目次
自動潅水における研究結果について
研究①「点滴潅水がメロンの生育に与える影響」
研究②「点滴灌水を用いた露地栽培なすの施肥方法」
研究③「自動チューブ潅水によるキャベツ育苗」
研究④「IoTによる栽培技術と自動潅水教材の開発」
自動潅水における研究結果について
今日では、アグリテックやスマート農業といったキーワードに代表されるように、農業のIT化やIoT化が進行し、各都道府県の農業試験場や様々な大学で自動潅水を用いた栽培における研究が実施されています。
例えば、自動潅水と手潅水における農産物の生育比較や、自動潅水が植物の生育メカニズムに与える影響を検証する研究などがあります。これらの研究結果は、実際の農業の現場でも用いられ、ムラのない生育・効率的な農業の実現に欠かせない情報です。
ここでは、世に出ている論文から、近年の自動潅水における研究結果をご紹介します。
また、自動潅水にも点滴潅水や地表潅水、頭上潅水があり、栽培方法にもビニールハウス栽培や露地栽培などがあります。研究目的や検証方法が異なる研究をご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
研究①「点滴潅水がメロンの生育に与える影響」
最初にご紹介するのは、愛知県の農業総合試験場が2003年に発表した研究です。
ビニールハウスでメロン栽培を行い、点滴潅水の潅水パターンによって、どのような生育と品質の影響を及ぼすかを調査した研究結果をご紹介します。
潅水パターンは、①土の湿り具合を示すpF値を感知して低くなったら自動的に潅水するパターン、②設定した時間にpF値が低ければ潅水をキャンセルするパターン、③手動で潅水装置のタイマーを調整するパターンで検討しました。
まず、①と②を比べると、①のpF値を感知して自動的に潅水するパターンの方が、各生育ステージや天候に合わせた効率的な潅水ができました。また、①では潅水量と日射量に相関関係があり、果実は肥大し、外観もよく、糖度は15.5%と高くなりました。さらに、①は③と比べても省力的な結果になり、①のpF値を用いた潅水パターンが最適だと考えられます。
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010691317.pdf
研究②「点滴灌水を用いた露地栽培なすの施肥方法」
次にご紹介するのは、近中四農研機構が2013年に発表した研究です。
自動潅水制御装置を用いてなすを露地栽培し、リン酸減肥を検討する実験です。この実験に用いられたのは、日射制御型拍動自動潅水装置と言って、ソーラーパネルを併設し、日射量から潅水量と追肥量を決定する仕組みです。比較的低コストで装置を導入できます。
この研究では、液肥価格の高騰や畑に蓄積されるリン酸肥料の減量を検討しています。検証する施肥設計は、①慣行区②減肥した点滴(液肥)潅水区を設けました(詳細の施肥量は省略)。点滴潅水は作物の株元に直接養水分を補給することができるので、肥料の効率的な利用が見込まれています。
収穫量を比較すると、①よりも②の点滴潅水区の方が1割増加しました。また、施肥量も①に比べて②の点滴潅水の方が、収穫量が多いにもかかわらず、窒素は18%、リン酸は25%減肥することができました。
このように、点滴潅水は、施肥量を減少させるだけでなく、収穫量を向上させることにも繋がることが分かりました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dohikouen/59/0/59_132_2/_article/-char/ja/
研究③「自動チューブ潅水によるキャベツ育苗」
次にご紹介するのは、群馬県農業試験場が2003年に発表した研究です。
自動灌水装置で潅水チューブを使ってキャベツに水やりを行う育苗試験です。この研究では、pF値測定センサーやデジタルタイマー、制御装置と上部潅水が可能な資材の組み合わせでキャベツのセル育苗を実施しました。
この研究では、pF値測定センサー・デジタルタイマーや潅水制御装置を組み合わせ、個人農家でも少ない労働力で品質の苗を大量生産できるようにすることを目標としています。研究の中では、①片側散水用ホースと両側散水用ホース、スプリンクラーを使った散水のムラがどれくらい出るのかについての試験。そして、②苗の生育状況の比較試験を行っています。
まず、①の異なるホースを使った散水ムラの試験についてですが、片側散水用ホースと両側散水用ホースを比較すると、片側散水用ホースの方が散水ムラは少なく、育苗箱2枚分の幅に限定すると、より精度が上がることがわかりました。また、片側散水用ホースとスプリンクラーを比較しても、片側散水用ホースを使った方が優れた散水ができることが分かりました。さらに片側水用ホースを使うと、手潅水に最も近いデータが得られたことから、農家の方が少ない労働力でこれまで以上の高品質な苗を生産できることが考えられます。
次に、②の苗の生育状況の比較試験について、自動潅水と手灌水で条件を変えて検証しました。潅水量で見ると、自動潅水では手灌水に比べて5割増になりました。一方、定植時の苗の状態をみると、葉の枚数や草丈は、自動潅水と手灌水で有意な差はないことが分かりました。このことからも自動潅水装置を使うことで、少ない労働力で高品質な苗を生産できると言えるでしょう。
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030682252.pdf【サブタイトル】研究④「IoTによる栽培技術と自動潅水教材の開発」
研究④「IoTによる栽培技術と自動潅水教材の開発」
最後にご紹介するのは、東北大学、東北大学院が2018年に発表した研究です。
IoTを使った栽培技術と自動潅水教材の開発についてです。(近年の地震や大雨などの自然災害が農業にもたらす影響や、農業界に根付く高齢化の課題解決に向けて、IoTによる栽培技術が注目されています。
各種センサーや衛星画像、タイムラプス画像と蓄積された栽培データをもとに、潅水・温度・照度などを遠隔操作して栽培する実験が繰り返されています。また、世界的な気候変動に伴って、コーヒーの栽培が減少する可能性が危惧されています。そこで、気候条件の異なる東北地方で、コーヒーの木を遠隔操作で試験栽培しています。
このようなIoTによる栽培技術と合わせて、土壌の湿り具合を一定にたもつ自動潅水技術などが一つの教材としてまとめられ、「IT農学」という新しい学問が誕生しました。この学問を通して、新しいアイデアが生まれ、農業・農村が活性化することが期待されています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tsjc/2018/0/2018_28/_article/-char/ja/