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株式会社クラベル・ジャパン 平田社長様

株式会社クラベル・ジャパンについて

2017年に法人化し6年目となる株式会社クラベル・ジャパンですが、農家としての歴史は深く、平田 憲市郎社長は60年続く3代目となります。

個人事業主の仕事のやり方と法人での仕事のやり方を明確に切り分け、第二の創業でさらなる躍進をめざす現状についてお話を伺いました。

株式会社クラベル・ジャパン

代表取締役社長 平田 憲市郎様

https://clavel-japan.jp/

Q、株式会社クラベル・ジャパンの創立は何年ですか?

A、2017年1月です。60年続く農家で、私で3代目になります。

Q、従業員数(社員とアルバイト数、研修生の数)を教えて下さい。

A、役員が4人、正社員が4人、アルバイトが35人です。

Q、平田社長が農業を始められたきっかけを教えて下さい。

A、私はずっと野球をしていて、甲子園の監督になりたかったので、大学で教員免許を取得しました。そのタイミングで、父親に「将来何をしたいんだ」と聞かれました。その裏には継いでもらいたい気持ちがあったようです。その事をずっと考えて、唐津に帰省したときに継ぐと決めました。結局、先生になりたいわけじゃなくて、野球に携わりたかったのです。それは事業が落ち着いたタイミングでできればいいので、後回しにしようと思いました。

Q、平田社長の経歴を教えて下さい。

A、私は自分の家が農家なのが嫌で、手伝いもほとんどしたことがありませんでした。だから高校は普通科高校に行きました。大学は東京農業大学の農学部です。農大とはいえ、卒業後に就農する人は1割程度です。でも、その1割は業界では有名な生産者の跡継ぎが多く、話をしているとスケールの大きさに圧倒されて、すごい刺激をもらいました。そして、自分の考えの浅さに気づかされました。卒業後は、札幌にある花の卸売市場に就職しました。当時、祖父も父親も業界では有名でした。2人とも農林水産大臣賞を受賞していましたし、当時メインの出荷先の札幌では、日本一の高値で販売していました。そのため、技術を学ぶことは実家に帰ってできると思っていたので、市場で流通を勉強しようと思いました。市場では、唐津や他の産地のカーネーションを扱いながら、売り方や箱のデザインなどを学びました。また、市場の仕事が休みの日はホテルの結婚式場で働いていました。そこではカーネーションの使い方を勉強しました。1年くらい札幌で働いて、25歳のときに唐津に帰って就農しました。就農してからは、流通で学んだ情報を業務に活かしています。

Q、株式会社クラベル・ジャパンの栽培作物を教えて下さい。

A、カーネーションと唐辛子です。

Q、株式会社クラベル・ジャパンの栽培面積を教えて下さい。

A、カーネーションが2000坪、唐辛子が1500坪です。

Q、株式会社クラベル・ジャパンが農業生産以外で行っている他事業について教えて下さい。

A、6次化と青果物卸をしています。6次化商品はスキンケアや雑貨です。費用対効果を考えると、6次化は難しいと感じています。

Q、平田社長が農業を行う上で最も気になることは何ですか?

A、人材育成です。

株式会社クラベル・ジャパンの販売戦略について

Q、株式会社クラベル・ジャパンの主な販売先はどちらですか?

A、カーネーションは花市場、唐辛子は生花市場です。合わせて40ヶ所くらいに出荷しています。私が就農したころは2ヶ所しかありませんでしたが、そこから拡大したと思います。唐辛子に関しては全国シェアの1/3を出荷しています。国産の唐辛子は1%ほどしかありません。だから唐辛子を出荷している市場から、始めは「いくらで売ればいいですか」と聞かれましたね。

Q、株式会社クラベル・ジャパンは直販されていますか?

A、しています。B to Cだと大手通販企業、B to Bだと大手コンビニや大手百貨店です。カーネーションを生産して花束にして直送できるのは、全国でも弊社しかありません。

過去にはテレビショッピングでも販売しました。20分で1,000セット売ったこともあります。でも、1年で辞めました。テレビショッピングをやったのは「安い」「お得」というイメージが本当か、1回やって事実を知りたかったからです。また、洞察力を磨きたかったことも理由です。農業は「曇りだったから咲きませんでした」と、天気を言い訳にできます。でも、ビジネスの世界ではそんな言い訳は通りません。テレビショッピングでは、3日で2万本そろえるのを、欠品・クレームなしでやりました。おかげで今では、いつ花が咲くタイミングになるかがだいたいわかります。それで、テレビショッピングをやり切ったタイミングで大手コンビニから話が来ました。コンビニ業界は日本一品質管理が厳しいといわれています。でも、最終的に何年間にも渡って商品を取り扱ってもらっています。テレビショッピングで出荷の仕組みが出来上がっていたのが大きかったのでしょう。単価も倍になりました。大手百貨店にいたっては「大手コンビニさんで扱っているならぜひ」と、商品を見るまでもなく決まりました。

他には、母の日には農場でフェアをしています。プレスリリースも出して、自分で好きなカーネーションを収穫してもらいます。おかげさまで、毎年お客さんが増えています。

Q、販売戦略において苦労されていることはありますか?

