SenSprout(センスプラウト)

ベジハート株式会社 代表取締役 伊藤 賢一郎様

ベジハート株式会社について

今後起こりうる環境の変化を捉え、様々な打ち手を考え対処していくこと。これは、会社を経営し、継続していくために、経営者の手腕が問われるところです。

社会・業界における変化が激しい中、福岡県内にて施設園芸で葉物栽培を行うベジハートの伊藤 賢一郎社長にお話をお伺いいたしました。

ベジハート株式会社

代表取締役 伊藤 賢一郎様

Q、ベジハート株式会社の創立は何年ですか?

A、今年で創立28年になりますが、農業生産をするようになってからは6年です。以前は個人事業で農業生産をしていて、6年前から会社と一本化しました。

Q、従業員数(社員とアルバイト数、研修生の数)を教えて下さい。

A、正社員は4人で、男性が3人、女性が1人です。それに加えて、ベトナム人の実習生が8人です。アルバイトはいませんが、小松菜の収穫のときに歩合制で11人の方に来てもらってます。

Q、伊藤社長が農業を始められたきっかけを教えて下さい。

A、元々、農業をしていた父親の背中を見て育ったことが、私が農業を始めた一番のきっかけです。

Q、伊藤社長の経歴を教えて下さい。

A、飲食に興味があったので、高校卒業後は福岡県の中洲のバーで働いていました。そこでお客さんと話している中で、若いときに海外に行った方がいいと言われました。そのときは私はまだ20歳くらいだったので、今のうちに海外へ行っておこうと思い、1年間オーストラリアへ行きました。ただ、飲食店に勤めながら1人暮らしをしていると、なかなかオーストラリアに行くお金を貯められませんでした。お金を貯めるために、1年間実家の農業を手伝いました。その中で農業のおもしろさを感じました。元々父親の背中を見て育ったので、頭の中に農業をしてみたいという思いはありました。

そして、オーストラリアから帰ってきて、本格的に農業を始めました。父親が大葉を作っていたので、その手伝いをしながら自分でも個人事業で農業を始めました。一部の田んぼを分けてもらって、そこで露地栽培のロメインレタスを作っていました。だから当時は会社、父の個人事業、自分の個人事業と3経営ありました。そして2020年7月、会社の期が変わるタイミングで社長に就任しました。

Q、ベジハート株式会社の栽培作物を教えて下さい。

A、水菜と小松菜をビニールハウス栽培、ほうれん草とトウモロコシを露地栽培しています。

Q、ベジハート株式会社の栽培面積を教えて下さい。

A、ビニールハウスが約80棟、面積が3ha弱です。露地栽培は10haくらいで、1年に2回転しています。露地栽培ではホウレンソウとトウモロコシを栽培しています。

Q、ベジハート株式会社が農業生産以外で行っている他事業について教えて下さい。

A、現在は行っていません。

Q伊藤社長が会社を経営する中で最も気になることは何ですか?

A、労働生産性の向上と生産管理をもっとしっかりやりたいと思ってます。

Q、その理由をおしえてください。 A、生産管理については、GAP(農業生産工程管理)を今年度中に取得する予定です。生産量や品質をもっと磨いて、安全安心な野菜を安定出荷できるよう力を入れていこうと思ってます。それが人の感覚だけでは難しいところがありますので、それを補ってくれる機械を積極的に導入していますが、それを使いこなす人材も必要だと感じています。

ベジハート株式会社の人材育成について

Q、ベジハート株式会社の平均勤続年数はどのくらいですか?

A、1番長い人が8年、2年目の人たちが3名です。

Q、ベジハート株式会社の従業員の平均年齢はいくつくらいですか?

A、2年目の3人のうち2人は新卒なので20代前半。8年目の人が私と同級生で39歳です。3年くらい勤務して独立する人が多い中で、残ってくれる人が必要になってきます。だから独立して人が抜けても、仕事が回るような仕組み作りが必要だと感じています。

Q、人材育成は上手く行っていますか?

A、上手くいっていると思うタイミングもあれば、まだまだと思うときもあります。上手くいっていると感じるのは、客観的に見て社員が活き活きと仕事しているときですね。今回、2年目の社員を担当にしてなすを新しく作り始めました。「任せたよ」って言ったときはとても嬉しそうにしていて、そこから仕事に対する姿勢が変わりましたね。

反対に上手くいっていないと思うのは、負担が偏っていることですね。私はほとんど現場に入っていないので、8年目の社員に負担が偏っています。彼に負担をかけないような仕組み作りがまだまだできていないと感じます。これは私のやるべきことです。仕組みが変われば劇的に変わると思っています。この辺りは農業だけじゃなくて、違う業種の経営者たちにもいろいろ話を聞いています。

Q、人材募集は行っていますか?

