Q、YAMABIKO FARMの栽培面積を教えて下さい。

A、栽培面積は50aで、ビニールハウスは20棟です。ハウスは車で5~10分のエリアに3か所あります。「そんな飛び地でよくやるね」と言われますね。正直、トマトだと付きっきりで管理しないといけないので、今のような飛び地では大変でした。ニラはトマトほど手間がかからないので、今の状況でもさらに規模拡大が見込めます。

Q、YAMABIKO FARMが農業生産以外で行っている他事業について教えて下さい。

A、自社で袋詰めして出荷しています。

Q、中原様が会社を経営する中で最も気になることは何ですか?

A、生産管理です。

Q、その理由をおしえてください。

A、本当は販売が気になるのですが、販売の前段階として生産を安定させたいのです。今は佐賀県特別栽培認証(通称「特栽」)を取って、グリーンコープに出荷することを目指しています。その認証を取るためには、農薬の使用回数や種類に制限があります。そのうえ、周年で安定して出荷する必要があります。だからゼロから土づくりを進めています。

また、「佐賀県でニラといえばYAMABIKO FARMだね」と言われるようになりたいと思っています。佐賀県は農業県と呼ばれている割にはニラ農家が少なくて、生産者の数は47都道府県中21位です。部会も佐賀市の近くに6,7人の部会が1つあるだけで、高齢化が進んでいます。一方でトマトはライバルが多いです。身近な人には「こんなおいしいトマト初めて食べた」と言ってもらえましたけど、いざ流通に出すと埋もれてしまいます。僕のトマトよりおいしくてきれいなトマトは世の中にあふれ返っています。この「ライバルが少ない」という点も、ニラを選らんだ理由の1つです。それが功を奏して、リスク分散として取引していただいている商社さんもあります。ただ、そうなるとニラの一大産地である大分県と戦うことになります。大産地対個人という戦い方になるので、数で負けている分、味で勝負しないといけません。だからその前に、生産を安定させる必要があります。

YAMABIKO FARMの販売戦略について

Q、YAMABIKO FARMの主な販売先はどちらですか?

A、卸商社さんと青果市場さんを中心に、大小合わせて18社ほど取引いただいています。ニラはキャベツや大根ほど大量に取引がないので、たくさんの販売先を持っています。

Q、YAMABIKO FARMは直販されていますか?

A、していませんし、興味もありません。自宅で消費される方が、わざわざニラ1kgを取り寄せることもありませんから。ニラと直販は相性悪いと思います。逆にトマトを栽培しているときは直販しか頭にありませんでした。でも、キロ単価で考えると高いですが、絶対量は少ないし、対応の手間を考えると本当に割に合っているのかなというのはありました。全部売れるわけではありませんし。ちゃんとスキームを作れたら変わったのでしょうが、そこまでたどり着けませんでした。それよりも、今は中ロット・中単価を目指しています。業務用や安定して取引してくれる商社さんを通じて、広げていきたいと思っています。

Q、販売戦略において苦労されていることはありますか?

A、2つあります。

1つは、うちのニラの“売り“を作っていかねばならないことです。「お客さんや取引先はうちのニラに何を求めているのかな」と考えても、日持ち・安定出荷・価格という当たり前すぎること以外に思い浮かびません。日持ちは僕の努力次第で叶えられるかもしれませんが、量や価格は大きい産地には勝てません。でも果実堂さんのトレーサビリティや、伊万里のネギ農家さんのHACCP工場を見させていただくと、品質以外にも差別化できる要素があることに気づけました。だから「YAMABIKO FARMのニラは〇〇です」という売りを作っていきたいです。

2つ目は、夏場は需要が減るうえに単価が下がることです。ニラもどんどん育つので、余計に大変です。だから冬に契約を結んでおいて、夏も取ってもらえるようにしたいのです。でも、コロナの影響で今はできていません。やっぱり居酒屋が動かないとニラは動きません。福岡の緊急事態宣言のときは、それまでニラが足りてなかったのに、初めて余ったと言われました。だから特栽を取って、安定した価格で取引してもらおうとしています。

Q、販売戦略において工夫されていることはありますか?

A、今取り組んでいるのは、出荷コストを大幅に抑えられて、単価も固定でとってもらえる「バラ契約出荷」です。100gずつの束ではなくて、5kgの段ボールに入れて業務用に出荷しています。これを今後の販売の主軸にしていきたいと考えています。実際にバラ出荷が多い日は、人時生産性が高くなります。ただ、本格的にやるとなると生産量が必要なので、これから増やしていきたいですね。

YAMABIKO FARMの生産管理について

Q、農業生産している中で、一番苦労した点は何ですか?

