有限会社伊万里グリーンファームについて
1991年3月に設立され、今年30周年を迎えた有限会社伊万里グリーンファーム。
当時としては、農業を法人化する生産者は少なく、農業法人の先駆者と言っても過言ではないでしょう。
そのような歴史のある会社の未来を背負って立つ、有限会社伊万里グリーンファームの取締役である前田 修造様にお話をお伺いいたしました。
取締役 前田 修造様
有限会社伊万里グリーンファーム
Q、有限会社伊万里グリーンファームの創立は何年ですか?
A、1991年(平成3年)3月27日に創立して、今年でちょうど30年です。
Q、従業員数(社員とアルバイト数、研修生の数)を教えて下さい。
A、正社員が15名、パート・アルバイトが10名です。研修生はいません。
Q、前田取締役が農業を始められたきっかけを教えて下さい。
A、前職は大手コンビニエンスストアの社員でした。それが天職だと思っていたので辞めるつもりはありませんでしたが、「新社屋を建てるから帰ってきてくれ」と言われ、仕方なく帰ってきたことが農業を始めたきっかけです。「農業がやりたい」と思っていたわけではなく、家業を継ぐために農業を始めました。
Q、前田取締役の経歴を教えて下さい。
A、地元の商業高校を卒業後、大手コンビニエンスストアに就職しました。そこでは5年間働かせていただき、東京→愛知県→福岡県→佐賀県→伊万里市と異動しました。仕事の内容はスーパーバイザーです。でもフランチャイズなので、僕に指示命令権はありませんでした。だから具体的な数値を出すなど伝え方を工夫して、オーナーや従業員さんにどう動いてもらうかを考えていました。おかげで数字に強くなりました。人にも恵まれていたので、好きな仕事でした。23歳のときに会社を辞めて、半年間、滋賀県の知り合いの会社に修行に行って、伊万里に戻って就農しました。前職では物流や小売りなど、売る側のプロフェッショナルとして働いていたので、今度は作り手として、売り手のことを考えながら製品を作っています。
Q、伊万里グリーンファーム株式会社の栽培作物を教えて下さい。
A、小ネギです。
Q、伊万里グリーンファーム株式会社の栽培面積を教えて下さい。
A、ビニールハウスが66棟で、面積は2.6haです。すべて施設園芸です。
Q、伊万里グリーンファーム株式会社が農業生産以外で行っている他事業について教えて下さい。
A、自社で生産したものを工場に持ち込んで、カットネギや乾燥ネギ、6次化商品にしています。食品工場へ原料を持ち込み、自分たちで作っているイメージです。青果の販売はほとんどしていません。
Q、前田取締役が会社を経営する中で最も気になることは何ですか?
A、人材育成と生産管理です。
Q、その理由をおしえてください。
A、そろそろ工場の世代交代が必要なので、人材育成が気になっています。今の主力の社員は50代がメインなので、30代・40代にシフトしないといけません。だから世代交代を進めているところですね。
生産管理は、ここ数年天災が多いから気になっています。特に九州北部は毎年のように大雨が降ります。何十年に1回の大雨が毎年あります。伊万里市は3年連続で大雨が降って、川が氾濫しかけたり、田んぼが海のようになったりしました。今後は天災との戦いになるので、今までのやり方が正しくなくなるかもしれません。
伊万里グリーンファーム株式会社の人材育成について
Q、伊万里グリーンファーム株式会社の平均勤続年数はどのくらいですか?
A、入社したら1年未満で辞めるか、ずっと働いてくれるかの2つに分かれます。僕が入社する前から働いている方もたくさんいます。
Q、伊万里グリーンファーム株式会社の従業員の平均年齢はいくつくらいですか?
A、生産の従業員は30代、工場は40代後半から50代が中心ですね。生産は基本的に男性、工場は女性が中心です。
Q、人材育成は上手く行っていますか?
A、上手くいっている点と上手くいっていない点があります。
Q、その理由をおしえてください。
A、工場についてはHACCPのJFE-B規格を取得しているので、衛生面では県内トップクラスとよく言われます。だから衛生的な意識に関する人材育成は上手くいっていると思います。
上手くいっていない点は、軽度の障害をもった人の教育ですね。20歳の男性が1人いますが、少し記憶力が弱く、筋力もあまりありません。今は仕事を選んで作業させている状態なので、どうやったら作業を覚えてくれるか悩んでいます。今後そのような人材も採用する中で、教育方法を考えていく必要があります。作業マニュアルはありますが教育に関するマニュアルはないので、指導方法もマニュアル化しないといけないかなと感じています。
Q、人材募集は行っていますか?
A、今はしていませんが、生産は1人募集しようと思っています。2年前に1人独立して辞めて、そこから新しい人材を入れていないので、1人募集して生産体制を整備したいと考えています。天災の対策・修復も、もう1人いればいいなと感じますね。
Q、人材募集はどのような方法で行っていますか?
A、佐賀県の農業大学校とハローワークに求人を出そうと思っています。今から社会人としての基礎を作る、若い人材を求めています。すでに農業法人で働いていたりすると、うちのマニュアルではなく、前の職場のやり方で作業する人がいます。即戦力ですけど、長い目で見るといつのまにかマニュアルから逸脱した形で作業されると困ります。経験がものを言う作業もありますが、まずは作業に慣れてもらうところから始めるので、ゆっくりと経験を積み上げていってもらえばいいと思います。
Q、人材採用で苦労されている点について教えて下さい。
A、過去には、求める人材像とマッチしないことがよくありました。農業初心者でも、履歴書が使いまわしだったり、「農業にどんなイメージがありますか」と聞いても返答がなかったりと、やる気のない人がたくさんいました。前職の経験があるので、履歴書を見ればすぐにやる気がないとわかります。
伊万里グリーンファーム株式会社の生産管理について
Q、農業生産している中で、一番苦労した点は何ですか?