A、母の日という一番忙しいタイミングに、花束を作るという専門的な作業があることですね。他の作業はマニュアルを作って誰でもできる仕組みにしているのに、花束だけ専門性が必要です。来年の母の日はゴールデンウィークが近くの5/8。だから専門性のある仕事を残すより、他の事業に人や資材を投入したほうがいいかなと考えています。それが今年から来年にかけてのミッションですね。

Q、販売戦略において工夫されていることはありますか?

A、販売戦略を練って売上を伸ばすよりも、会社の人たちが働きやすい環境になっているかを判断するようにしています。売れているから続けるのではなく、全体を見てやるべきかどうかの見直しをしています。働きやすくて生産性も高ければ、売上も上がる。そんな状態を目指しています。売上が出ているけど現場が疲弊するようなことはしません。

株式会社クラベル・ジャパンの人材育成について

Q、株式会社クラベル・ジャパンの平均勤続年数はどのくらいですか?

A、約3年です。

Q、株式会社クラベル・ジャパンの従業員の平均年齢はいくつくらいですか?

A、34歳です。上は会長で68歳、下は18歳です。

Q、人材育成は上手く行っていますか?

A、今のところはうまくいっていると思います。

Q、その理由をおしえてください。

A、弊社はミーティングの回数が多いことが特徴です。事務所で1、2時間ほど徹底的に話し合います。内容は、業務のことや理念、この先のビジョン、売上の達成度合いなどです。みんなの意見も積極的に聞いています。例えば、「給料どうやったら増えると思う」と聞きました。すると社員の1人が「残業すれば増えます」と答えました。間違いありませんが「残業せずに増えたらもっといいよね」と言うと、「そんなことできますか」と言われました。生産性を上げればいいのです。それからは毎月の売上が目に見えるように、手書きのグラフを作りました。目標や去年の実績も記入して、自分たちの仕事の成果が見えるようにしました。それで売上が目標を超えれば、社員たちに還元するようにしています。昔は指示ばかりしていましたが、“指導“するように心がけています。

また、取引先の人とも一緒に仕事をするようにしています。例えば社員を売り場に立たせて、取引先やお客さんと出会う機会を作っています。今年で言うと、福岡空港でJALとタイアップしてカーネーションを売りました。そこに毎日入れ替わりで社員を行かせて、自分たちの作ったカーネーションがどこで売られていて、どんな人に喜んでもらっているのか実感してもらいました。こうやって気づきや経験を与えることで、会社がうまく回り始めました。

悩みがあるとすれば、若い社員がこのまま順調に育ってくれるかということです。

社員は30歳の幹部社員と、25歳の女性が2人、18歳の新卒が1人います。この子たちは高校時代までは先生や親の言われたように生きてきました。言われないと動かないということではなく、それが当たり前の世界に生きてきたということです。それがここ3年かなり変わってきました。このまま順調に成長してくれるか、じっくりと見守りたいと思います。

Q、人材募集は行っていますか?

A、しています。毎年新卒を採用していて、今年も複数名の応募が来ています。

Q、人材募集はどのような方法で行っていますか?

A、正社員はハローワークで募集します。求人票を作って、私が直接、各高校の進路指導の先生に渡しに行きます。そこで「うちはこんな会社です」と話をしています。

カーネーションのアルバイト・パートさんは求人を出しません。今まではずっと口コミや働いている人の紹介で来てくれました。来ている人が紹介してくれるのは、それだけやりがいや居心地の良さを感じているということでしょうか。嬉しいですね。

唐辛子のアルバイト・パートさんはSNSで広告を出しています。細かくターゲティングができるので、いつもたくさんの応募がきます。ハローワークは見ないと分かりませんが、SNSは自然と目に入ってくるのが強みですね。