A、トマトを栽培していた頃の話ですが、最初は勘と経験で作る農業しか知りませんでした。だから周年で安定して出荷できないことがよくありました。病気で全滅したり、半日ハウスを開けていたら全部枯れたりということがありました。

Q、それはどのように解決されましたか?

A、4Hクラブや同友会に入会して、環境制御技術を教えてもらってから一気に世界が変わりました。もともと化学が好きだったので、植物生理や化学と植物の関係性を勉強しました。それで勘と経験ではない根拠のある栽培管理設定ができるようになってから、安定感が増してきました。

Q、農業生産において独自で工夫されているところはどのような点ですか?

A、微生物資材と有機酸液肥を自社で作っています。自社で作る理由は経費削減です。有機肥料は買うと高いですけど、メカニズムを理解すると自作で作れます。

Q、現在、農業生産において困っていることはありますか?

A、ニラは1年中生育しますが、栽培が難しい期間が3つあります。1つ目が9月頃の抽台、2つ目が葉先枯れ、3つ目が倒伏です。

Q、解決に向けて取り組んでいることを教えて下さい。

A、抽苔の時期が異なる品種を複数用意して栽培しています。片方は5月に中大するけど、こっちは9月に抽苔するというように品種を分けて、1年中抽苔のないようにしようとしています。これは来年度から取り組みます。

葉先枯れについては、急激に乾燥した空気をハウスの中に入れないように、水管理と換気管理に気を付けています。水不足や急激な乾燥で気孔が閉じると、水を吸えないからカルシウムを葉の上部まで運べません。要は作物の中の循環が止まってしまうわけですね。葉先枯れは未だに起こります。去年の反省としては水管理を間違えたと思っているので、来年は見直していきます。

倒伏に関しては、畝前面にきゅうりネットを展開していこうと考えています。倒伏の原因は肥料過多や徒長だと思いますが、不思議なことに圃場によって倒れる圃場と倒れない圃場があります。ハウスを開けっぱなしにしているわけではないので不思議に感じていますね。

中原様が目指す農業の未来

Q、今後の展開について考えていることを教えて下さい。

A、佐賀県で1番面積の大きなニラ生産者になることが直近の目標です。あとは作業の機械化を進めて従業員さんの労働環境を改善したり、法人化して雇用環境を改善したりしたいと思っています。トマトを栽培しているときは中身がないのに夢ばかり語る新規就農者だったので、今は真逆の方向に向かっています。いかにニラで毎月黒字化させて安定経営できるかしか考えていないのです。それを達成できれば、ゆくゆくは子ども向けの食育活動をしたり、果樹やトマトのように身近な人に渡すと喜ばれる作物を少しだけ作ったりしたいとは思っています。そして、スタッフといつも話している「ゆとりと誇りを感じられる会社」にしていきたいです。

Q、中原様が考える今後の農業のあるべき姿について教えて下さい。

A、農家さんが「先祖代々の自分の土地を守る」という意識ではなくて、もう少し開放的になればいいと思います。今後は淘汰されていった先に勝ち残れた農業法人だけが、規模も売上も伸ばすと思います。海外のスピードに比べると、日本はものすごく遅いですね。僕は他の場所から唐津の農業に飛び込んできましたが、「土地を守る」「他に渡さない」という信仰がまだ根強く残っていると感じます。農地や人、情報に関してもっと開放的で流動的になれば、非効率な状況に固執することも減って、本当に農業をやりたい人がやりやすくなると思います。

Q、中原様から若手農家へひとことお願いします。

A、僕は憧れのみで新規就農したので、現実とのギャップに今も非常に苦労しています。でも、新規就農者でも5年や10年という短い期間で急成長されている方は本当にたくさんいます。僕が客観的にそんな人たちを見て思うのは、みんな横のつながりを持っています。そして、情報収集能力と実行力があります。百姓として畑作業に精を出すのも大切ですが、農園を会社と捉え、新規就農を社長就任と捉えて畑の外にどんどん出ていくと、また違ったおもしろい農業が待っていると思います。

インタビューを終えて

事務所にお伺いすると、「お客様がお越しになられました!」そして、一斉に「いらっしゃいませ!」と迎えていただきました。

就農7年でも、理想と現実のギャップに苦しんでいると話されていましたが、理想に向かうための道筋はしっかりと描かれていました。

印象的な言葉で、「ゆとりとほこりを大切に」と語っておられましたが、理想を追い求めつつ、この言葉を大切にして飛躍されることと思います。

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