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株式会社アグレア(障害者就労支援)堤 祐輔様 

堤 祐輔様について

元介護支援専門員として、2019年に新規就農されきゅうり栽培を開始。

2020年には障害者就労支援を行う株式会社アグレアを創業(サービス管理責任者・相談支援員)し、現在は農福連携に取り組む堤 祐輔様にお話をお伺いいたしました。

Q、農業を始めたて何年経ちますか?

A、令和元年9月に就農したので今年で3年目です。

Q、従業員数(社員とアルバイト数、研修生の数)を教えて下さい。

A、A型事業所に業務委託という形で運営しています。1日4時間で、利用者さん2~4名、支援員さん1〜2名に来ていただいています。

Q、堤様が農業を始められたきっかけを教えて下さい。

A、農業で稼ぎたいと思ったことと、時間的なことが理由です。

元々、父が兼業農家で米・麦・大豆を作っていて、1.5haほどの面積がありました。父が定年退職すると周りから農地が集まって、6haほどになりました。当時私はサラリーマンでしたが、6haの農作業は休日だけで出来てしまう程度でした。でもサラリーマンでは、給料は今後増えることはないだろうと感じていました。また、平日は仕事、休日は農業だったので、子どもと遊ぶ時間がありませんでした。それなら私か妻が専属で農業に従事したほうがいいと思ったので、サラリーマンを辞めて就農しました。

Q、堤様の経歴を教えて下さい。

A、中学校の頃に祖母が寝たきりになって、介護が始まりました。だから私にとって、祖父が介護している光景が当たり前でした。ちょうどその当時、介護保険が始まりました。それで「これからは福祉の時代」と思って、高校卒業後は福祉の専門学校に行きました。卒業後は障害者関係の仕事に就きたかったのですが、仕事がありませんでした。だから2年ほどビジネスホテルでアルバイトをしながら、障害者関係の仕事を探していました。そろそろ就職しないといけないというタイミングで、その当時増えていた特別養護老人ホームのデイサービスに就職が決まりました。そこで15年ほど、特養入所ケアマネージャーという仕事をしました。そこを辞めた後は1年半ほど農業研修を受けて、就農しました。

Q、栽培作物を教えて下さい。

A、施設栽培のきゅうりです。

Q、栽培面積を教えて下さい。

A、15aです。3連棟のビニールハウスで栽培しています。できれば他の土地も借りて規模拡大したいので、いろいろとアクションを起こしているところです。

Q、農業生産以外で行っている他事業について教えて下さい。

A、ありません。

Q、農業生産において堤様が最も気になることは何ですか?

A、販売です。

Q、その理由をおしえてください。

A、市場価格に左右されない販売先を確保したいと考えているからです。現在は全量JAに出荷していますが、売上は市場価格に左右されます。でも、従業員の雇用を考えると、来年は価格が上がるか下がるかわからないという状態では、迷惑をかけてしまいます。それなりの品質の作物を作ったら、それなりの価格で買ってもらえるような販売先を確保したいですね。

販売戦略について

Q、主な販売先はどちらですか?

A、JAです。

Q、直販されていますか?

A、妻のInstagramなどSNSを使って直販している感じですね。あとはオンラインマルシェに出店してみました。動画に出演して、そちらでも販売させてもらいました。他には農業の良さを伝えるために、農業体験も開催しています。

Q、販売戦略において苦労されていることはありますか?

A、JAに代わる販売先を見つけることです。15aの面積だと、多い日で200~300kg収穫できます。それだけの量を引き取ってくれる販売先探しに苦労していますね。

Q、販売戦略において工夫されていることはありますか?

A、販路を拡大しようと、今まさに勉強しているところです。

人材育成について

Q、平均勤続年数はどのくらいですか?

A、1年ほどです。私が就農3年目に入ったばかりで、雇用も去年の9月から始めました。

Q、従業員の平均年齢はいくつくらいですか?

A、30代半ばです。固定メンバーではなくて、7、8人の利用者さんの中から1日に2~4人来てくれる感じですね。

Q、人材育成は上手く行っていますか?