Q、人材採用で苦労されている点について教えて下さい。

A、ありません。

平田社長が目指す農業の未来

Q、今後の展開について考えていることを教えて下さい。

A、たくさんの人を雇用して、唐津市の活性化につなげたいと思っています。唐津市はこの10年で人口が1万人減っています。地域活性化はさまざまな方法がありますが、そこに住んで仕事ができないと意味がないと思います。だから経営者が地域活性化の鍵を握っています。そのために事業を大きくして売上を上げて、雇用を生みたいと考えています。農業は地産地消ではなく、地産他消です。外貨を引っ張ってこれる産業なので、どんどん外貨を獲得して従業員を豊かにして、地域を豊かにしていきたいですね。農業は手作業が多いので、雇用を生みやすいです。例えば唐辛子の袋詰めは、市内10ヶ所ほどの障がい者事業所に委託しています。そこで仕事が生まれるから、事業所の方にはすごく喜んでもらえています。この感覚は、カーネーションだけを作っているときはありませんでした。花は自分が思うきれいかどうかを人に喜んでもらうところがありましたが、唐辛子にはそれがありません。雇用を生むという誰もがわかる形で人の役に立てていると感じるので、楽しいと感じています。

Q、他にも検討している新規事業などはありますか?

A、今、相談を受けているのが、亀島のミカンについてです。呼子の向こうにある亀島は、あまなつの産地でした。でも今は、2軒しか生産者がいません。そのうち1軒は半農半漁です。そこの漁場をM&Mで買って、海洋養殖を始めます。私もグループ会社の役員として関わっています。そして、手が回っていないあまなつの収穫を手伝って全部買い取り、販売しようと思っています。そうすればうちは作るリスクがないし、農家さんは売るリスクがありません。これを「アグリ商社」と呼んでいて、都市と農業をつなぎ直す役割を担わせたいと考えています。作った人が売るのではなく、作る人と売る人が対等な関係を築く。上下関係があるとうまくいきません。作る人と売る人、お互いの事情がわかっていると、横の展開も広がります。

他にも、北海道でカーネーションを作ってくれという話もあります。農地は調達してくれるので、うちはマニュアルを持って行くだけです。

また、コロンビアのカーネーション栽培の技術指導もしています。日本で販売されているカーネーションの7割がコロンビア産です。コロンビアのカーネーションは1ヶ月かけて船で日本に運ばれるので、店頭に並んでも品質が維持できません。だから花の売れ行きを決めるのはコロンビア産です。つまり、コロンビア産のカーネーションがもっと良くなれば、もっと売れると思います。足元ではなく将来を見据えて、業界が良くなることをする必要があると思います。

Q、平田社長が考える今後の農業のあるべき姿について教えて下さい。

A、農業は人間が操作できない天気を相手にしているから、農家はもっと勉強しないといけません。大学を出て、ビジネスとして農業を取り組まないといけないと思います。作業の勉強ばかりではなくて、経営の勉強も必要です。私もまだ道半ばですが、人を活かす経営を意識しながら試行錯誤しています。

Q、若手農家やこれから農業を目指す人達へ一言お願いします。

A、今、新規就農する人は、スローライフや有機、自給自足と言う人が一定数いますよね。自分の理想を追い求めることも大切ですが、それだと事業になりません。高校を出て、学生気分でできるわけないし、経験値も上がりません。よく先輩たちが「毎日1年生」と言われますけど、それは自分が素人だと言っているようなものだと思います。知識や経験を積み上げないと意味がありません。

3年前、知り合いの花屋さんに「平田さん。今日久しぶりに生産者とお話して衝撃でしたけど、30年前に天気を悩んでいた人たちが、30年経ってまだ悩んでるんですか?」と言われました。でも私は、天気がどうであれ、作物を作れるのがプロだと思っています。農業よりも会社経営という感覚をもたないといけません。みんな作業の勉強ばかりして、経営の勉強はしていません。私もまだ道半ばですけど、人を活かす経営を心掛けていたら、コロナ禍でも売上が150%になりました。人の力でアイデアが生まれ、お客さんや流通の捉え方が変わって良くなっています。

インタビューを終えて

世代交代で農業を継続するに当たり、事業継承で悩んでいらっしゃる方も多いかと思いますが、

平田社長の場合は、自分の経営方針を数字で示して会長説明することで、理解を得ることが出来たので、事業継承がスムースだったのではないかと思いました。

経営者としては、チャレンジする実行力・やめる判断力・任せる勇気、他にも様々な失敗を経て、会社経営に必要な力を備えられてきたと感じました。

花卉以外の新しい事業の今後も楽しみです。

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