A、今は天災との戦いに苦労しています。何十年に1回の大雨が毎年のように降り、暖冬と酷暑も続いています。僕が学生の頃は35度を超えると暑いと思っていましたが、今は35度が普通。38度を超えると暑いと思うほどです。40度になることもありますよね。今までの栽培方法だと難しくなっていると思います。だから何が正解なのか常にアンテナを張りながら情報収集し、品種の見直し・潅水のやり方・肥料のやり方などいろいろ試しています。例えば、夏用の品種でも「本当にこれでいいのか」と思って、社長の代から品種を変えました。環境が変わるから、その環境にあわせて生産管理していく難しさがあります。
Q、それはどのように解決されましたか?
A、アンテナを張って情報収集して実践しています。僕はいろんな役をさせてもらっています。伊万里の4Hクラブの会長が3年目、佐賀県農業法人協会の若手会の事務局長、異業種交流の中小企業同友会の伊万里・唐津エリアの役員などです。若手会では熊本県との交流もしましたし、今後は大分県や福岡県との交流も考えています。個人で展示会にも行っています。そうやって情報を集めながら、いろいろ模索している状況です。
Q、農業生産において独自で工夫されているところはどのような点ですか?
A、リスク分散のために、最低でも2品種、できれば3品種の種を撒くようにしています。ネギの種は海外で作っているので、粒の大きさや数が毎回違います。発芽率は担保されているものの、作ってみるとうまくいかない可能性もあります。その年作った種が100%いいとは限りません。だから複数の品種を育てることで、リスク分散しているのです。今は夏用と冬用、計4品種栽培しています。また、種苗屋さんに話をして、新しい品種ができたらサンプルをいただいてテストするようにしています。そして良く育つようであれば導入しています。
Q、現在、農業生産において困っていることはありますか?
A、夏場の酷暑と台風、大雨といった天災です。
Q、解決に向けて取り組んでいることを教えて下さい。
A、台風対策として、新しいハウスバンドがあったらサンプルをもらって試すようにしています。酷暑対策は、寒冷紗と遮光材です。でも常に遮光してほしくないので、遮光材の使い方には悩んでいます。あとは潅水の時間ですね。午前9時までに潅水して、昼間はしない。そして夕方4時、5時くらいからかけ始めています。解決に向けてというよりそうせざるを得ない状況です。
前田取締役が目指す農業の未来
Q、今後の展開について考えていることを教えて下さい。
A、今はすべて施設栽培ですが、露地栽培を始めて、品目を増やそうと考えています。九州といえば昔から小ネギの産地でした。しかし産地が拡大したことでその印象が薄れました。さらに京都の九条ネギや関西の青ネギも九州に入ってきて、小ネギだけだと厳しいのが現状です。もちろん僕たちは価格競争に巻き込まれないように、高い品質の小ネギを作っています。でも、今では一社でカットの小ネギ・青ネギ・白ネギを出している会社があるので、今後は小ネギだけで勝負するにはさらに厳しい世界になるでしょう。だから青ネギを露地で作ろうと考えています。特に品質にはこだわろうと思います。実はかつて研修していた滋賀県の農家は青ネギ農家でした。味が抜群に良くて、僕たちより後にカットネギを始めたのに、売り上げを越されてしまいました。そんな師匠がいるので、教えを請いながらやっていくつもりです。でも、基本はネギ1本でいくつもりです。多品種になると作り方も変わるので、環境も変えないといけません。白ネギも手間がかかりますから、露地で小ネギと青ネギを作ろうと思います。
Q、前田取締役が考える今後の農業のあるべき姿について教えて下さい。
A、今後の農業のあるべき姿は、好きで農業を始める人も増えて、ビジネスとして農業を始める人や企業も増える。そこに競争が生まれて、よりいいものを消費者のみなさんにお届けできるような縮図ができればおもしろいと思います。団塊の世代の人たちが徐々に高齢化して農業者の数も頭打ちになっている中で、放置される圃場やハウス、田んぼが増えます。でも野菜は絶対食べるものです。TPPなどの関係で海外産の農産物も入ってきますが、日本人は国産にこだわる方が多いです。だから農業はチャンスがあると思います。実際に農業者数は減っていますが、農業法人の数や1人あたりの耕地面積は増えているので、2極化傾向は出ているのかなと思っています。
Q、前田取締役から若手農家へひとことお願いします。
A、農業の魅力は、サラリーマンと違って自分がやった分が数字で見えることだと思います。サラリーマンで月100万円稼げる企業は少ないですが、農業では20代で月100万円稼いでいる人がいます。好きで農業を始めるのもいいですが、ビジネスとして突き詰めるとやった分の収入が増えて、生活が豊かになります。世の中お金じゃないという方もいますが、お金はあって困りません。だから農業には夢があります。
また、農業には同業者同士の仲間意識があります。他の業種だと自社の技術が盗まれないようにしますけど、農業だと栽培技術を共有することをためらう人はあまりいません。だから困ったら先輩に聞けるし、最近では普及センターもあります。教えてもらえる環境があるので、夢に向かって行動していけば、夢はかなうと思います。夢をもって計画、準備して、行動につなげてください。
インタビューを終えて
収益化が難しいとされる、6次化を見事に軌道に乗せられた現社長。
しかし、競合他社の参入や物流の発達に伴い、地域外から商品流入などにより市場環境は変わっていきます。
それらに立ち向かうべく就農された前田取締役は、未来の農業を『好きだから農業をする人』と『ビジネスとして農業をする人』の2極化になるであろうと予測されておりました。
今後、前田取締役はビジネスとしての農業をさらに拡大し、そのお手本となることでしょう。