A、最初は上手くいっていませんでしたが、栽培方法を変えて上手くいくようになりました。

Q、その理由をおしえてください。

A、最初は摘心栽培という方法で利用者さんに収穫してもらっていました。でもそれだと上手くいかず、無駄が多いと感じていました。それから更新型つるおろし栽培に変えると、収穫時間が早くなりました。簡単な指示で済むから私自身も気持ちに余裕が生まれて、利用者さんに対してできないことを追求するのではなくて、できたことを褒められるようになりました。利用者さんも自信を持ってできるようになりました。お互いの声掛けが生まれたり、相手にとって見えにくい場所にあるきゅうりを代わりに取ってあげる気遣いも生まれたりしました。「きゅうり栽培の仕事が楽しい」とも言ってもらえましたね。小さな成功体験を積み重ねたことで、自信が芽生えたのかもしれません。

だから栽培方法を変えて、双方にメリットがありました。私も利用者さんたちに育ててもらっている感覚になりました。

Q、人材募集は行っていますか?

A、していませんが、規模拡大に向けて少しずつ動いているところです。

Q、人材募集はどのような方法で行っていますか?

A、就労継続支援A型事業所を通じて募集しています。

※就労継続支援A型とは、障害や難病のある方が、雇用契約を結んだ上で一定の支援がある職場で働くことができる福祉サービスです。

Q、人材採用で苦労されている点について教えて下さい。

A、大きな苦労はありません。逆に就労継続支援A型事業所の担当の方に、規模拡大のことなどを相談できるような、良いお付き合いをさせていただいています。その方は、私が福祉関係の資格を取りに行ったときに知り合ったとても印象の良い方です。それから今の関係が始まり、雇用関係を中心にお願いしている感じです。

堤様が目指す農業の未来

Q、今後の展開について考えていることを教えて下さい。

A、来年、国庫補助事業に申請して、圃場の横に千坪ほどの農業ハウスを建設しようと動いています。それに合わせて、離農される方とかからビニールハウスを借りて、規模拡大をしようとしています。生産面積を広げることで、スケールメリットも出てきたらいいなと思います。あとは就労継続支援A型事業所を運営して、農福連携にも力を入れていきたいと考えています。他にも障害者の方のグループホームの運営とか、B型事業所の運営も手掛けていきたいですね。

私は福祉系の専門学校を卒業して障害者関係の職に就きたかったのですが、その夢はまだ叶っていません。だから福祉系の国家資格も取ろうとして、勉強しているところです。実際に障害者の人たちと接するようになってからは、人を育てるとか、障害者の社会進出とか、地域の受け皿とか、そういったことも視野に入るようになりました。だから障害者の支援を始めてから、私にとってはプラスのことばかりですね。

Q、堤様が考える今後の農業のあるべき姿について教えて下さい。

A、就労継続支援A型事業所を運営することで、地域の農業を助けられればいいですね。就農してから青年部に入りましたが、みんな高齢化や代替わりで悩んでいます。うちも、以前は米の種まきは親戚一同が集まるイベントのようで、みんなで楽しく作業していました。でも今では平均年齢が70歳近くなったので、作業負荷が大きく、ただの労働になっています。義務感でやっているような感じです。だから私が就労継続支援A型事業所をすることで、地域を盛り上げたり、所得が上がるようにしたいと思いますね。

また農業者同士、もっと建設的な話し合いをするべきだと思います。例えば、補助金の話でも、補助金の使い方ではなく、補助金をもらうことが目的になっています。補助金が前提の経営ではなくて、どうしたら生産効率が上がるかとか、どうしたら単価を上げられるかといったところに目が向くようになればいいと思います。

Q、堤様から若手農家へひとことお願いします。

A、私がサラリーマンのときは、一番遅く出勤して一番早く帰るような、あまり良いサラリーマンではありませんでした。でもサラリーマンを辞めて農業を始めると、お金を稼ぐという意識が芽生えました。今ではサラリーマンで稼いだ1万円と農業で稼いだ1万円では、後者の方が価値が高いように感じます。その理由は気持ちの変化です。やっぱり農業を始めて、従業員の雇用を守るとか、家族の生活を守るといった意識が強くなっています。だから収入や環境だけを考えると農業は厳しい業界ですが、やり方次第でまだまだ無限の可能性がある業界だと思います。私も経営者として見本になれるように、また新規就農者さんの相談に乗れるように頑張ります。

インタビューを終えて

障害者支援を志し、福祉医療専門卒業。しかし、就職口は少なく苦労されたとのこと。しかし、その志を忘れることなく、新規就農をされ農福連携を実践されております。

今後の展開で、栽培面積の拡大とともに就労支援施設の建設も視野に入れられておりますので、きっと、農業での働き方の多様性の形を作って頂けると思います。

笑顔で農作業をされる皆さんの顔が印象的でした。

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