A、行っております。

Q、人材募集はどのような方法で行っていますか? A、農業大学校への求人と農業専門の求人サイトに掲載しました。

ベジハート株式会社の生産管理について

Q、農業生産している中で一番苦労した点は何ですか?

A、毎年課題が出てくるので、どれが一番だとかあまり感じたことがありません。

今後、自分が想定している以上の事が起こってしまった場合、その時が一番苦労することになると思います。

Q、農業生産において独自で工夫されているところはありますか?

A、良いと思ったらすぐに取り入れて、試してみるところです。今回のセンスプラウトの潅水制御装置のように。

Q、現在、農業生産において困っていることはありますか?

A、新しい技術や機械がたくさん出てきている中で、それらを積極的に導入しようという思いはあります。しかし、そのノウハウを社内全体に落とし込むのに時間がかかっています。

Q、その問題解決のためにどのようなことをされていますか?

A、今までは「このシステムを入れよう」と、トップダウン方式で技術や機械を導入していました。でも、今はボトムアップのやり方に変えています。業務を細分化して既存の課題を洗い出し、それを解決するツールを導入しようとしています。社員自身が考える仕組みにしているので、社員の働く視点や意欲が変わってくると思っています。トップダウンで「これを使え」とすると導入の意図がわからず、社員の自主性を育てられません。だから経営者は、社員が能動的に働ける環境づくりをすることが必要ですね。なかなか難しいです。

伊藤社長が目指す農業の未来

Q、今後の展開について考えていることを教えて下さい。

A、生産については、既存品目の品質を上げてGAP・有機JASを取得し、安全安心を目に見えるかたちにしたいと考えています。また、新品目の生産にもチャレンジしています。葉物類では、植物工場の台頭がありますし、葉物野菜だけだと今後は厳しくなるかと思います。葉物類自体の価値を上げると同時に、新しい品目を作っていきたいと思います。根本にある事業の継続のために、会社を守るために攻めるという感じですね。

Q、伊藤社長が考える今後の農業のあるべき姿について教えて下さい。

A、今の販売価格は20年前や30年前とほとんど同じですよね。でも、生産原価は上がっています。そんな状況で、今後農業やっていく人が増えていくかは1つ懸念ではありますね。

未来の農家の為にも、野菜が適正価格で流通して欲しいと思ってます。

また、今後さらに機械化が進み生産量が増えると供給過多になるのではないかということも懸念しています。面積当たりの収量は確実に増えますが、国内需要は落ちます。だから海外に目を向けることも必要だと思います。

別の話になりますが、ベトナムで会社を経営する私の弟がようやく農業生産を始めました。その会社は父が創業して、今では父と弟がやっています。これについては私はほとんど関わっておりませんが、今後リンクできればと思っています。私の会社では、葉物類ととうもろこしの一部を香港に輸出しています。福岡県は輸出にとって地の利があると思うので、輸出はもう少し増やしていきたいと思います。

Q、伊藤社長から若手農家へひとことお願いします。

A、自分が農業を始めた頃は、野菜を生産して農協に出荷して終わりでした。でも、今では間を通さず、直接お客さんに届けられます。また、SNSによって自分の作った野菜がどこに行っているのか、直接人と会わずに情報を得ることができます。これは1つのやりがいになると思います。

昔は農協からどこへ届けられるのか情報がありませんでした。私たちが直売を始めたのは、それがきっかけです。社員のみんなに直接お客さんと接してもらって、やりがいを見出してもらいたかったのです。6月は収穫期間で非常に忙しいのですが、みんな楽しんでやってくれています。でも、それを継続するためには利益が必要です。利益を作るためには価値を見出して、適正価格で販売することが大切です。小ロットの生産だと1つの野菜に対する生産原価が高くなってきます。それを加味して販売価格に寄せようとすると、ほかの大量生産の野菜との価格比較ではないところで付加価値をどう出せるのかってことになると思いますね。

新規就農したい方は、農業に関わらず他業種を見た方がいいと思います。他業種を経験した上で農業法人で修行して独立すると、違うイノベーションが生まれてくると思いますし、これからの時代にマッチする農業を生み出せるのではないかと考えています。私が20年前に戻れるとしたら、絶対他業種で働いた経験を経て農業をやりたいです。違う業種からいろんなノウハウを学びたいです。

インタビューを終えて

インタビューの中で印象に残ったのは、農業生産についての苦労をお聞きした際、伊藤社長から回答をいただくのにお時間がかかったことです。

常にリスクに備えて準備されており、準備の中から最善の答えへ会社を導くという習慣が付いているからだと感じました。 小さな一歩から始めて、大きな未来へつなげる。今後の伊藤社長の展開に期待です。

Exit mobile version